第9話 『王子さまはどこに』


  実は城には『バレリアに彼氏を作る会』というのがある。会長はビクトール、副会長はシーナ。早くバレリアに恋人を作って いただいて、<『王子さまがた・・・』は誰か>という追求から逃れようという、ただそれだけの趣旨であった。
「しかしなあ・・・」
 対策委員会室(ビクの部屋)で、会長は机に足をのっけてペンをもて遊んでいた。
「強い・怖い・色気がない。・・・3拍子揃ってるからなあ」
 シーナは椅子に逆に座り、背もたれにアゴをのせて、
「美人なんだけどね」と助け船を出した。
「だけど、美人すぎて、近寄りがたいってこともあるしなあ。色気はないけど、結構ナイスバディ(死語)だったよね、ドレスの時」
 シーナはいいところを見つけてあげようとがんばる。シーナは女性のどんな些細な点でもチャームポイントを見つけて褒めちぎってくどくのが得意であった。
「タイ・ホーとくっつけちまうのって、どうだい?」
 シーナの提案を、
「タイ・ホーなら女は選ばないだろうが・・・。浮気するに決まってる。血をみるぞ」
 ビクは肩をすくめて却下した。
「そうか。誠実な人。フリードY・・・。女房もちだなあ」
「・・・カミューとキニスン。シュウとホウアン」
「なんだよ、それ。バレリアが見栄張って言ってた僕たちの人相じゃないか」
「いや、そのへんにバレリアの本音があるのかもしれん。
 結局、『願望』だろ。好きなタイプなんだよ、この4人が。たぶん」
「バレリアのやつ、なんて恐れ多い。僕たち程度で手を打っておけばいいものを」
「カミューは女にもてすぎてライバルが多くて無理だ。キニスンはまだ少年。シュウはバレリアの手に負える男じゃあない。
 となると、ホウアンかあ」
「ひとりで勝手に決めていかないでくれよ!」
「ホウアンなら、バレリアが怪我した時にも安心だ。よし、決めた!」
「ビクがひとりで決めるなってばー!」
 シーナは抗議したが、どっちみちシーナと相談して決めたとしても、そこにバレリアの意向は、無い。
 
「ビク? いないのか。人を呼び出しておいて」
 その夜、バレリアはビクの部屋を訪れた。何か大事な話があるらしかった。
 机の上にメモと、酒瓶がどんとおいてある。
『野暮用をすませて戻る。少し待っていてくれ。飲んでていいぞ。ビク』
「年代ものだな。どこに隠していたのやら」
 バレリアはラベルを確認するとにやっと笑いグラスに注ぎ、ベッドに腰をかけた。足を組むとスリットから綺麗な足がのぞく。
 タンスの中に隠れたシーナは、扉を細くあけて様子を窺っていた。ビクはレオナの酒場で時間を潰している。ビクもタンスに隠れたがったが、無理な話だ。
「ビクトールさん?」
 ノックとともに扉が開き、ホウアンが入って来た。
「ビクなら不在だぞ。すぐ戻るらしいがな」
「ビクさんに呼ばれたのですが・・・私はお邪魔かな」
 シーナはその時シマッタと思った。ビクの部屋で酒を飲んでいるバレリアを見たら、確かにホウアンは誤解するだろう。計画のミスかも。
「いや、私も呼ばれたんだ。遅いな。・・・先生も飲んでいくか」
「私はたしなまないんです、すみません。病人怪我人は時間を選びませんから、夜でも酔ってはいられない。
 つまらない男でしょう?」
 穏やかにほほえむホウアンに、バレリアは深礼をし、
「いや、ご立派な心がけだ。先生からみたら、我々戦士など、普段はいつも飲んでいて軽蔑なさるだろう」
「とんでもない。みなさん、死と隣り合わせの恐怖を和らげたいのでしょう」
「そんないいもんではないと思うがな。みんなただの酔っぱらいだ」
 バレリアは肩をすくめて笑ってみせた。
『おお、いい雰囲気じゃないか。会話が進んでいるぞ』
 タンスの中でシーナは喜々とした。しかし、ビクがいたら苦い表情をしていたことだろう。どうも男女反対みたいな会話だ。
 バレリアが男だったら確かに『いい雰囲気』なのかもしれないが・・・。これで二人が進展するとはとても思えない。
「戻りませんね、ビクさん」
「くそ、遅いな。呼び出しておいて、いつまで人を待たせる」
『バカ、バレリア。ホウアンの前で<クソ>なんて言うなっ』
「私はあまり長く診療室をあけておけません。急患があるかもしれませんので」
「ビクが戻ったら、呼びに行こう」
「お願いします、では」
『せんせーい、帰っちゃだめだよぉぉぉ』
 シーナの心の叫びも虚しく、ホウアンは部屋を出て行った。
 
「意外にきれいに片づけているじゃないか」
 退屈してきたバレリアは、ビクの部屋の棚や、机回りを探索し始めた。
『や、やべえ。タンスを開けるなよ〜』
 シーナはタンスの中で息を止めた。バレリアは机をあれこれ覗いている。
 机の引き出しを開けたバレリアの手が止まった。そして指が、鷹のマスクを引っ張りだしていた。
「これは・・・。なぜこれがここに?」
『うわーっ! ビクのバカ、なんでそんな見つかりやすいところに隠すーっ!』
「あいつだったのか? ってことは、帽子の方も身内かーっ!」
 烈火のバレリア。体から怒りのオーラが発動するのが見えた。これは、まずい。
『でも、僕のことはバレてない。落ち着け、まだ大丈夫だ』
 
 今、ビクトールは、アルコールが入ってご機嫌で部屋に向かっていた。バレリアはホウアンとうまくいっただろうか。バレリアの嬉しそうな顔が目に浮かんだ。
 そして、扉に手をかけた。

                             <おしまい>   



幻想水滸伝には28,9歳という妙齢の女性が多い。男性は、ちょうどいい年廻りが少ない。パロ書きには悩みのタネでした。



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