アンドロイドは電気ブランの夢を見るか?

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 ☆8☆

四日目の朝。
今日もいい天気らしい。
ブラインドが作る、斜めの影と光のストライプ。コントラストの強さが、日射しの明るさを教えていた。
ベッドサイドの窓を、叩く音がしたような気がしたのだが。
夢だったのだろうか。
眩しさに目を細めながら、朦朧とした頭で、チャーリーはブラインドを上げた。
「うわっ!」
「きゃっ!」
チャーリーは、窓ガラスに張りついていたパティ(朝だから素顔バージョン)に、びっくりして飛びのいた。
パティはパティで、ブラインドが上がった途端、上半身ヌードのチャーリーが居たので、驚いてうずくまってしまった。
窓を叩いていたのは、パティだったのだ。チャーリーはガラッと窓を開けた。
「やあ、お早う」
冷たい朝の空気が、澱んだモーテルの部屋に入り込んで来て、頭がすっきりしてきた。ハッカの匂いがしそうな風だ。それとも、パティのコロンの匂いかもしれない。
パティはまだ窓の下にしゃがんでいた。チャーリーの方を見ずに、「ゆうべは悪かったよ、ビールかけちゃったり、それから、その、色々からかったりしてさあ」地面を向いたままで、低い調子で早口で訥々と喋った。
今日は、白いコットンのワンピースを着ていた。頭には、花飾りのついたストローハットをかぶっている。まるっきりティーンエイジャーだ。顔はやっぱりスッピンだった。
「いや、僕の方こそ大人げなかったよ。ごめん」
その言葉でベティの顔はカッと赤くなった。キスの事を思い出したのだろう。
まだ地面を見たまま、「気にしてないよ、そんなこと。お客に、やらしい事されたりHな事言われたりは、日常茶飯事だよ。いちいち気にしてたら、仕事なんてやってらんないもん」そう言ってから、パティはチャーリーを盗み見た。反撃は効いただろうか、とでもいう表情だった。
でも、チャーリーは苦笑しているだけで、あんまりこたえてないみたいだ。
「チャーリー、早く何かはおってよ。レディと話すのに、ハダカだなんて、失礼だと思わないのかぁ」
もしかして、ずっと地面を見て話していたのって、それが原因だったの?
クスッと笑って、チャーリーは下着替わりのTシャツを被った。
店では、きわどい冗談で客たちにサービスするパティ。でも、素顔の彼女は、こういう女の子だった。
キスした時にわかった。あのファッションや色っぽいジョークは、パティの『鎧』なのだと。
「そうだ、今日、店でオーナーに会ったら『テレビも壊れた』って言っておいてよ。テレビはわざとじゃないだろうなあ」
「あははは、チャーリーが今言ったそのまま伝えとくよ」
パティは笑った。鼻の頭にしわを寄せて笑うと、鼻の上のソバカスが位置を移動する。やっと、いつものパティって感じだ。
「昨日の所で、一緒に朝メシを食わないかと思って、誘いに来たんだけど?サンドイッチと、コーヒーもポットで用意して来たよ」
「行く、行く」
チャーリーも笑顔になった。
身支度を整えてチャーリーが出て行くと、パティは自転車に寄りかかって待っていた。
ストローハットの後ろのリボンが、風になびいていた。ワンピースは、レースも刺繍もなにも飾りのない、ストンとしたシンプルなシルエットだが、可愛らしかった。『朝のお陽さまに一番似合うのは、パティなんじゃないか』と思わせた。
チャーリーは、チャリのカゴの中を覗いて、「今日もタマゴサンドなの?」と尋ねた。
パティはチャリを引いて歩き出しながら、「好きなんだ、このパン屋のタマゴサンド。もう五日目かなあ」
「毎日同じもの食ってて飽きないかぁ?」
チャーリーもパティの隣を歩き始める。
「まだへーき。でも、飽きたら別の好きなものを毎日食べるよ」
平然と言ってのけた。チャーリーはまた軽いショックを覚える。
「へん?あたい、好きなものには貪欲なんだ」
「僕は、好きなものに飽きるのって、すごく怖いけどな」
それは好きなものを失くすのと同じ意味だと思うから。
「ふうん」パティはくすっと笑った。
「だから、好きでもない女の人と結婚するんだ?でも、それでも飽きる事はあるかもよ」
「・・・!」
これは少しダメージがあったかも。
「あ、でも、もう二号にしろなんて言わないから、安心してよ。
シティへは、自力で行くよ、お金を貯めてさあ。むこうでもちゃんと働くんだ。たぶんまた水商売だろうけど。
シティで偶然会ったりする事があったら、お茶くらいは一緒に飲んでくれよ。社長令嬢のお婿様になった後でもさ」
「・・・。」
今の仕事を放棄したら、会社はクビだろうか。そうしたら婚約も解消されるかなあ。
チャーリーはぼんやりとそんなことを考えた。
チャーリーは空を見上げる。
青い空に、所々に白い雲。ゆるい風が雲を少しずつ動かしていく。

