第13話 『ザ・ギャンブル・ブラザーズ』


「おうおう、ヤム・クー。うまい儲け話があるんだ」
 シロウが、船着場で釣り糸をたれるヤム・クーの横にしゃがみこんだ。
「やめてくださいよ。どうせロクなことじゃない。シロウさん、賭場でも負けが混んでいて、借金抱えてるそうじゃないですか」
 ヤム・クーは年下のシロウにでも丁寧語で話した。根っから子分気質なのだ。
「ちっくしょう、るせいなあ。今度の計画が成功すりゃあ、そんな借金帳消しでぇ。大博打だぜ。
あんたにも儲けさせてやろうって言ってるんだ」
「ほほう、大博打かあ」
「あ、アニキ・・・」
 知らぬ間に後ろにタイ・ホーが立っていた。
 彼の頭には、「面白そうなこと用」と「別嬪用」の2本のアンテナが立っているに違いない。
「なんだか面白そうじゃねえか。その話、乗ったぜ」
 タイ・ホーは顎の髭をなでながら、にやにや笑って参加表明をした。
 この表情をしている時には、ヤム・クーの手にはおえない。気がすむまで遊ばせるしか方法はないのだ。
 シロウの計画とは、城から風の洞窟までの街道を使ったレースだった。
 速さ自慢の奴らに参加してもらって、誰が一番か賭けるというものだ。
 すでにスタリオンやジークフリード、シロ、チャコ、フェザーなどに声をかけてあるという。
「一位はスタリオンだろうよ」
「いや、アニキ、フェザーでしょう。なにせ鳥ですから」
「鳥って理由なら鳥人間のチャコも速いぞ。
・・・シロウ。こんな意見が別れるのに、おれ達が必ず勝てる方法があるっていうのか?」
「ふっ、オレのアタマが切れるところを披露してやるぜ。
 ヤム・クー、おまえもレースに参加するんだ。
 主催者のオレは券を買えないんで、タイ・ホーの旦那がヤム・クーの『勝ち人投票券』を買い漁っておく。
 で、ビッキーの出番だ」
「ビッキー!?」二人同時に叫んだ。
「そうか、瞬きの紋章でおいらを飛ばしてもらえばいいのか」
「なるほど、あっというまにゴールに着くな」
「へへっ、どうだい」
 シロウは自慢げに鼻の下をこすった。
 
 レース当日は、朝から花火があげられる盛り上がりぶりだった。
 手に『勝ち人投票券』を握りしめたカモたちが、歓声を上げながら街道に人垣を作っている。
 タイ・ホーは隣にビッキーを連れ、人込みの中にいた。
 一番人気はスタリオン。対抗はチャコ。大穴でシロ。
 優勝者にはレストランの『まんがんぜんせき』が与えられるので、張り切らざるを得ない。
 期待されないカボチャやゲンゲンに混じって、ヤム・クーの姿があった。
 普段着流しの彼も、ランニングとトランクスを身につけ、ハチマキで前髪を上げると、なかなか健康的で健全な青年に見えた。
「Go!」
 クライブが空に向けて撃った銃声が、レースの開始を告げた。
 素早いチャコが一番に飛び立ち、フェザーは広い羽をひろげた。スタリオンのダッシュもみごとだった。
 ヤム・クーは足踏みしながら、ビッキーの紋章が発動するのを待った。
「ビッキーのじょうちゃんよ、さあ、頼むぜ」
 タイ・ホーの指示に合わせ、「まかせて☆」と、ビッキーは『うわわわワンド』をひと振りした。
「あっ!」
・・・『あっ!』? ヤム・クーの姿は消え、うまく瞬間移動できたようだった。だがタイ・ホーはいやーな予感がした。
『あっ!』、だとぉ?
 
「ここ、どこだぁ?」
 霧のたちこめる山のふもと。民家もなく、人さえいない。ヤム・クーもいやーな予感がしていた。
 ここは噂に聞く、北のさい果て『洛帝山』ではないか? モンスターの巣窟といわれるダンジョン。
 一方、風の洞窟前では、首からレイをかけたスタリオンがお立ち台でインタビューに答えていた。
 シロウはがっくりと肩を落とし、タイ・ホーは券を握る指から力が抜けた。
 はずれ券がひゅうと風に飛ばされ、空でからかうようにくるくると舞った。

                                ☆ おしまい ☆ 



こんなキャラたちもいたなあ、と思い出して書いてみました。が、実はそれが意外な方向へ展開。このおバカな話がなければ、
第18話以降のヤム・クーのラブストーリは考えつかなかったと思います。


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