第50話  名探偵テンプルトン『歌姫嘆きの涙』
−僕? テンプルトン!・・・探偵さっ。−
(虎の三題話への投稿作品。お題は【三人・真珠・電話】)

アルバートは、握ったリボンにさらに力を込めた。
自分たちのトリオのシンガーであるアンネリー。 いつもは美しい声を発するその細い喉。 アルバートは、その喉に飾られたリボンを後ろから思い切り引いた。 激しく抵抗するアンネリー。
 普段は真珠のネックレスなどしていないのに!
 アルバートは歯噛みした。ネックレスが邪魔で、うまく締めれない。 アルバートはさらに手に力を込めた。
アンネリーはさらに激しくもがいた。 だが、カーペットへと倒れるのに、そう時間はかからなかった。 紐の切れたネックレスが、ぱらりぱらりと床に散らばった。まるで歌姫アンネリーの涙のように。
『こんな可愛い顔をして、男三人を手玉に取るなんて。神が下した罰と思いたまえ』
 アルバートは、ノブやテーブルについた自分の指紋を拭き取りながら 、笑みさえ浮かべながら屍を見おろした。
と、その時。
 RRRR・・・。
 ぎくりとアルバートの肩が動く。アンネリーの部屋の電話が、 もう取ることのない主人への呼び出し音を掻き鳴らした。 5つコールし、留守電と切り替わると、相手はメッセージを吹き込み始めた。
『私だ。ハウザーだ。今から行くよ。私が贈った真珠のネックレス、 したところを是非見せておくれ』
 アルバートの顔色が変わった。あわてて作業を終えると、 アンネリーの部屋を飛び出した。自動ロックの扉が、ガチャリと音をたてて締まった。

「・・・お三人にここにお集まり戴いたのは、もうご存じだと思いますが」
 リッチモンドは、取り調べ室の粗末な椅子から腰を浮かせた。
ソファには、アンネリーの死体の発見者であり、 恋人の一人だったハウザーが仏頂面で深く腰をかけていた。
その両隣に、 ちょこんと、ピコとアルバートが肩をすぼめて座っていた。 二人はアンネリーとバンドを組んでいた仲間であり、 やはり恋人であった。
そして後ろのチョークボードでは、地図少年テンプルトンが、 部屋の見通図に死体の位置等を書き込んでいた。
「私を疑っているのだろう。だが、私が部屋に入った時には、アンネリーはもう死んでいた」
 不機嫌そうに、ハウザーが言った。
「おいらだって殺すもんか。夕方訪ねたのは確かだけど、 留守だったみたいで、そのまま帰ったよ」と、ピコ。
「僕も同じだ。僕は夕方より少し遅い時間だったかな?」と、 アルバートは、顔色ひとつ変えずに答えた。
 リッチモンドはコインを指で上へ放り投げると、にやりと笑った。
「ハウザーさん、高価なプレゼントをしたらしいですな。 ゴードン商会での調べがついています。しかし、 それを身につけて他の男との逢い引きに行こうとしていて、逆上して、つい・・・」
 図を描く振りをしていたテンプルトは呆れて振り返った。
そして。
アダリーの発明品である、ナビ型腕時計に似せた麻酔装置から、 リッチモンドの首筋に素早く麻酔針を打ち込んだ。
「ありゃ〜ほりゃ〜」と、妙な声を発し、リッチモンドは深く椅子に倒れ込んだ。
回りを固めていたビクトールやフリック達は、思わず「きたー!」と声を揃えた。
「なんてわけはありません」と、図を描く振りをしながら蝶ネクタイに唇を近づけテンプルトンは 話し始めた。
その声は、誰が聞いてもリッチモンドの声そのものだ。これもアダリーの発明による、 音声変換装置であった。
「ハウザーさんが犯人だとしたら、アンネリーさんの部屋には、 あるべきものがひとつ足りないことになる。
ピコさんもアルバートさんも、 知らせを聞いてここへ直行なさっていますよね。
ハウザーさんの身体検査は済んでいる。・・・お二人にも、ちょっと身体検査を・・・。いや・・・」
 テンプルトンは、ちらりと、ピコとアルバートの服装に目をやった。
ピコは白いシャツをだらしなく着込み、細いパンツにスリッポンタイプの靴。 アルバートは、民族調のシャツにやはりぴたりとしたズボン、そしてルーズブーツ。
「靴を。靴を脱いでいただけますか?」
 そして、アルバートの脱いだ左のブーツの弛みの部分から、 ぽろりと、白い大粒の真珠がこぼれ落ちた。 ギャラリーから『おおっ』と声が上がる。アルバートは蒼白になりながら、 震える声で、「これが何か?」と尋ねた。
「ハウザーさんが贈ったネックレスは、ぴったり30粒の真珠で作られていた。 ゴードン商会に確認済みです。特別誂えの、大真珠だそうでね。 粒をレブラントに鑑定してもらえば、ゴードン商会のものかどうかもすぐにわかります。
 部屋を調べても、29粒しか見つからなかったんでね。 状況から見て、あのネックレスは、殺された時に切れた。 ゴミ箱にパッケージが残っていたので、今日初めて開いて、今日初めて身につけたのもわかっている。
 三十分の一個の・・・真珠の粒を身につけていたことを、アルバートさん、 あなたはどう言い訳しますか?」
 アルバートは、がっくりと膝をついた。 ころころと、白い真珠が板張りの床を転がっていった。

                                   おしまい

ウキ水のメンツで名探偵コナンをやる、というバカな話。しかも真珠のネタは、刑事コロンボのパクリです。すみません。刑事コロンボは、部屋の隅にあった傘を開くと・・・というオチ(推理ものをオチと言っていいのか?)でした。


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