サリーたちを、なるべく安い家に放り込んで追い出すこと。
社長令嬢との結婚。
すべてが無意味に思えた。
それに比べたら、サリーとリトル・チャーリーを全力で守ることの方が、どんなに有意義かしれない。
リトル・チャーリーは自分を憎んでいるように思えた。サリーも、兄を恨んでいるかもしれないから、チャーリーの正体を知ったら、心を閉ざしてしまうかもしれない。
でも。
それは、今まで自分が安易な道を選んで来た代償なのだ。二人を愛しているなら、誠意を示すしか、わかってもらえる道はない。
『愛している?』
愛するものなど、作らないつもりで生きて来たのに・・・。

「・・・今日もいい天気だな」
黙りこくって隣を歩いていたチャーリーが、突然天気の話をしだした。パティは面食らいながらも、「う、うん。そうだね」と答えた。
昨日の広場に着くと、パティはさっそく朝食を広げた。
「毎日ピクニックみたい」と、楽しそうにはしゃいでいる。
「こういう場所で食べると、特別おいしく感じるでしょ?」
「ああ」
楽しそうなパティにつられて、チャーリーもあいづち打ったが、実際はサンドイッチを食べているのはパティだけで、チャーリーの喉はコーヒーしか通らなかった。
チャーリーは、ずっと城の方を眺めていた。
「食べないの?」
「コーヒーがおいしくてね。久し振りだな、朝のコーヒーをおいしいと思うなんて」
「・・・何を企んでいるの?」
「ひどいな、その言い方」
チャーリーは笑っていた。
「ねえ、僕の話を聞いてくれるかな」
「どうしたのさ、今さら改まって」
「教会に懺悔しに行く時間もないんでね。それに、この村には教会もないじゃないか」
「信心深い人は、毎週タウンの教会まで出かけてるよ。
で、なんだい、あたいの心清らかなところを見込んで頼むわけ?」
サンドイッチをほおばりなが、長いスカートなのをいいことに、芝の上でアグラをかいて座るパティ。
チャーリーはコーヒーをすすると、「聞いてくれる人は、別に、猫でもいいんだけどさ」と言って、また笑った。
「僕は地上げ屋の会社の社員で、しかも愛してもいない社長令嬢と婚約している」
「サイテーな男だわね」
パティは、コーヒーでサンドイッチを流し込んでから答えた。
「おまけに、たった七歳だった妹を、マッドサイエンティストの父親の元に置いて、さっさと自分だけ寮制のハイスクールへ入ったという過去を持つ」
「最低の二乗だわ」
パティは顔色も変えずに、次のタマゴサンドを手に取った。
「初めて任された大きなプロジェクトは、自分の捨てた故郷の、捨てた家の家族に、立ちのきのサインをさせることだった」
「よく受けたわね、そんな仕事。人間じゃあないわ」
「妹には、兄だと名乗らなかった。僕のことは恨んでいるだろうから、仕事がやりにくくくなるからね。十年振りに会っても、抱きしめてやることもできなかった」
「やっぱ、それ、人の心が通ってないよ。人でなしってあんたの為にある言葉だよ」
「・・・パティ。
君が泣くことはないだろう?」
「・・・。」
パティは、右手に食べかけのサンドイッチを握ったまま、肩を震わせていた。大きな目から大粒の涙を流しながら。
そして、わっとチャーリーに抱きついて号泣した。
「そんなに、自分を責めることないじゃないか!」
パティは泣きながら叫んだ。
「もう、いいじゃんか。十分苦しんで来たんだろう?そんなに自分を苛めることはないじゃんか」
パティはわんわん泣きながら、チャーリーにしがみついた。
「パティ・・・」
パティの体温は、温かかった。ルーシーとは違う体の温度だ。シャワーを浴びたてのルーシーを、ベッドで抱いている時でさえ、体温なんて感じたことがなかったのに。
パティは、チャーリーのために泣いてくれていた。チャーリーの痛みを一緒に感じてくれたのだ。
「チャーリー、もう、あんたの中には、答えが出ているじゃないか。
あとは実行するだけなんだ。
今からだって、絶対、生き方の軌道修正は出来るよ。意志さえあれば。
あたいは、祈っててやるよ」
「パティ。
『祈る』って、君はいったい何教なのかな?」
チャーリーの方は、明るく屈託の無い様子で、笑いながらパティの頬の涙をぬぐった。
「間違っても君は、日曜日に早起きしてタウンの教会へ行くグループの一員じゃないだろう?」
このシチュエーションで、パティを抱きしめてキスするのは簡単だったろう。今までのチャーリーだったら、その方が自然な行動だった。
でも、チャーリーはそうしなかった。
パティに魅かれていることを、これからすることの言い訳にしたくなかった。
「自転車、借りていいかな?
これから城へ出かけて来るつもりなんだ」
パティはうなずいた。

