第19話 『がんばれ! ゲンシュウくん』


 「トラに臀部を噛まれたあ?」
 ホウアンは治療室で頓狂な声をあげた。台にうつ伏せに寝たゲンシュウは、「大きな声を出さんでくださらんか・・・」と情けなさそうにぽそっと呟いた。
 ホウアンは袴を脱がし、傷をチェックした。
「着物の上からなので、傷はたいしたことはないですね。トウタ、消毒薬とガーゼ、絆創膏を取っておくれ。
 椅子に座ると2、3日痛むかもしれませが、すぐよくなりますよ。それにしても、臀部などと。優秀な剣士であるというあなたが、敵に後ろを見せたわけでもないでしょうに」
「・・・・・・。」
 口を噤むゲンシュウに代わり、トウタがつんつんとホウアンの袖を引いた。
「先生は闘いに出ないから、ゲンシュウさんの構えを見たことないでしょう。こうやって(と、トウタはゲンシュウの構えを真似てみせた)剣を握ったまま後ろを向いて、すぱっと振り向いて斬るんだ。かっこいいんですよ」
 なるほど。それでオシリを噛まれたというわけか。
「後ろを向いていては、敵の攻撃をよけづらいでしょう?」
「笑止。敵は目で見るものではない。心で感じ取るものだ」
 そう言うわりには噛まれたくせに・・・。
「ま、くれぐれも気をつけてくださいね」
 
 一週間後、前列三人が病院に運ばれて来た。炎系の魔法にやられ、三人とも火傷を負ったのだ。カミューは顔をかばったので腕を火傷した。ペシュメルガは大袈裟な兜のおかげで、唇が軽く焦げた程度だ。そして、お察しの通り、ゲンシュウはおしりに火傷を負った。
 後衛のリーダー、カレン、シモーヌも付き添いでやって来た。彼らは無傷だったので、トウタと共に治療の手伝いをしてくれた。
「ゲンシュウさん、あなたが一番重傷ですよ。火膨れになって、しばらく座れないでしょう。やはり構えに問題があるのじゃないですか? 私は闘いには素人だが、いくら攻撃力が上がっても、防御ができずリスクのある構えは医師としては反対です」
「・・・・・・。」
 治療台でおしりに薬を塗られるというトホホな姿で、しかしゲンシュウはまだ渋く眉をしかめるポーズをしていた。
 カーテンの向こうでカレンが、「あんな変なポーズするからよね」とシモーヌ相手に陰口をたたいていた。小声で言ったつもりだろうが、複式呼吸のダンサーのこと、意外に声が響き治療室にまで聞こえた。シモーヌの影も何度もしきりに頷いている。
『変なポーズ』・・・。それを言うならカレンとシモーヌこそ。
 ゲンシュウは『そなたらに言われたくないぞ』とますます顔をしかめた。
「この次また、臀部に大きな怪我でもするようなら、リーダーに進言しますからね。構えを変えるか臀部に防具でもするか」
 臀部に防具・・・。ホウアンの言葉に、ゲンシュウは益々気分が滅入り、眉間の皺もさらに深くなるのであった。

  ☆おわり☆  


開発のコメントで、ゲンシュウの構えが一番かっこいいと自負している、みたいなこと書いてあった。でも、どう見ても、闘いの時 オシリ噛まれてるように見えるのよー。


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