「その覆面とマント、暑くないのか」
城を歩いていて、この質問は今日で3回目だった。質問というより、非難なのかもしれない。初夏の室内で、虎の覆面と毛皮のマントは見ている方が暑苦しいから『やめろ』と言っているのかも。
フー・スー・ルーは、『心頭滅却すれば火もまた涼し』と答えようと振り向いて、相手がクライブであることに気づいた。真っ黒いマントはくるぶしまでも覆い、室内でもフードを被ったままだ。
「おまえに言われたくないね。それにオレは上半身はハダカだから、暑くないさ」
「オレは、マントの下は上半身も下半身もハダカだから、見た目ほど暑くないんだ」
「えっ! その下は全部ハダカか? それ、あまり人に言わない方がいいぞ」
「うふふっ、聞いたわよ〜」 「うそうそ、ほんと?」
「きゃあ、めくらせてっ!」
城待機で退屈していた女性陣が、どこで聞いていたのかわらわらと沸いて出た。
クレオ、カミーユ、エスメラルダ、なんとミルイヒまで寄って来た。
「な、なんだ、おまえら!」
「クライブ〜、めくらせて〜」
「おまえら、めくるのはジョルジュの神経衰弱だけにしろよっ!」
クライブはそういうと、とっとと逃げ出した。
「待ってー」 「お待ちになって〜」
さすがに走るとこれでは暑い。マントの下、背中を汗が流れ落ちるのがわかった。
明日から夏服を考慮しよう。
『オレもホワイトタイガーの覆面に代えるかな。黄と黒より、モノトーンの方が涼しげに見えるだろう』
走り去る彼らの後ろ姿を見ながら、フー・スー・ルーも衣替えを決心していた。
<おしまい>