チャーリーはパティから自転車の鍵を受け取った。
自転車のサドルにまたがってから、チャーリーは思い出したように、パティに尋ねた。
「君はなんでシティに行きたいのさ。他の都市や町じゃダメなの?
たとえば、恋人が、静かな田舎の町でひっそり暮らしたいと言ったら、付いて行ってはあげないのか?」
「行くに決まってるだろ。それでその田舎でずーっと『シティに行きたい』って愚痴って暮らしてるだろうよ」
その答えにチャーリーは思わず声を出して笑ってしまった。
「じゃあ、自転車、借りて行くね。
『ウッド・ストック』の駐車場に返しておけばいいだろ?」
「うん。どうせ今夜も飲みに来るんだろ?」
「・・・それはわからないな。今日でここを引き払うかもしれないし」
パティの表情が、不安そうに歪んだ。
「行く時は、挨拶ぐらいしに来てよね」
「わかったよ、約束する」
「本当だよ。本当に約束だよ。
あんたは、このままどっかへ行っちまいそうな気がするよ。もう会えないなんて、嫌だからね」
「パティ・・・」
昔、嘘をついた。
『朝まで、手をつないでいるからね』
そう言ってサリーを寝かしつけたチャーリーは、タクシーで城を出て行った。
サリーが泣くと可哀そうだから?
いや、泣かれると、自分がつらかったからだ。だから、きちんとわけも説明せずに、さよならも言わずに、内緒で出て行った。
あとで泣くサリーの痛みのことより、自分の痛みを最小限に抑えようとした。
今はもう、あの時のずるい自分ではない。
「必ず、君に『さよなら』を言いに戻るよ」
パティはうなずいた。信じてくれている目だった。



