第32話 『サウスウィンドゥへの道』 |
都市同盟とハイランド国との戦争に決着が着いた今、バレリアがここに留まる理由はもうなかった。明日、自軍を率いてトラン共和国へ帰ることになっていた。ついでに、レパント大統領の御曹司も、首に縄をつけてでも連れて帰るつもりだった。 「くそ、トンヅラしたか」 バレリアはもぬけの空になったシーナの部屋の前で、いらいらと爪を噛んだ。 「朝までに戻ると言っていた。出発の時間までには帰るそうだよ」 ビクトールは知っていて行かせたのか! 「当てになるか。連れ戻して来る」 「あいつももう19だぞ。意志を尊重してもよくないか? 探したいひとがいるんだそうだ。よほどのことだろう」 「まだ19、だ。どうせまた女のシリを追い回しに行ったに違いないんだ。ビッキーに飛ばしてもらって、捕まえよう」 「おいおい、どこへ行ったか知ってるのか?」 「知らん。・・・どこだ?」 ビクトールは肩をすくめた。 「お前さんも相変わらずだな。サウスウィンドゥ市だよ。帰ったら、お前の送別会を予定してるんでな、レオナの店に寄れよ」 バレリアは、一人でサウスに来るのは、実は初めてではない(第8話参照)。マップは記憶していた。すぐに酒場の前でシーナを見つけることができた。 シーナは「来たな」と笑った。怒ったバレリアが追って来るのを予想していたのだ。 「見つかったか、尋ね人は」 「見つける前に、見つかっちゃったよ」 「一緒に探してやるから、さっさと見つけて早く帰ろう。私は送別会が待っているんだ」 「無理だよ。ここで一回見かけただけのひとなんだ。僕は思い出に会いに来ただけな・・・」 「ばかもん!」 キザな決めゼリフもバレリアに一喝されてしまった。 「お前は諦めがよすぎる。根性が足りん」 「オヤジと同じこと言うなよぉ」 というわけで、シーナはバレリアに背中をこづかれながら、サウス中の酒場や店を求めて歩くハメになる。金髪で赤いドレスで・・・同じ説明を十遍もしただろうか。こんな説明で人を見つけられるわけがない。本人のバレリアが、あの時の自分だと気づかないような内容なのだから。 まあ、いいか。明日の今頃は、トラン共和国の空の下だ。もうバレリアとは、こんな馬鹿な遊びもできないだろう。 ムキになって次の酒場を探すバレリアの、子供みたいな横顔を、シーナはそっと盗んでため息をついた。 ☆おわり☆ |