第31話 選択の余地もない


 「お前らは早く逃げろ! 生きていたら、ミューズで落ち合おう」
 炎に崩れ落ちていく砦の中で、ビクトールが叫んだ。僕は右手でナナミの手を取り、左手にはジョウイの腕を掴んで、砦を飛び出した。背後では、ひとときの安息の壊れる音がしていた。
 リューベの村近くまで走り、僕らはやっと立ち止まった。止まるのも、振り向くのも怖かったのだ。肩ごしに、遠い場所で竜のようにのたうちまわる炎が見えた。
 大丈夫だ。僕は自分に言い聞かせた。ジョウイが一緒だ。ナナミもいる。ミューズまでの長く危険な道のりも、きっと乗り越えられる。これからアレックスとのシンダル遺跡の厳しいイベントも待っているが、他にもう三人、僕について来てくれたし、たぶん何とかなる。・・・・・・三人?
「クォォォーン!」
「ムーー・・・」
「ゲンゲン、頑張る!」
 シロとムクムクとゲンゲンかぁぁぁっ! 僕はショックで頭の中が真っ白になった。
 リキマルー、キニスンー、お前らはどこへ行ってしまったんだーっ! この際扱いにくいザムザでもいい、合流してくれーっ!
 
 白鹿亭という旅館を見つけたので、休息を取るために足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ。・・・サーカスのご一行様ですか?」
 品のいいおかみの言葉に、力なく「似たようなものです」と答える僕であった。

       ☆おわり☆  


フィクションです。ムクムクがパーティーに入ることがあるかどうかは知りません。ちなみに、実際にはシロより人間のミリーの方が弱い(笑)。


『ウキウキ水滸伝』表紙へ   『福娘の童話館 別館』表紙へ