☆9☆

チャーリーは、振り向かずにひたすら自転車を走らせた。
風が気持ちいい。城までのなだらかなのぼりも、息が切れるのがかえて気持ちがよかった。額に一筋汗が流れていった。
「はあ、はあ、はあ。運動不足の身にはキツイな」
やっと到着したチャーリーは門の前に自転車を止め、呼吸を整えた。
汗をぬぐい、背広を脱ぎ捨て、カゴの中に背広を突っ込んだ。
錆び付いた音を出す門を開き、中へ入った。
城の中へ入る前に、裏庭へ向かった。チャーリーは両親の墓の前に立った。
サリーに本当のことを言う勇気を。
リトル・チャーリーにぶつかっていく勇気を。
チャーリーは十字を切った。
「親不孝ものが、今さら祈っても遅いってば」
背中で少年の声がした。リトル・チャーリーだ。
「サリーは?」
「軽い熱を出して寝てたけど、さっきやっと起きて、昼メシの準備を始めたところ」
「発熱した?」
「・・・おまえにフィアンセがいたのがショックだったんだろ」
冷たい口調でつきはなしたように話すリトル・チャーリー。
「サリーに、本当のことを言いに来たんだ。
僕が兄のチャーリーだってことを。罵られ、憎まれても、きちんと本当のことを言おうって。
城を出た時の自分勝手な理由とか、そのあとどんな風に生きてきたとか、とても情け無くて恥ずかしい話を、ね」
「・・・。」
リトル・チャーリーは何も言わなかった。いつもなら、額にスジたてて怒鳴りまくる奴なのに。
ふと、気づいた。昨日までと髪型が違う。
大人のように横で分けてぴったりとなでつけていた。少年の顔にその髪型だけが妙に浮いていた。
「どうしたの、その髪型」
チャーリーは吹き出しそうなのをこらえて話しかけた。
「気分転換だよ。・・・ふん、笑いたきゃ、我慢してないで笑えよ。どうせ似合わないんだ。いいんだよ、ちょっと、やってみただけなんだから!」
リトル・チャーリーは、手で乱暴に髪をぼさぼさに乱して、整髪料で固めた形を崩してしまった。
「ごめん、いや、似合わないわけじゃないよ。ただ、その髪型は君の歳ではまだ早すぎるだけさ」
自分の十五歳の頃の心情を思い出して、傷つけないように慰めようとした。
「あと三年もすれば、ばっちり決まるように・・・」
言ってしまってから、はっとした。リトル・チャーリーの三年後は、十八歳ではない。やっぱり十五歳なのだ。
「・・・ご、ごめん」
「ふん!何に謝ってんだよっ、ばーか!」
リトル・チャーリーは、ますますむくれてしまった。
「とっくに、諦めはついているよ、大人になれないことには。
二年前にサリーに『年齢』を追い越され、今年になってからは身長も追い越された。
オレは所詮ロボットだよ。サリーの慰めの為に作られたオモチャだ。
でも、薄情な実の兄よりは、サリーの心の支えになったと思ってるぜ」
かわいそうなリトル・チャーリー。博士も、ここまで高度なのを造らなくてもいいものを。恋をするほど、情緒の豊かなアンドロイドなんて。
「ねえ、リトル・チャーリー」
『リトル』をつけたので、彼はギロリとチャーリーを睨んだ。
「ごめん、ごめん。チャーリー、僕がサリーから逃げた理由はねえ」
誰にも、言うつもりはなかったけれど、リトル・チャーリーには、言っておこうと思った。
「怖かったんだ。サリーが美しい少女になっていくのを、兄として見守っていく自信がなかったから」
「・・・。」「今は、かえってちゃんと『妹』として見ることができるけどね。その点は外へ出てよかったと思っている。
城の中の狭い世界で、たった一人の女の子とだけ向かい合って暮らすのって、あんまりノーマルじゃないよ。
愛してもいいと思う。でも、それが、本当に愛しているのか、たった一人しかいないから愛しているのか、わからなくなっちまいそうで・・・怖いよ」
「オレは、ちゃんと愛している。百万人女の子がいる場所で暮らしていたって、サリーだけを愛する自信がある!」
「愛しているなら、サリーの幸せのことを考えてやろうよ」
「・・・。」
「サリーは、友達が欲しいと言った。外の世界にも興味があると言った。
この城を出よう?」
「くそ、うまいやり口だなっ!」
リトル・チャーリーはいまいましそうに地面に唾を吐いた。そして手の甲で唇をぬぐうふりをして、涙を拭いた。
「チャーリー、君がいくら僕を阻止しようとしても、君らはここを立ちのかないわけにはいかないんだ。
サリーは、戸籍上も博士の養女にはなっていないはず。ズボラなオヤジが、かあさんの死んだドサクサにそんな気の利いた事をできるわけないもんな。
博士の子供は僕ひとりだ。僕が契約書にサインをすれば、この土地と城は売却できる。実際、既にサインは済ませてある。
君らが立ちのきに同意しなければ、うちの社は裁判に持ち込む気でいるよ。勝つのがわかってるからね。
僕は裁判沙汰にしたくない。サリーを矢面に立たせたくないし、それに、もし調査で君の存在が知れたら、君は解体されてスクラップになってしまう」
「・・・。」
「別に、君の心配してるわけじゃないよ。君がいなくなると、サリーが悲しむだろ?」
それはウソだった。チャーリーはすでに、このリトル・チャーリーにも、弟のような愛情を感じていたから。
いつも喧嘩ごし。肩ひじ張って、愛するサリーを守ってきた、小さな『自分』。
健気で、悩んで苦しんで、でも彼は戦ってきた。自分の気持ちに逃げずに正直に。
リトル・チャーリーは、がっくりと膝をついた。肩が震えていた。
「サリーを守りたいけど、オレじゃ、力が足りないんだ。オレは・・・永遠に十五のガキで、アンドロイドで・・・。
ちくしょう・・・。ちくしょう・・・」
リトル・チャーリーは唇をかんだ。少年の目から涙がぽろぽろこぼれた。
「おまえなんか、サリーを見捨てたくせに!今さら何だよ!
大人だからって、人間だからって、サリーを守れるのか!?
おまえみたいな自分勝手な奴が!無責任な奴が!
おまえにサリーへの愛情なんて、あるもんか!
オレは認めない!
ここは出て行かなきゃいけないにしろ、おまえの世話なんかに、絶対になるもんか!」
「『あんな奴が父親だなんて、絶対に認めない』・・・ずっとそう思ってきた」
ぽつんとチャーリーが言った。
「ずっと博士を憎んで来たよ。
オヤジのわがままのために、快適なシティのコンパートメントを追われて、不自由な城で孤独な子供時代を過ごすハメになったし、ここを出てからも、博士の息子だってことで職を無くしたり、いろいろ辛いこともあったからね。
あんな風になりたくないと思って、そうやって生きてきた。そうしたら、とんでもなく嫌な生き方をしている男になっていた」
「・・・。オレも、博士は恨んだかな。結局嫌いにはなれなかった人だけど」
リトル・チャーリーもしみじみした調子で答えた。
「ここへ帰って来て・・・僕は少しオヤジのことが理解できた気がする」
「博士は、もう雲の上でかあさんとと会えたのかなあ」
突然、リトル・チャーリーがそんなことを言い出した。誰に言うでもない、独り言のような言葉だった。
チャーリーは並んだ十字架に視線を落とした。
「会えたよ、きっと。
今ごろ、かあさんの焼いたホットケーキでも味わっているかもしれないよ」
リトル・チャーリーも肩をすくめて、
「そうだよな、たぶん。
それで、かあさんのしぐさとか見て、
『そうか、ここはこうだったのか!』
なんて言ってるかもな。
『ちょっと髪をかきあげてみて』とかね」

