第6話 『運命は回り続ける』


− 『幻想水滸伝』(「1」)より −

  もう小一時間たっただろうか。御曹司は歯噛みした。
 レパント邸のルーレットは、まだ回り続けていた。
 向こう側にうまく止まりさえすれば、銘刀キリンジを入手することができるのだ。
なのに、ルーレットは虚しくから回りを続ける。もう敵と闘うのはイヤだ。竜印香炉がもらえたのはうれしかったが、もうアイテムも経験値もいらない。戦いすぎてレベルだってもう40を越えてしまった。これって『過去の洞窟』あたりのレベルだ。
 止まった。『EXP+10』。またハズレだった。
 これで自分は41を越えた。この先しばらくは無敵の強さだろう。ただし、ストーリーを先に進めることができれば。
「ぼっちゃま。グレミオは少し目が回ってきました」
「だらしないぞ、グレミオ!」
 パーンが気弱なグレミオを叱咤した。御曹司はと言えば、顔をしかめただけだった。

 一日が過ぎた。
「ハラがへった」
 さすがのパーンも弱音を吐き始めた。グレミオはルーレットに酔って横になっていた。ビクトールはルーレットの線をはみでないよう、大きなからだを上手に折り曲げて眠っている。退屈したタイ・ホーはクレオ相手にちんちろりんを始めた。
『パーティーメンバーの中に、致命的にラックが低い奴がいるに違いない』
 御曹司はうずくまって膝をかかえた。自分の上昇ランクは『C』だから、悪くない。
『誰だろう?』
「えーっ、また私の負け? タイ・ホーさん、イカサマじゃないのぉ」
「残念だな、別嬪さん。オレは美人には優しいんで勝たせてやりたいが、よっぽど運が悪いと見える」
 ・・・・・・運が、悪い?
「クレオ、おまえかっ!?」
 御曹司は攻略本のキャラクター数値を確認した。
『G・・・』
 A・B・C・D・E・F・・・・・・そして、G、である。(ちなみにグレミオはD、残りのメンツは全員Eであった)
 低い、低過ぎる。こいつだーっ!
「おまえのラック値が低過ぎるんだ」
「ええっ! わ、私のせいだとおっしゃるんですかー?」
「そう言えば、いつも男運が悪かったよな」と、パーンも同意した。
「ほっといてっ!」

 そして一週間が過ぎた。ルーレットはまだ止まらない。

<おしまい>   


「2」の話ばかり続いたので、意識して「1」ネタで書いた。結局「1」ネタは、これと次のだけでした。これもかなり実話に近く、私は1時間近くルーレットが止まりませんでした。運の無い女は、実は私です。



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