三題話 (福山ロス・年賀ハガキ・カボチャ)
「理想の夫の見つけ方」

三題話 (福山ロス 年賀ハガキ かぼちゃ)
2015.10.31 川柳つくしさんのシークレット落語会で使っていたお題を拝借して書きました。


今年の九月に、若い女性やそうでない女性にも大変に人気のある福山何某という歌手が、女優の吹石一恵さんと結婚しましたが。
そのニュースを昼休みに知ったOLさんたちがショックを受けて大勢早退したんだそうですね。
その後も皆さんなかなか立ち直れず、「福山ロス」というという社会現象にまでなったんだそうで。
明るかった子が最近元気がないんで、
「なあに、あんたも福山ロスなの?」
「違うわよ、私、別に福山のファンじゃないから。サブカル女子だし。星野源のファンだし。ピエール瀧のファンだし。サブカルが好きなの知ってるでしょ」なんて必死に否定して、でも時々こっそりトイレで泣いてたりする。
これを「ロス疑惑」と言うんだそうで。
・・・ある年代以上のかたにしか、わからないという・・・。

「ねえ、宣彦さん。ももえを元気にするいいアイデアはないかしら。九月の例の事件から、すっかり落ち込んじゃって」
「福山ロスなんて。ももえさんも大人げないよなあ」
「そんなこと言わないで。大学時代から十年来の親友なんだから」
「ともちゃんは優しいよなあ」
「そんなことないよ。私が去年宣彦さんと結婚して幸せだから、ももえにも幸せになってほしいんだよ」
「そうだね、僕たち、ほんとに幸せだもんね」
「そうね、宣彦さん、幸せよね」
もう勝手にやれって感じですけれど。
「そうだ、会社の映画鑑賞サークルのハロウィーンパーティー、ももえさんも招待したら?夫婦で行く予定だったやつ。友達とか、色々連れて来ていいんだから。仮装したり、パーティーで騒いだり、気晴らしになるんじゃないかな。
それに、独身の奴も来るしさ。いい出会いもあるかもよ」
ということになりまして。

「宣彦さん、よかったわ、ももえが参加するって言ってくれて。あ、ここが会場のレストラン?貸切なのね。
 わあ、すてき。深い森みたいになって。針葉樹の鉢植えがたくさん。あ、あれ、梟や烏の剥製ね。凝ってるわね。
定番のジャックドランタンやガイコツの飾りもある。すてきな会場」
「さ、更衣室でさっさと着替えようぜ。魔女とドラキュラにしてよかったな、会場の雰囲気にぴったり」
「家からは普通の服で来れるから、助かるわ。あ、着替える前に、駅までももえを迎えに行って来るわね」

「あ、ももえ〜。久しぶり。あれ、もう家からメイクしてきたの?」
「違うわよ」
「だって、顔が真っ白で頬にシャドウ入って目の下も黒いよ」
「やつれたのよ。福山ロスで」
「えええっ。・・・でもそのままゾンビになれて便利ね」
「なにいってるのよ。
 ゾンビなんてやらないわよ。仮装は、これよ。ほら、袋の中身」
「え、どれどれ。・・・白い衣装?・・・白いハチマキ?・・・ろうそく二本?」
「五寸釘と、ほら、これが吹石人形」
「丑の刻参りなのっ!?・・・でも、随分、人形のクオリティ、高いね。吹石一恵にそっくりだよ。
うわあ、すっごくかわいい。目もぱっちりしているし、髪の毛、つやつやして、綺麗。」
「似せた方が効果があると思って一生懸命に作ったら、こんなかわいくなっちゃって」
「まあ、本人がかわいいからね」
「くやしいぃぃぃぃ」
「まあまあ。・・・でもほんと、髪の毛とか、綺麗だね。これ、絹糸なの?」
「材料費で五千円かかった」
「なにそんなにお金かけてるの」
「しかも作るのに三日徹夜した」
「手間もかけてるよ。・・・もしかして、それでやつれてるんじゃないの。
 でも丑の刻参りはやめたほうがいいよ、せっかく独身男性もたくさん来ているのに。怖すぎると引かれるよ。魔女のコスプレくらいにしときなよ、貸してあげるから。私はメイクでゾンビにしてもらうから、このままの服で大丈夫」
「うん、わかった。ともちゃんが言うなら。色々、ありがとう」
「着いた、ここが会場だよ」
「へえ、凝ってるね。・・・樹がいっぱいある。あの樹のあのあたりに吹石人形を刺すと収まりがよさそう」
「もう、丑の刻参りから離れて」
 で魔女のコスプレをしましたももえさん、親友夫婦の心遣いに感謝し、おいしい料理やお酒を味わい、少し元気になりまして、ミニゲームなんかにも参加することになりまして。
「ほら、ももえ、この、カボチャ型のボールを的に当てるの。的に当てると賞品がもらえるのよ」
「わかった。・・・えいっ。・・・あ、はずれた。・・・もう一度。えいっ。・・・難しいね。的が、ただのボードだから、いけないんだよ。ちょっと待って」
「え、なにしてるの」
「これでいいや。・・・えいっ!」
「当たった!すごい、ボードが勢いで倒れたよ。プロ野球のピッチャーみたいな剛球だったよ。どうしたの」
「ボードに吹石人形、貼ってみた」
「なにやってるの。・・・あ、もうカボチャはぶつけなくていいから。賞品はゲットしたんだから」
「えいっ。えいっ。えいっ。・・・足でも踏んでやる」
「やめなさいってば。・・・誰か止めて〜」