「なんだ、こういう動きだったのか!」
と手を打った父を見て、口に手をあて思わず笑う母。
「え?」と首をかしげた後、ああそうか、もう必要ないんだねと笑顔を返す父。
笑い声。
母の焼いた、ホットケーキのバニラのいい匂い。
父のぼさぼさの髪、少しズレたメガネ。

チャーリーの手の中、ホットミルクのカップの温かい感触が蘇った。
「チャーリー?」
涙が頬をつたった。初めてだった。
母が死んだ時は、子供すぎて人の死が理解できず、泣かなかった。
父が死んだと聞いても、涙などでるはずもなかった。
初めて、チャーリーは泣いた。悲しいのではなく、切なく苦しかった。もう二度と手に入らない至福のとき。
父は、そんなにも愛して、幸せだったろうか。母は、そんなにも愛されて、幸せだっただろうか。
遠く、雲の上から、二人の笑い声が聞こえた気がした。
「城を出たら、一緒に暮らさないか。サリーと君と僕とで。
田舎のちいさな町で、静かに暮らそう。
僕は会社をやめて、また塾の教師でもするさ。地味に暮らせば二人くらい養える」
「・・・本気かよ?」
「もちろんだ。社長令嬢との婚約は破棄だ。
いつか、二人の妹と弟を大切にしてくれる嫁さんを貰うよ。二人の事を理解してくれる人じゃなきゃ、ダメだ。
そういう人が現れなければ、ずっと独りでもいいや」
「妹と・・・弟?」リトル・チャーリーは、『弟』のところで、戸惑いながら自分の鼻を指さした。
「そうさ。君はサリーの兄で、しかも僕より年下なんだから、僕の弟でもあるだろう?」
「・・・。」
「そのうちサリーもきちんと嫁に出して。その前に学校にやらなきゃな。
リトル・チャーリーはずっと家にいていいぞ。メンテの仕方は詳しく教えてくれよ」
「一人で盛り上がるなよ。オレが城を出ること、OKすると思ってるのか?」
「いくら君が頑張っても無理だよ。
城と土地を相続したのは僕だけだ。僕はピーナッツ社と売買契約を結んである。
住んでる人の権利があると言っても、サリーは未成年で、保護者の僕の保護を必要とするし、君は城の備品扱いになる。家具と同じなんだ」
「備品だとっ!」
「法律ではね。
それに、公の場で君の存在が知れれば廃棄処分になる身だろ。アンドロイドの製作は特マル禁止事項だ」
「・・・。」
リトル・チャーリーは大人の男のようなため息をついた。
「・・・わかってるよ。サリーは本当はおまえに任せるのが一番いいってこと。オレには守りきれないってことも。
何度も自分に言い聞かせてきた、本物のチャーリーがサリーを迎えに来たら、サリーに『よかったな』って言って、笑顔で送り出してやろうって。
なのに・・・。
おまえは地上げ屋の会社の社員として、オレたちを手なづける為にやってきやがった。サリーにも、『兄』だと名乗らず、すました顔をして近づいて・・・。
おまけに、何も知らないサリーは、おまえに恋をした。
おまえは、オレが欲しくてたまらなかった、大人になった時の背と顔と声と・・・人間の体とを身につけて、サリーの前に立っていたんだ・・・」
「リトル・チャーリー・・・」
リトル・チャーリーは、子供のように手の甲で涙をぬぐった。
「頭でわかっていても、許せなかったんだ・・・。
すぐに、おまえが、オレが思ってたようなヤツじゃなくって、もっと誠実なヤツなんだってわかったけど、でも悔しくて素直に慣れなかった。
いつも喧嘩ごしで、悪かったよ。サリーの事、頼むよ」
「何言ってるんだ、君も一緒に来るんだよ、リトル・チャーリー」
「でも・・・」
「君は僕の弟みたいなものだと言っただろう。一緒に行こうよ。
それに、君がいないとサリーが悲しむよ。・・・な?」
「・・・。」
彼は、ゆっくり頷いた。
「よし、じゃ、握手だ」
その時。
「あれ?飛行機?」
青く澄んだ空にセスナが銀色に光った。珍しい・・・というか、この村をセスナが飛ぶなんて初めてだ。
「何か落とした?」

ドカーン!

