もう小一時間たっただろうか。御曹司は歯噛みした。
レパント邸のルーレットは、まだ回り続けていた。
向こう側にうまく止まりさえすれば、銘刀キリンジを入手することができるのだ。
なのに、ルーレットは虚しくから回りを続ける。もう敵と闘うのはイヤだ。竜印香炉がもらえたのはうれしかったが、もうアイテムも経験値もいらない。戦いすぎてレベルだってもう40を越えてしまった。これって『過去の洞窟』あたりのレベルだ。
止まった。『EXP+10』。またハズレだった。
これで自分は41を越えた。この先しばらくは無敵の強さだろう。ただし、ストーリーを先に進めることができれば。
「ぼっちゃま。グレミオは少し目が回ってきました」
「だらしないぞ、グレミオ!」
パーンが気弱なグレミオを叱咤した。御曹司はと言えば、顔をしかめただけだった。
一日が過ぎた。
「ハラがへった」
さすがのパーンも弱音を吐き始めた。グレミオはルーレットに酔って横になっていた。ビクトールはルーレットの線をはみでないよう、大きなからだを上手に折り曲げて眠っている。退屈したタイ・ホーはクレオ相手にちんちろりんを始めた。
『パーティーメンバーの中に、致命的にラックが低い奴がいるに違いない』
御曹司はうずくまって膝をかかえた。自分の上昇ランクは『C』だから、悪くない。
『誰だろう?』
「えーっ、また私の負け? タイ・ホーさん、イカサマじゃないのぉ」
「残念だな、別嬪さん。オレは美人には優しいんで勝たせてやりたいが、よっぽど運が悪いと見える」
・・・・・・運が、悪い?
「クレオ、おまえかっ!?」
御曹司は攻略本のキャラクター数値を確認した。
『G・・・』
A・B・C・D・E・F・・・・・・そして、G、である。(ちなみにグレミオはD、残りのメンツは全員Eであった)
低い、低過ぎる。こいつだーっ!
「おまえのラック値が低過ぎるんだ」
「ええっ! わ、私のせいだとおっしゃるんですかー?」
「そう言えば、いつも男運が悪かったよな」と、パーンも同意した。
「ほっといてっ!」
そして一週間が過ぎた。ルーレットはまだ止まらない。
<おしまい>