第44話 『白鹿結婚相談所』


 ヒルダの夢は、仲人をすることだった。
 薔薇模様の壁紙にミラーボールの影がうつり、自分が取り持った若い二人がゆっくりゴンドラから降りてくる。自分は留め袖の袂からハンカチを取り出しさっと目元をおさえ、モーニング姿のアレックスと微笑み合うのだ。息子のピートにタキシードを着せ、ユズちゃんにフリフリドレスを着せて、花束を贈るというイベントをやってもいい。
 
「ねえ、ジュドさん。お見合いしない?」
「ははは。彫刻で食えるようになるまで、嫁さん貰うなんて夢のまた夢だよ」
 ヒルダは、受付を通る人をみつけると、まめに声をかけた。
「ねえねえ、ハンフリーさん、いい女性がいるのよ。会ってみない?」
「・・・・・・・・・・・・。」
 一緒にいたフッチが「こんな無口じゃ、お見合いはムリムリ」と笑う。
「ねえねえねえ、ツァイさん、再婚しないの?」
 娘のトモの方がヒルダに食ってかかった。
「おばさん、やめてよ! とうさんは、別居してるだけで離婚してないよ!」
 おばさん・・・。まあいいわと、気を取り直すヒルダ。
「ねえねえねえねえ、からくりまる、あなた結婚しない?」
「・・・?・・・」
 ・・・誰と、というより、何と?
「おい、ヒルダ、いい加減にしろよ。お前を避ける為に、人が通らなくなっちまった。道具屋の商売、あがったりだぜ」
 アレックスに叱られて、ヒルダはしゅんとなった。
「ごめんなさい、あなた。もうよすわ」
『しまった、きつく言い過ぎたかな』
 
「ヒルダ、喜べ。城の中に、婚約中のやつらがいる。頼まれ仲人ってことになるが、別に構わんだろう?」
「ヒックスたちのこと? だって、二人は戦士の村で挙式をする予定でしょ」
「いや、別のやつらさ。実は、もうここに来てるんだ」
「えっ?」
 宿の受付カウンターに、人影は見えない。
「どこ?」
「ムムーーー!!!」
「ムゥーー」
 身を乗り出したヒルダの目に、仲良く手(前足?)をつないだ、ムクムクとミクミクの姿が映った。

                           ☆ ちゃん・ちゃん ☆


目標を、「108話」書くから、「108人全員出そう」に縮小したので、こういう作戦に出る(笑)。   前話のフィッチャーも同じ理由で登場した。44話だけで、4人もノルマをこなしている。


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