派手な爆発音がして、城の屋根が吹っ飛んだ。
「うわっ!」
「ふせろっ!」
チャーリーはリトル・チャーリーをかばって地面にはいつくばった。ぱらぱらと小石やレンガの破片が降りかかった。
「な、なんだ、あれ。どこかで戦争でも始まったのか」
「それより、中にサリーがいるんだ!」
・・・と、その時、遠くで携帯電話のコール音が聞こえた。自転車のカゴの背広のポケットだ。
今の爆風で自転車はひっくり返っていた。チャーリーは携帯だけひっぱり出した。
『ハーイ、チャーリー?』
鼻にかかった甘い声。ルーシーだった。
『昨日は、電源を切りっぱなしだったでしょう。
連絡が遅くなったけど、期限が一日早くなったの。今日、城を取り壊しに、セスナが向かうはずよ』
「・・・もう来てるよ」
怒りを押し殺した声で、チャーリーは答えた。
『あら、現場屋さんにしては仕事が早いわね。感心だわ』
「妹が、まだ中にいるんだ!やめさせてくれ!」
『無理よ、キャセル代が高すぎるわ。
何かあったとしても、治療代と慰謝料の方が安いもの。死亡した時の為には保険も入っているし』
「僕の妹なんだ!大切な!たった一人の!」
『それで?』
「・・・。」
『チャーリー、あなた、まだお城の近くにいるの?早く逃げた方がいいかもよ』
チャーリーの携帯を握る手が怒りでぶるぶる震えていた。
「・・・オレは、もう逃げない。そう決めたんだ。
今日付けでピーナッツ社は辞める。婚約も解消だ」
『まあ!・・・はっきりさせてね、婚約解消は、あなたから言ったわよね、確かに』
そして高らかな笑い声が響いた。
この仕事が終わったら、ルーシーから言い出すつもりだったに違いない。
初めから、利用されていたのだ。この城と土地を所有する、ブラウン博士の息子だから。だから近づいて来たのだ。
『退職金は自己都合だから五十%カット、婚約破棄の慰謝料は退職金から引かせてもらうわね』
「好きにしろ、バカヤロー!」
チャーリーは携帯を放り投げた。
「リトル・チャーリー、早く行こう。サリーが心配だ」


☆10☆

チャーリーたちはキッチンへ急いだ。廊下を走っていると、また上の方で爆音が聞こえた。
「危ない、ふせろ!」
見えないのでどこが壊されたかはわからないが、ガラスの割れる音が派手にしていた。
「サリー!大丈夫かー!」
キッチンのドアを開けて、チャーリーとリトル・チャーリーが同時に叫んだ。
部屋自体は攻撃されていないようだが、衝撃で食器棚の食器が床に落ち、砕けて破片が飛び散っていた。コンロからは火の手も上がっている。
サリーはテーブルの影にうつ伏せで倒れていた。チャーリーは走って抱き起こした。
「サリー!・・・うわっ!」
サリーの右頬の皮膚が剥がれ落ち、金属の部品や細いラインが見えていた。
ボルトに歯グルマ、記憶チップに基盤。ギザギザに欠けた頬の穴から、わけのわからない部品・・・少なくとも、マトモな人間の顔には埋め込まれていないもの・・・が、見え隠れしていた。
「こ、これは・・・?」
「サリーを抱えて逃げて!オレは、博士の研究室から、メンテの道具一式を持って出るから」
「・・・わかった」
サリーまでアンドロイドだったなんて・・・。でも、それじゃあ、本物のサリーはどうしたんだろう?
しかし、今はあれこれ考えている余裕はなかった。
チャーリーは『壊れた』サリーを抱き抱えると、廊下に飛び出し出口まで走った。古い城なので、天井や壁がパラパラと破片をこぼれ落としていた。
あと何分もつのか。
あと何発落とす気なのか。

息を切らして城の外に出ると、坂道を自分のクルマがすごいスピードで昇って来るのが見えた。確かに自分のクルマだ。
クルマは門の前で急ブレーキのイヤな音をさせ、
ガッシャーン!
門にぶつかって止まった。
「パティ!」
運転しているのは、パティだった。出勤前だったのだろう、革ジャンとビスチェ姿で既にメイクもしていた。
「早く乗って!もうすぐ崩れるよ。近くにいると危ない。
この城の周りを飛んでたセスナ機が、爆弾を落としているのが見えたんで、飛んで来たんだ。チャーリーがまだ居るはずだって。
いったい、どうしたって言うの?何が起こったの?」
「・・・キーは僕が持っているのに、なんでパティが運転してるんだろう?」
運転席を見ると、キーの代わりに針金を加工した物が差し込まれていた。
「なるほどね」納得したチャーリーだ。
サリーを後ろの座席に寝かせると、「もう少し待っててくれ。中にまだ一人居るんだ」
そして再び、崩れそうな城の中に飛び込んで行った。
セスナはまだ爆弾を落としていたが、恐怖は感じなかった。リトル・チャーリーの安否で頭がいっぱいだった。
階段の途中で足を引きずるリトル・チャーリーを見つけ、肩を貸した。
「歩けるか?」
「ああ、こんなのかすり傷・・・いや、かすり故障さ」
そう言って彼は笑った。
走りながら、足に地震のような揺れを感じていた。建物ごと崩れるかもしれない。天井が落ちてきて、べっしゃんこってやつだ。
「急ごう!」
二人が城の扉からころがり出ると、後ろの壁ががらがらと音をたてて崩れていった。台所から上がった火の手もかなり大きくなっていて、煙がもうもうと立ち込めていた。
パティも「さ、はやく乗って!」と急がせた。
「パティ、君、免許・・・」
「あるわけないでしょ」
「やっぱり。・・・僕が代わるよ」
チャーリーが運転席に着くと、クルマは今度は猛スピードで坂を降り始めた。

