第55話  白鹿結婚相談所2』


『問題はアイツだ。アイツさえ出し抜けば、あとの冒険者達は敵ではない・・・』
 キリィは、コートのポケットに手を突っ込んだまま、城の庭を行ったり来たりして考えにふけっていた。一方、ローレライも、庭の木陰に座って考えをまとめていた。
『あの男を出し抜くには、かなり汚い方法を使わなくてはなるまい』
 長い前髪が、濃いまつげの瞳に影を落とした。顔立ちは美しいこの女は、人を陥れることばかり考えていたせいか、卑小で陰険さばかりが目立つようになっていた。
 そろそろルルノイエとの闘いに決着がつきそうだ。住人たちは、城から出てからのことを考え始めていた。もちろん、キリィとローレライの頭の中は、シンダル族の遺跡のことでいっぱいだった。
『せめて、どこの国にあるか、確実な手がかりが欲しいものだ』
 キリィは帽子を深くかぶりなおすと、深いため息をついた。

「キリィとローレライを見合いさせるぅ?」
 道具屋の店先で、アレックスは思わず大声を発した。妻のヒルダは、少女のように頬を紅潮させてこの名案を語り続けた。
「ねえ、あなた、いいカップルだと思わない? 歳まわりはちょうどいいし、美男美女だし。何より、人生の目的を同じにしているのがいいでしょう? それって結婚に於いてとても大切なことだと思うわ」
「目的を同じにしてる、って・・・」
 他人を出し抜きながら、お宝を手に入れることが? なんか違う気もするのだが。
 しかし、確かに二人が協力すれば、意外に早く遺跡を発見できるかもしれない。
「そうだな。結婚すれば、財産は共有物になる。もう取り合いする必要も無くなる」
 というわけで、キリィとローレライが、ハイ・ヨーのレストランで見合いをすることとなった!

 アレックス夫妻がキリィと共に店を訪れると、ローレライは先に席についていた。キリィが帽子もコートも取ろうとしないのをヒルダがとがめると、ローレライは「いいんですよ、奥さん」と鼻で笑った。
「こいつは、コートの内側や帽子の裏に武器を隠し持っている。あたいと面と向かう時に、武器を体から離すわけはないんだ。
 この季節にコート姿は暑いだろう。喉がかわいただろう?」
 テーブルの上には、既にローレライが注文していたビールのジョッキが四つ置かれていた。ガラスを水滴がつたい落ちる。
「ふふん。では、おまえさんが、オレのジョッキを飲んでみろ」
 キリィが、ぐいとローレライの方へジョッキを押し出した。美女はむくれてぷいと横を向いた。
「何を入れた? 目が見えなくなる毒か? 下半身麻痺で歩けなくなる毒か? それとも命までも奪うつもりだったか?」
「・・・・・・。」
「アレックス達が、なぜこんなセッティングをしてくれたと思う? 争うのは馬鹿らしくないか? オレ達がくだらん争いをしている間に、他の冒険者が遺跡を発見するかもしれんのだ。・・・結婚とはいかなくても、協力しないか?」
 キリィは、コートのポケットから右手を出して、ローレライに差し出した。
「・・・おい。その中指の指輪の内側に突き出た針は何だ?」
 ローレライは整った眉を上げて、からかうように指摘した。
「バレたか」

 ヒルダはため息をついた。やっぱりこの二人じゃ無理があったかしら。美男美女だから結婚式も見栄えがするし、隣に立つのが楽しいかと思って進めた話だったけど。
 その時、横の通路をウエイトレスがデコレーションケーキを運んで行った。
「あら、どなたかの誕生日?」
「いえ、テンプルトン君が、地図作りで探索していて偶然シンダル族とかいうのの遺跡を発見したんですって。それのお祝いのパーティーを図書館でやるらしいです」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」

 後日、ヒルダのもとに、二人から「お相手は私には立派すぎて」「ご縁がなかったようです」という、断りの書状が届いた。ヒルダはため息をついた。
 でも、いつか、アレックスと二人で仲人をやってみせる! 宿屋の受付の椅子から立ち上がり、拳を握り天井を仰ぐヒルダであった。

                                               おわり

SABOTEN嬢から「白鹿結婚相談所」のリクエストをいただいていたので、調子に乗って書いちゃいました。
でも、SABOTENさんご自身は、ヒルダに相談に来ない方が無難かと思います(笑)。


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