第58話 『ABCは知ってても・・・』


「学校、ですか?」
 リーダーはエミリアの企画書を手に取った。エミリアはソファに深く座って足を組み換えると、にっこり微笑んだ。
「本来なら学生である年齢の子供も、闘いに参加していますでしょ? お勉強が不十分だと、大人になったら困ると思いますの。コウユウなども本に興味があるようで、図書館でマルロから字を教わりながら、一生懸命読んでいますけど。
 マルロとわたくしが主に教師を勤め、学科によってはシュウさんやアダリーさん、ホウアン先生等にも手伝っていただければ」
「いいんじゃないかな。シュウさん、どうですか?」
「そうだな。みんなの学力が上がることは望ましい。子供だけでなく、アマダやギジムやバドのように、大人で読み書きのできない者も集めてくれるとありがたいな」
 シュウも賛成し、こうして、『エミリア塾』が開設された。
「『エミリア塾』ねえ。何を教えることやら。あたいが母親なら、ぜったい息子は入学させないけどねえ」
 エミリアの親友であり、彼女の本性を知っているロウエンは、せせら笑ってベッドの上でごろんと横になった。
「だいたい、生徒に『整理整頓』とか言っておいて、この部屋だもんねえ」
「部屋の汚さに文句があるなら、私の部屋に遊びに来なきゃいいでしょ!」
「あんたの魂胆は見え見えなんだよ。自分の歳と釣り合う男達に相手にされなかったから、若くて将来性のあるコに唾つけようってんだろ? うちのギジムとコウユウに手を出すのだけはやめておくれよ」
「だーれが山賊の男なんかー」
「お、教師にあるまじき職業差別!」

「『花の色は移りにけりないたづらに』。これは、虚しいことに、美しい花の鮮やかな色があせてしまう、という意味です。みなさん、書けましたか? チャコくん、『り』の字が鏡文字になってるわ。サスケ君は? まあ、よく書けました」
 サスケの頭を撫でてあげる。サスケはぽっと頬を赤らめた。
「先生、『に』はこれでいいんですか?」
「どーれ?」
 挙手して質問したコウユウのノートを、わざとらしく覗きこむ。開襟のブラウスから垣間見えただろう谷間に、コウユウのゴクリと息を飲む音が聞こえた。
『ふふふふ。こんな少年達なら、私の色香でイチコロね』
「先生。これでいいのだろうか?」
 バドが無愛想な表情も崩さず、まじめくさった口調で挙手した。アマダもリキマルもギジムも、大人の生徒はあまり勉強好きではないのだが、バドの不必要な(注・エミリアにとって)熱心さは、不気味でさえあった。
「大人達は、酒くらってる方がいいって、みんな退学していくのにね。あのおやじなんて、字なんて覚えなくても、動物とだけお話してれば満足なくせにさあ」
 ワインをらっぱ飲みしながら、エミリアはロウエンの手からスナック菓子をむしり取った。ロウエンは缶ビールをあおりながら、
「おーや、あんたはバドも狙ってるのかと思ってたよ」
「やめてよ、あんな冴えないオヤジ。だいだい、人間になんて興味ないんじゃないのー?」
「だって、ムチの名手じゃーん? あんた、そーゆーの好きなんじゃないの?」
「バカ言わないで。そりゃあ、遊びで1回くらいはそーゆーのやってみてもいいかとは思ってたけど」(・・・おいおい。)
「おまけに、『動物専門』なんだろ? ほらほら、淫乱エミリアの血が騒ぐだろ?」
「・・・・・・。」(考えるなってば!)
 バドは、部屋に戻っても、教科書で復習を欠かさなかった。
『早く字を覚えて、キーボードが打てるようになりたい』
 バドの望みは、ムクムク達とメールのやり取りをすることだった(第46話「モバイズ・ブラザース」参照)。ムササビのメーリングリストに混ざりたい。その為には完璧に字を覚えなくては。
 明日から教室で起こるであるう攻撃(笑)を、バドはまだ知らない。

  おわり

幻水2のイラストって、どのキャラも妙に色っぽいですよね。
ジーンの衣装は「何?」って感じで問題外だけど(笑)、 ロウエンとエミリアの色っぽさったらないわっ!リィナやレオナもセクシーですよね。
でも、スリットが大きいバレリアや、露出度の高いハンナやオウランが、全く色っぽく感じられないのは、何故なのだろう・・・。



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