遠く、城が崩壊していくのが見える。
チャーリーは、今朝もパティの朝食に付き合った、例の広場にクルマを停めていた。
助手席では、パティも、物も言わずにじっと、城が平べったくなっていくのを見つめていた。
後ろの座席のリトル・チャーリーは、サリーの修理にかかっていた。自分の足はさっさと直してしまった。サリーも二、三十分で直るらしいので、チャーリーはクルマをここに停めて待つことにしたのだ。
リトル・チャーリーは、手の動きは止めずにぶつぶつ文句を言い続けていた。
つまり、
「城は壊さないでホテルにするって言ったのに」とか、
「思い出は大切に残してあげる、とか言ってさ」とか。
「あの約束はサギだったわけか」とか。
「うるさいなっ!
オレもそう聞いてたんだから、仕方ないだろ!」
ついにチャーリーも切れた。『本当に』騙されていたのはチャーリーなのだ。ハラがたって仕方無いのはチャーリーの方だった。
「それに、サリーがロボットだったなんて・・・。
確かに人間の女の子にしちゃ、素直すぎたけど。
でも、だからって、パティがマトモだなんて死んでも思わないがなっ!」
「なに怒ってんのよ」
「怒るよ。フィアンセに騙され、アンドロイドにも騙され、妹にも騙されてた」
「オレは騙してないよ、敢えてサリーがアンドロイドだと言わなかっただけだ。
サリーは、完成してまだ二年くらいで、自分がアンドロイドだってことも知らないんだ。おまえに言うと、サリーにも勘づかれるかもしれないだろ」
「本当の事を言うのは、早い方がいいと思うよ。僕が兄のチャーリーだって事も、サリーがアンドロイドだって事も」
「わかってるよ!機会を見て言うってば!」
「相変わらず攻撃的だなあ」
「仕方無いだろ!・・・本物のサリーは、とんでもない子だったんだ。親代わりとしてサリーに対抗するうちに、こういう怒ってばかりいる性格になっちゃったんだよっ!」
「・・・って、リトル・チャーリーは言ってるけど、パティ、反論ある?」
「あらあら、バレちゃってた?」
パティは肩をすくめた。
「サリーがロボットだと知るまで、オレは気づかなかった。すっかり騙されてた。
きっと君は、僕が店に入って来た時から、兄のチャーリーだと気づいてたんだ。
面白かっただろ、兄貴を誘惑してからかって、困らせて。
オレが誘惑に乗ってたら、どうする気だったんだ」
「別にいいじゃん、それはそれで」
「パティ!」
「だってイトコは結婚していいんだろ」
「・・・君は。知ってた?」
「十三歳の時、パパから、あたいの本当の親の事を聞いた。ここから出て外で学びたいなら、ジェリー・トマスの家にホームスティできるよう頼んでくれるとも言った。
そしてあたいは城を出て行ったんだ。
研究室にこもりっきりのパパの事も、口うるさいリトル・チャーリーの事も、あたいは大好きだったけど、外の世界も見てみたかったからね」
「でも、親父は寂しくて、結局こういうのを、また作ったわけだな」
「これがパパの理想の娘なのかねー。ちょっと無気味」
パティの言葉に、二人のチャーリーは声をそろえて、「サリーはいい子だぞっ!」
「はいはい。どーせ、あたいは悪い娘ですよ。
でも、パパは、こんな娘でも愛してくれてたよ。彼なりの愛し方で。
リトル・チャーリーを作ってくれたのも、本当の事を話して外の世界へ出してくれたのも、パパの愛情だもん。
ねえ、チャーリー。
あたいにとっての、幸せの風景は・・・。
チャーリーが焦がしたトースト。
半熟のスクランブル・エッグ。
沸かしすぎたホットミルク。
・・・あたふたとチャーリーが朝食の支度をしてくれている風景かもしれない。
夕食の時、パパを呼びに行く階段でつないでくれたチャーリーの手。
眠る時、つないでいてくれた手。
研究室に呼びに行くと、パパはいつも笑顔で迎えてくれたよね」

