「シュウにいさーんっ!」
火に包まれた森を前に、アップルは立ち尽くした。奇襲に賭け、自らの命を犠牲にし、火を放ったシュウの軍。アップルは喉が裂けるかと思うほど叫んだ。
そして、自分の声で目がさめた。ここは自分のベッドの上。まだ寝入りばなの時刻のようだ。部屋の空気はひんやり冷たいのに、アップルは汗をぬぐった。
明日はレオンシルバーバーグとの決戦であった。
『あんな夢を見るなんて。予知夢? まさか、そんな不吉な』
戦いの前で興奮しているのだろうか。いや、そんなはずはない。逆だった。不安で胸がつぶれそうだ。相手は強敵であり、シュウと同格いやそれ以上の策略家である。シュウの身が危険にさらされるのは必至だ。
アップルはシュウの部屋のドアをノックした。夜は浅く、戦い前夜のシュウが床につく時間ではないのを知っていた。
「わたしはシュウにいさんの力になれないのですか?」
シュウの部屋の景色が滲んでいるのは、メガネのせいなどではない。アップルは、涙がこぼれないよう、必死でまばたきをした。泣いたりしたら、シュウに軽蔑される。
『軍師たるもの、感情をあらわにしてはならない』・・・シュウの口癖であり、二人の師であるマッシュの教えでもあった。
シュウはその問いには答えず、微かに表情を柔らかくすると言った。
「アップル。その中から1枚選んでくれないか」
シュウの机の上には、裏向きでカードが3枚置かれてあった。
『いいわ。こんなことしかできないと思っているのでしょう?』
アップルは一番左のカードをめくった。
そこには『火』と書かれていた。
「シュウにいさん、まさか」
嫌な予感に襲われ、アップルは震える手で2枚目のカードもめくった。
『浦』・・・?
「こ、こら、アップル!」
あわてて制したシュウの手も及ばず、アップルの指は最後のカードをひっくり返した。
『功』!
火浦功・・・。
「シュウにいさん、これに何か意味が?」
「意味は、ない(きっぱり)」
「・・・・・・。」
アップルはガチョーンをする気力もなく、部屋を出た。
明日は決戦だ。とっとと寝よう。
☆ おやすみ ☆