第20話 『E=MC2(エナジーイコール・エムシー・スクエア)』


 「それっ!」
 リーダーはひやりとした。ビッキーの魔法を唱える声が響くたび、他のメンバーもビクビクしていた。
 敵の戦士が一人消えた。やったー、成功だ! 全員が胸をなでおろす。全員? ・・・そう、ビッキー本人が一番不安だった
らしく、大きく肩で安堵のため息をついていた。
 そんな魔法なら使うなよぉ。
 前回の戦闘では、フリックが消えた。実力者のフリックを当てにしていたため、その後の闘いはガタガタだった。おまけにどこへ飛ばされたのか、3日たっても帰って来ない。
 次は我が身である。
「えいっ!」
 うわ、またか。リーダーはしゃがんで頭をおおった。敵の頭上に落ちるはずの『色々なもの』が、味方の方に落ちてきた。スプーンに靴に花瓶にヤカンにネックレスに・・・。
 戦闘には何とか勝った後、リーダーたちは地面に散らばったそれらの物を片づけ始めた。ごみはきちんと持って帰る。地球に優しい戦闘パーティーであった。
「この靴・・・。シロが庭に埋めていたやつだ。シロの宝物ですよ。なあ、シロ、そうだよね?」
 キニスンがピンクのトウシューズを手に取って、シロの背中を撫でた。
「クゥォォォーン」
「でもこれ、カレンの靴じゃないか? この前、無い無いって騒いでただろう」
 リーダーが指摘すると、シロはまたくぅぉぉーんと鳴いてごまかした。
 エイダもはっとして、「そういえば、このスプーンやネックレス。フェザーの巣で見たことがある。あいつ、光るものが好きでコレクションしてたっけ」
 フェザーはカラスかっ? 
 スプーンはハイ・ヨーのレストランのものだった。ネックレスはラウラのだ。残りのコップやヤカンやその他もろもろは、ゲンゲンとカボチャが土に埋めていたものらしい。
 まったくもう、どいつもこいつも。
 その時、タイ・ホーが何かを後ろ手に隠した。リーダーはめざとくそれに気づいた。
「何を隠した?」
「いや、別にたいしたもんじゃねえよ」
「・・・タイ・ホー!」
 犬や鳥でなく、人が盗難でもやらかしていたら大問題だ(ホイ以外)。城は共同生活の場だ。お互い信頼を無くしてはやっていけない。
「わかったよ、リーダーの旦那。つい出来心だったんだ」
 タイ・ホーの手に握られていたのは、白い女物の足袋だった。
「干してあったのが、風で飛んで来たんだ。で、ちょっと、宝物にしてたってわけさ。悪気はねえんだ、帰ったらフリードYの女房に返しておくよ」
 拾ったのも、宝物にしていたのも、タイ・ホーではないだろう。そして彼がかばう男は城でただ一人だ。リーダーは黙って頷いた。
「今ごろ、フェザーもゲンゲンも慌てているだろうな。宝物が無いって」
「くすん。もっと魔法の練習しなきゃ」
 ビッキーが『わわわワンド』を肩にしょって、また大きなため息をついた。

  ☆おわり☆  


ビッキーをパーティーに入れて戦うと、ほんとにスリルがあって楽しい。ただ、テレポートしてもらえないので、出かけるのが大変。


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