第17話 『マイクロトフの悩み』 |
リッチモンドは心を入れ換え、本人に許可を得て着衣の写真で(脱ぎたい人は脱いでもいいが・笑)ブロマイドを作り、 販売を始めた。これが大盛況。風呂事件の罰金はあっという間に払うことができた。 彼は毎週『売り上げベストテン』を発表し、それもみんなの話題になった。 男性の一位二位は、常にカミューとフリックの争いだった。キニスン、クライブなども人気があり、シュウにも隠れファンが多い。また、イベントの後に意外な人物が上位に食い込むこともあった。吸血鬼退治の後には、ビクトールが三位に躍り出た。 『何故だ? 美青年攻撃のメンバーでもある私が、なぜ入らない?』 マイクロトフは、唇を噛んで発表のポスターを睨みつけた。唇を噛むとさらに鼻の下が長く見えた。彼は今週も『圏外』。十二位だった。フッチやルックより下である。あんなガキらに負けるとは・・・。 複数の若い女性の笑い声がして、マイクロトフは壁に体を寄せて身を隠した。リィナとナナミがラウラの店から出てきた。また誰かのブロマイドを買ったのだろう。リッチモンドはラウラのお札の店で委託販売してもらっている。順位表もラウラの店の壁に貼りだしてあるのだ。 「うふふ、またフリックさんの写真、買っちゃったわ」 「ナナミはフッチくんの。かーわいいんだぁ」 また自分の写真は買ってもらえなかったらしい。 ☆ エピソード1 「ま、マイクロトフさんの写真、ください・・・」 聞き慣れない、かすれたハスキーボイスだった。ラウラは店のショウウインドウから思わず顔を上げた。 『こんなコ、うちのお城にいたっけ?』 朱色のスカーフを頭からすっぽりかぶり、同じ色の口紅をしていた。そこそこの美人のようだ。エスニック柄のマントで体を包んでいたが、かなり大柄で長身なのは見てとれた。 「2ポーズありますが、顔アップと全身とどちらになさいます?」 「りょ、両方ください。・・・十枚ずつ」 「えっ、十枚ですか? 十枚? ホントに?」 枚数が多いので、ラウラは何度も確認する。大柄美女はその度に律儀に頷いた。 「在庫から出してきますから、少しお待ちください」 その時、リーダーが店に入ってきた。次の戦闘に備え、雷系の札を作りに来たのだ。そして朱色のスカーフの人物にもすぐ気づいた。 「あれえ、マイクロトフさん。何してるんですか? あー、誰か心を寄せるコの写真でも買いに来たんでしょう! 誰なんです?」 『えっ?』ラウラは大柄な女性客を振り返った。マイクロトフの額を、一筋の汗が流れた。 ☆ エピソード2 「なんだ、そんなことで悩んでたんですか」 庭のベンチに腰を降ろし、リーダーは軽やかに笑った。 「リーダー殿には笑いごとだろうが、信頼や人気は騎士の団長として重要なことなのだ」 「たまたま、写りの悪い写真が売られてるんじゃないかなあ。普段より鼻の下が長く写っている、とか」 言ってからリーダーはしまったと口を抑えた。マイクロトフは、鼻の下が長いことを気にしているかもしれないのに、気軽に言葉にしてしまった。傷つくかもしれない。 『鼻の下が長く写っている?』・・・しかも、『普段より』? マイクロトフは、指で自分の鼻の下に触れてみた。 「リーダー殿。正直に言ってくれ。私は鼻の下が長いのか?」 『気づいてなかったんですかーっ?』 リーダーはその言葉をやっとのことで呑み込んだ。 「えっ。あの。その。・・・まあ、人より少し長いかなって気はしますけど」 「・・・そうか。そうだったのか」 翌日から、マイクロトフは鼻ヒゲを生やし始めた。だが、体毛の薄い彼のこと、なかなか生え揃わない。まだ、口の回りにゴマが張りついているようにしか見えなかった。おまけに、鼻の下が長いから、普通の人より長く伸ばさなければ形にならない。 頑張れ、マイクロトフ。先は長い。 ☆おわり☆ |
「こんな奴もいたな」の3。彼の鼻の下が長いというだけのネタ。我ながら、あーくだらないっ。でも、世間ではマイクロトフは人気があるらしい。特にカミューとペアでやおい系で(笑)。 |