緑の香る風が窓から吹き込む、気持ちのよい午後だった。
電話が家中に鳴り響いている。窓が開いているのだ、不在のはずはない。そもそも、あの女が自分に断らずに出かけるわけがなかった。
瑠璃はひらりとテーブルからとびおると、前足を嘗めて毛づくろいした。電話のベルはやまない。白い壁とフローリングの床に反響し、何かまがまがしい前兆を感じさせた。瑠璃は人間よりそういうカンがよく働くのだ。
「にゃーお」
女主人を呼んでみる。返事はない。
心臓発作。強盗に襲われ殺されている。自殺。・・・彼女が倒れている図しか思い浮かべることはできない。あんな女でも一応主人だ。瑠璃は心配になって家中を捜し回った。
どっかーん。
扉が開いたままの寝室から、何かが爆発する音が聞こえた。
しゅっ! 剣が肉体を切り裂く音。
ばこっ。ばこっ。・・・殴る音。
しのび足で廊下を行き、こわごわと部屋を覗いた。
・・・女主人が『幻想水滸伝2』をプレイしているところだった。
しかも。
部屋の電話には、永谷園のお茶漬けCMのごとく、『ただいまクライブ中』と書かれた紙が貼り付けられていた。電話のベルは諦めてこと切れた。
20時間厳守の時間制限イベント。瑠璃は、その日の夕食を諦めた。
<おしまい>