第52話 路上でドレミ

 主人公達は、小銭稼ぎの為にグリンヒルの森で少し闘い、和気あいあいとした雰囲気で帰途に着いた。そこそこのレアアイテムもいくつか手に入れた。柊の精を倒してゲットしたドリアドの封印球や、ドレミの精の音セットなどだ。
「リーダー、楽しみですね。音セットは、コーネル君のところへ持って行けば、ゲームの決定音やキャンセル音を変更できるんですよー」
 久しぶりにパーティーに加わり、闘いでも張り切っていたワカバは、帰りも元気いっぱいだった。街道を、スキップまがいの歩で跳ねるように歩いている。明るいワカバがいるから、小銭稼ぎのような退屈な仕事も、楽しく遂行できたのかもしれない。主人公は彼女に感謝していた。
「どうせブタの鳴き声とか、そんなのだろ」
 同行者のフリックは、苦笑しながら肩をすくめた。
「そうそう。美女の色っぺー声に変わるなら、大歓迎なんだがな」
 ビクトールも星辰剣をかついで笑った。
「まったくもーう。オジサン達は、夢が無いんだからあっ」
 ワカバは大袈裟に頬をふくらませた。みんなは軽い笑い声をたてた。
 その時!
 道の真ん中に、ドレミの精が現れた! パーティーは、すばやく闘いの姿勢を整える。それにしても、路上に敵とは。森や洞窟ならともかく・・・。
『ゥワワワ』『ボン・・・ボン・・・ボン』『ドゥーワァー』
「・・・?」
 主人公達は、顔を見合わせた。いつもの、甲高い声で奇声を発するドレミの精とは、違う種類みたいだ。そう言えば、いつものドレミの精は五人だが、こいつらは三人。一人は緑、一人は赤、一人は黄色。三人ともとんがり帽子をかぶっていた。よく見ると、帽子には番号がついていて、緑には「1」、赤には「2」、そして黄色には「3」。
 主人公達が三人とも倒し勝利した後に、彼らは「音セット0」というアイテムを落とした。山下達郎ファンだったワカバ(そ、そうだったの?)が、狂喜乱舞したのは言うまでもない。
「そういえば、いつもはツリ目のドレミの精が、タレ目だったもん」

 城へ持ち帰り、コーネルに渡すと、彼は意外に渋い顔になった。
「このいい音を再現するには、テレビのスピーカーでは無理があります」
「どうすればいいの?」
 主人公が何気なく尋ねると、普段はおとなしいコーネルが、江戸っ子のような早口でまくしたてだした。
「ゲームのラインは、もちろんステレオで繋いでありますよね? 福娘の家みたいに、テレビがモノラルだからって白いラインだけを突っ込んでいるようじゃ、いい音が堪能できません。
 でー、どうするっかってえと、映像の黄色いラインはそのままテレビに繋いでも結構ですが、音のラインはこっちのアンプに繋げて、四個のスピーカーは部屋の四隅にブロックに乗せて・・・」
「・・・・・・」
『音職人に音職人が乗り移った・・・』
 主人公は、口を挟む間も与えられず、コーネルのうんちくをずっと聞いていた。

                                                  おわり

♪ ご存じない方がほとんどだと思うので、注釈(笑) ♪

 山下達郎のアカペラのアルバム「On The Street Corner」は、タイトル文字の色から、1が「オンスト・グリーン」、2が「オンスト・レッド」、3が「オンスト・イエロー」と呼ばれている。3枚を全部買った人には「オンスト0」という、市販されていないアルバムがプレゼントされた。

「路上」 = 「On The Street」。達郎ファンなのは、ワカバでなく私(笑)。 達
郎さんの「♪ドゥーワー」の決定音で幻水がプレイできたら素敵・・・などど考えるアホは私くらいか。


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