『今夜のおかずはなんだろう。あ、シチューのにおいがするな。
サリーは、ちゃんと人参を食べれるかな。チャーリーに押しつけて、兄さんを困らすなよ』

チャーリーも思い出していた。あの城で暮らした日々のことを。
『どうしたんだ、二人とも泥だらけで。裏庭を探検してて沼に落ちただとー?
おいおい、気をつけてくれよ。特にチャーリー。君はサリーを守らないと』
嵐の夜に、すきま風で飾りの甲冑がカチャカチャと音をたてて、サリーが泣いて怖がったこと。サリーを励ましながら自分も怖かったこと。
ミルクを吹きこぼれさせて、自分は火傷しているのに、その痛さにも気づかず、サリーにかからないでよかったとほっとしたこと。
サリーが、チャーリーの十五歳のバースデーにケーキを焼いてくれたけれど、ぐちゃぐちゃで、博士もチャーリーも、張本人のサリーさえも、むっとしながら食べたこと。
「ママが死んで、幸せの全てが終わってしまったと思い込んでいたのは、チャーリーにいさん、あんたの方だよ」
思い出の残った城は壊れていく・・・。跡かたもなく・・・。
埃と煙を舞い踊らせながら。

「パティ、ひとつだけ聞かせてくれ」
「・・・あたいも愛してるよ、チャーリー」
パティは、城の残骸を遠い目をして見つめながら答えた。
「パティ、僕はまだ何も・・・」
「チャーリーの質問が何であっても、今のがたいていのことの答えになってると思うんだけど?」
「・・・確かに」
城を出て行ったこと、恨んでいるのかい?
僕をからかっていたのは、憎んでいたから?
どんな問いももう無意味だった。パティの笑顔がそこにある。
「『キスしていいかな?』って聞くつもりだったんだ」
「えっ?」
チャーリーは、隣に座ったパティをきつく抱きしめ、唇を重ねた。
今度はパティはおとなしかった。初めてキスした時は、ビールをひっかけられた後、平手で殴られたけれど。
ゴチン!
固い金属のようなものが、チャーリーの後頭部を直撃した。
「いってー」
チャーリーは後ろを振り向いた。リトル・チャーリーがスパナで殴ったのだ。
「人が真剣にサリーを修理してるっちゅうのに!おまえらは何やってんだーっ!」
ピ・・・ピッ・・・ピッ・・・。
「サリーが直ったぜ」
「・・・アタ・・・マ、いた・・・い」
「まだ音が変よ」
「パティ、せめて『声』と言ってやれ。
さあて。これから、どうしようか」

そしてチャーリーのクルマはシティに向かった。
リトル・チャーリーとサリーは、見つかったら廃棄処分だ。『田舎の町より、都会の方が他人に無関心だから、きっとバレない』というパティの意見に強引に丸めこまれ、チャーリーは、シティの自分のアパートメントにとりあえず戻る事にした。
「サリーとリトル・チャーリーのことは、僕が面倒見るつもりだったけど、なんでパティまで付いて来るわけ?」
しかも、自分だけ、アパートから着替えや化粧品、アクセサリーまで持ち出して来た。もちろん例のテディ・ベアも。
「狭いだろ!」
後ろの席のリトル・チャーリーは文句を言ったが、ぬいぐるみの隣に座ったサリーは大喜びだった。
「パティさん、時々貸してくださいね。リボンを取り替えたり、髪飾りをつけたりしてもいいですか?」
「いいよ。可愛くしてあげなよ」
「はい。ありがとう」
「あたい達、けっこう気が合いそうだね」

シティに着いて、チャーリーのアパートの近所のスーパーに寄り道した。
「夕飯はタマゴサンドにしよう」というベティ。
カゴに、チョコレートばかり放り込むリトル・チャーリー。
アイスを欲しがるサリー。
小さな子供を三人も連れた買い物みたいで、疲労も三倍だった。
「そう言えばリトル・チャーリー。
君達のエネルギー源は何だい?街でも手に入れられる物かい?」
それが、チャーリーの一番の心配ごとだった。
リトル・チャーリーの代わりにベティが答えた。
「チョコだよ」
「なるほど。子供の頃の僕の大好物か。ってことは、サリーはアイスだね。
スーパーで手に入る物でよかった」
「チョコとアイスは、切らさないよう、気をつけてくれよ」
養ってもらう立場のくせに、リトル・チャーリーが偉そうに言った。
「ちぇっ。虫歯になるぞ」
「オレの歯は、なりませーん、おあいにくさま」
「さて、チャーリーの為に、次はビールだね」
パティが缶ビールに手を伸ばそうとするのを、チャーリーは止めた。
「どうせならジンにしてくれ。
ビールはあまり好きじゃないんだ。
ほんとうは、ジン・ライムが一番好きなんだ」

四人で、パーティーのように暮らそう。
幸福を、僕はもう恐れない。
「雨?」
「クルマまで走ろう。・・・ほら」
チャーリーは、片手に買い出しの荷物を抱え、もう片方の手をパティに差し出した。
パティは笑顔でチャーリーを見ると、そっと自分の手を重ねた。
きっと、雨に降られた事さえ楽しい思い出になる。チャーリーはふとそう思った。


<END>
 

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