第36話  『なんとかしてくれ』 


  ヴアンサン・ド・ブールとシモーヌ・ベルドリッチが、手風琴の音色にのって川べりを散歩していた。
「おやおやおや、同胞のかおりがしませんこと?」
「しますとも、心の友。あの、ベンチに座っているかたです」
「あのかたも、きっと心の友になるべき人に違いございませぇぇん」
 二人のお気に入りのラダトの、川沿いの散歩コースだ。ここを好んで眺めている男なら、我々の仲間に違いない。
「心の友、この眺めがお気に召しましたか?」
 シモーヌ達が話しかけて、自分らのことを名乗ると、男も彼らを信頼したのか心を開いて話し出した。シモーヌ達を見て信頼すること自体、作者はコイツが信用できないと思うのだが。
 先の割れた短い顎をかくかくと動かしながら、男は身の上話を始めた。フレームのない粋を気取ったメガネの奥で、何を考えているのか読めそうにない、淡い色の瞳が輝いていた。
「ワタシには、血のつながらない三人の息子がいます」
 フィリップと名乗る男が言った。
「次男と三男はかなり優秀です。ワタシのことも信頼して(騙されて?)ついて来てくれています。ワタシのキスを嫌がるのは、照れているのでしょう(三男たちはTVで「気持ち悪かった」と言ってたけどね)。
 でも。長男は出来が悪く、同じようには愛せません」
「フィリップさん、人間である以上、好き嫌いは絶対にあるものでぇす」
「仕方ございませんよねぇぇ」
 二人は誠意のひとかけらもないような言葉で男を慰めた。
「長男は、前の父親がまだ忘れられないんですっ! そうに決まっている。だって、アイツが父親だった時には、長男はもっとずっと出来が良かったんだ。ワタシに対して嫌がらせをしているんだ!」
「フ、フィリップさん、落ち着いて下さい」
「この国に来る前には、ここはワタシの国に対して友好的だと聞いていた。観光に来てたくさんのポッチを落してくれるし、チケットが無いと言えばポンとダフ屋から大金で買い叩いて行った。服も化粧品もバッグも香水も、高価なワインさえ大量に買い占めていく。ワタシの国を愛してくれているのだと思っていた。だが、そんなのは嘘だ! 下等民族は、決して上級のものを受け入れはしないのだ!」
『・・・どうしよう、シモーヌ。こいつ、ちょっとイッちゃってなあい?』
『アブナイかもー。ほっときません?』
「では、失礼」
 二人はにこやかに男に笑いかけると、すたすたと橋を渡った。
「今、ワタシをクビにしてみろっ! 韓国かイランの監督になってやる!」
 男は川べりのベンチで、まだわけのわからないことを叫んでいた。夕もやが男のまわりに立ち込め、景色を悲しげに滲ませていた。
 頑張れ、ニッポン・A代表! W杯まであと3年!

☆ おわり ☆    


サッカーA代表・イラン戦終了後(9時)から書き始め、10時にはアップした。フィリップ・トルシエ、サッカー協会。ほんとに早くなんとかしてくれよーっ!
p.s.アジアカップが終わると、ちょっと意見が変わった。トルシエは相変わらず問題アリだと思うが、協会の方がもっと問題だ・・・。どの業界もジジイを何とかしないと。


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