「まったくもう、ももえったら。パーティーから追い出されちゃったじゃない」
「ごめんね、ともちゃん、宣彦さん。
 私、福山ロスから立ち直るために、婚活するわ。婚活パーティーに出たり、出会いのありそうなサークルに入ってみたり、努力してみる」
 そして年が明けまして、若夫婦のところにももえからこんな年賀ハガキが届きました。
「なあ。ももえさん、結婚したんだ?」
「え?うそ、聞いてないよ」
「だってほら、『私たち、結婚しました』年賀状が来てるよ」
「えっ、・・あ、ほんとだ。ウエディングドレスとタキシード。
苗字も変わってる。・・・福山ももえ。・・・福山?
あれ、このお相手、福山じゃない。見て、この顔」
「ほんとだ。なんだよ、合成?」
「でも、住所も変わってるよ。結婚したのはほんとで、福山はジョークなのかも。
 新しい電話番号も書いてある。電話してみるね。
・ ・・もしもし、ももえ?
『福山でございます』って出たわよ。」
「大丈夫かな、ももえさん。福山ロスをこじらせて、心の病になってないか?」
「年賀ハガキ見たわよ。どういうこと?え。社交ダンスサークルで知り合ったの?福山って苗字で、少し顔も似ていた?え、そうなの?でも、写真は、もう福山にそっくりだよ。・・・メイク?福山そっくりにメイクしてもらったの?」
「ほんとだ、写真、見て。この人、身長、ももえさんと同じくらいだよ。それに、顔が大きくて、ほら、首がめり込んでる。別人で、顔だけそっくりなんだ」
「へえ・・・。今、そんなことできるんだ。
 それにしても水臭いじゃない、親友の私に黙って結婚なんて。あ、写真だけ撮って式はこれから?年賀状でサプライズ?そう。とにかくおめでとう。早く旦那様を紹介してよ。二人でうちに遊びに来ない?来週?うん、待ってる」

そして翌週。
ピンポーン
「あ、いらっしゃい、ももえ。今夜、旦那が急に出張になっちゃって、私だけなんだけど、ごめんね。・・・福山さん?背、ひくっ」
「ともちゃん、ひどい」
「あ、ごめん、つい」
「でもね、福山似のハンサムなのに、長身じゃないから、まだ独身でいてくれたのよ」
「そういう考えもあるかぁ。・・さ、どうぞ、入って入って。あれ?車で来たんだよね。どうした?パーキングに留めてきた?あ、ごめんね、うちのマンション、お客用駐車場がなくて。
 あらためて、ご結婚おめでとうございます」
「ありがとう、ともちゃん。 では、乾杯。私が運転するから、私はジュースで」
「旦那さん、ほんとに福山に似てるねえ。」
「うふふ、ありがとう。でも、今日もメイクしてるの。本物より少しタレ目だから、皮膚を叩いてアップもさせてる」
「でも、男がメイクなんて、福山さん、抵抗はないんですか?・・・うわ、にこっと笑うと白い歯が。ほんとイケメン。・・・無口なかたですね。来てから一言も喋ってない」
「私が喋るなって言ってあるの。だって声は全然似てないんだもん」
「ああ。なるほどね。・・・で、早くなれそめを聞かせて?」
「実はね、婚活で入った社交ダンスのサークルなの。福山似だってことで、しかも苗字まで福山で、彼は大人気だったのよ。彼と踊りたい女性が列を作る感じだったわ。そんな中で、彼が私の手を取ってくれたのよ」
「うわあ。ももえ、まるでシンデレラじゃない」
「ほんと、私、シンデレラガールだわ」
「ガールは言ってない」
まあ女性だけで盛り上がってしまうとありがちなんですが、宣彦不在で相手がいなくて、福山さん、ちょっと飲みすぎたようでして。
「え、大丈夫?ごめん、ともちゃん、福山を少しソファで横にならせてもらっていい?あ、隣の部屋の。うん、ありがとう。福山さん、大丈夫?あ、お水、ありがとね」
「旦那さんのこと、苗字で呼ぶんだ?」
「だって〜、福山さんって呼びたいじゃない」
「自分だってもう福山さんのくせに」
「私のことも呼んで」
「はあい、福山さんの奥さん」
「きゃー。」なんて馬鹿をやっております。
女二人のおしゃべりは尽きることはございませんが、やがて、ボーン!と12時を知らす時計の音。
「あらいけない、こんな遅くまでお邪魔しちゃて。そろそろ福山を起こさないとね。
・ ・・福山さん、気分はどう?帰るけど?あ、起きてきた」
「ご主人、気分は大丈夫ですか?・・・って、誰っ?」
「あー、メイクが取れちゃってるわ。あーあ。時間がたったから、アップさせた皮膚もたるんで、目が垂れてきてる」
「それにしても変わりすぎ」
「メイクさんの腕がいいのよ。ハリウッドでも活躍中だって。」
「それ、特殊メイクだよね、既に」
「12時過ぎて、シンデレラの魔法が解けちゃったって感じ。でも、優しい人だから、いいんだ」
「よかった、ももえが幸せそうで。
 あ、そうだ、車、大丈夫?パーキング、12時過ぎたら料金がすごく高くなるよ」
「大丈夫。12時過ぎたから、馬車はカボチャに戻ってます」


おしまい

 

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