日なた
外は青空が広がる晴天。
窓から差し込む陽射しもぽかぽかと暖かで、今日がいかに外出日和なのか教えてくれている。
微かに耳に届く声は、近くの子供たちが遊んでいる歓声だろう。
「………チクショウ、ムカつく…」
草薙京はベッドの中で身を屈めるように丸くなりつつ、そんなその外の陽気についつい恨みがましい気分になる。
なんだって自分が動けない時に、こんなにツーリング日和なんだろう。
まだ春というには早過ぎるが、冬が明ける予兆のようなこんな日に、どうして自分は寝床に閉じこもってなけりゃいけないんだ。
そしてまた、延々とそんな文句を心の中で京は並べ立ててみる。
どうしても諦めがつけられないらしい。
京と同じように、同じ窓から外を眺めた八神庵は深々と溜め息をひとつ落とす。
拗ねているのだ。
いい年をして。
デカイ図体の男が。
たかが天気の良いこの日にバイクに乗れなかったくらいのことで。
呆れるというか、具合の悪さにもメゲないバイタリティを感心するべきか。
十数時間前までのトイレ立て籠もり犯の欲求とはとても思えない。
やはり感心するべきなのかも知れない。
確かに、雲ひとつない…とまではいかなくても晴れ渡っている空と、暖かそうな陽射しの中、風を切ってバイクで走るのは気分が良かろう。それには同意しよう。
しかし、たまに出席したかと思った学校で、時期外れに流行しはじめたインフルエンザを貰ってきてしまったのだから仕方がない。
自分も感染するかも知れないが、同じ屋内で寝込んでいる人間がいる以上は、部屋のどこに居たとしても感染るときは感染るだろう。庵はそんな諦めの良さを発揮して、手間だけが掛かるデカイ子供の相手をここ2日間ほど黙々としていた。
「………庵」
「なんだ」
呼ばれて視線を向ければ、未だ不満げな表情のままの京と視線が合う。
「……布団、干してくんねぇ?」
「ぁあ?」
「布団、干そうゼ。天気イイし」
天気いいしじゃないだろうと思考に空白地帯を作って暫く庵は無言になってしまった。
「……………どの布団を干す気なんだ、貴様?」
「これ」
庵の確認に京はアッサリと自分の横になっている寝床を指し示す。
「馬鹿か? その間、どこで寝てる気なんだ」
「汗で気持ち悪ィんだよ。とにかく干せよ」
そんな命令口調で誰に向かって口を聞いてるんだと思わなくもないが、気分的に今ここで京と口論するのは子供相手のように大人げない気がする。
なにしろ、京の様子がオモチャ屋の前でゴネる子供と大差ない気がするから。
「……………」
「……………」
そしておそらく乾いた布団でなければ納得しそうもない雰囲気。
自分の思い通りにならない状態への鬱屈が、これだけは譲れないという意固地さを生んだのだろう。
「………布団乾燥機でもいいだろう、なにも」
「ダメ。オレは日干しした布団に寝たい」
発言の途中でその意見を却下してみせた京は、本当に意地でも今布団を干すことに固執しているらしい。
言われずとも「絶対」が見て取れる意気込みにげんなりする。自分がやらないと言えば、きっと京は自力でベランダへ布団を持ち出すことだろう。もう予想できるその情景に、無意味に抵抗するのも馬鹿馬鹿しい。
熱が下がり始めたとはいえ、まだふらつく身体でそんな行動をすればどうなるか想像するのは容易い。
「………判った。お前はオレの寝室へでも行ってろ」
「…んー、でも感染ったら悪いから、遠慮しとく」
今更という感の発言に空気感染するんだから、今同じ部屋にいることのが問題ではないのだろうかと思う。そんなことを思いはしたが口では邪険に「病人は寝てろ」と言い捨てただけだった。
冷たい庵の態度にも京は相手が自分に対していつになく譲歩を見せているのが嬉しいらしく、すこし足下をふらつかせながらも自室から庵の部屋へと移動していった。
これだからつけ上がるのだ。
判っていても、自分でもどうにもならない。
溜め息をひとつ吐いて窓を開け放つと、庵はまずシーツを引き剥がす作業に取り掛かった。
−終−
初出 : 2001.03.25
………そんなこともあったな…。(遠い目)
ファイル整理してたら発見されました。どうも2月末インフルエンザ治った後に書いてたらしーですが。その頃、鬼のように仕事が忙しくて忘れられてたよーで…。
ホントは闇に葬ろうかとも思ったんスが、新しく上げられるモノが何もないので、つい…。(苦笑)
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