第5話 『キャッスル・ラビリンス』


 『あれ? ここって何階だったっけ?』
 主人公は掌に汗をかいていた。自分の城の中で迷子になったなんて、恥ずかしくて言えなかった。
それに、助けて欲しくても、廊下を歩くみんなは勝手なことを勝手に喋っておしまいであった。ここがどこか、教えてくれる者はいない。ダンジョンでないので、すりぬけの札も使えない。いや、もし使えたとしても、自分の城でそんなのを使ったなんて知られたらいい笑い者だ。地図作り少年の生意気なテンプルトンや、皮肉屋のルックに見つかったら、何をいわれるかわかったものじゃない。
「あら」
 ラウラが主人公見つけて、笑顔で歩み寄ってきた。
「わたし、迷子になってしまったの。昼にレストランで食事を済ませて、お札の店に戻ろうとしているのだけど。
 ・・・ここはどこ?」
『僕にきかないでくれー』
 それにしても、少なくてもここは1階ではない。1階のレストランから1階のお札の店に戻るのに、ラウラはなぜここで迷っているのだろう? 彼女の方向音痴は宇宙的スケールであった。
「お店まで送っていただけないかしら」
 これはマズい。正直に『僕も迷っています』などと言ったら、ラウラは「ほら、わたしだけじゃないでしょう?」と嬉々としてみんなに言いふらすだろう。
『とりあえず、1階に降りよう。お札の店を見つけられれば、位置関係はわかる』
 しかし。階段さえ見つからないのだ。やっと外に出たと思うと裏庭で、いきなり兵士に「きこりの結び目しませんか?」などと言われるし。『ここか!』と思って出ると、畑だったし。
 テンプルトンに『水滸図』と同じような機能の『お城図』を作ってもらおうか。自分がどこにいるか一目でわかるやつ。でもまたバカにされるかなあ。
 そうこうしているうちに、窓から差し込む陽が赤く染まりだした。
「もう、夕方だわ。・・・お昼を食べに出ただけなのに」
 ラウラはため息をついたが、決して主人公を責めなかった。『あなたも迷っているの?』などというセリフは一度も口にしなかった。もしかしたら、同じ場所をぐるぐる回っていることにも気づいていないのかもしれないが。
 畑のそばの出入り口をうろうろしていたら、レストランの入り口にたどり着いた。いや、ラウラの場合は戻ってきてしまったというべきか。
「おなかすいたよね」
「食事にしましょうか。足も疲れたし」
「ごめん。実は僕も迷っていたんだ」
「困るわよね、このお城。立派なのはいいのだけど」
『迷う』ことが当たり前だと思っているラウラは、主人公をバカにしたりもせず、城の造りのせいにした。それに、助けてくれようとしてうまくいかなかった少年を責めるほど、子供ではないということだろう。

 二人がレストランに入ると、ジーンが一人で夕食を取っていた。
「ラウラ! どうしたの? 午後店を閉めたままで。具合が悪くなったかと心配していたのよ」
 具合が悪くなっても、ラウラにはホウアンの医務室へ行ける方向感覚は無い。
「・・・食べ終わったら、一緒に帰ってね。そしたら迷わないわ」
「ぼ、僕も店の前まで連れて行ってくださいっ」
 こうして夕食のあと、主人公は、お店ストリートから金庫前を通り、無事にエレベーターにたどり着くことができた。
 部屋に戻って、決意する。どんなに冷笑を浴びても、絶対テンプルトンに『お城図』を作ってもらおう、と。自分やラウラだけでなく、きっと他のみんなも迷ったことがあるはずだ。
 しかし・・・。図書館にいるというテンプルトン。図書館には、どうやっていけばいいのだろう。
 主人公の悩みは尽きない。
                               <おやすみ>


これも殆ど実話。私は「1」も「2」も、城の中でよく迷いました。眠って起きたら模様替えされてるんだもん、そりゃあ戸惑いますって。



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