三題話 駅・コート・涙


寒くなって参りましたね。外出には防寒着が手放せない季節になりました。
思うんですが、コートやダウンっていうのは、中に着る洋服ほど形のパターンはないようで、みんな似たような形ですね。
しかも、殆どの人が黒か暗いグレイ。流行のブランドなんかだとたくさんの人が着ているんで、向こうから歩いてくる人も同じコート、あっちから来るのも同じコートなんてんで、思わず視線をそらしあったりしてね。

今日は、ある会社の女子バレー部の忘年会があるという。
女子更衣室では、普段よりおめかしした部員たちが、着替えの真っ最中。
 ハンガーから外したこずえの<コート>がおニューなのに気付いたみどりが、
「あれ?コート、買ったの?広げて見せて」
「えへへ、ボーナスで買っちゃった」
「あやー、こずえ、やっちゃったねー」
「うん、やっちゃったよ」
「そうじゃないわよ、そのコート、お局様の副部長と同じだよ」
「えーっ」
なんて話しているうちにお局様が入って来て、こずえが手に下げるコートを一瞥すると、
「あらま。いいコート買ったわね。中身に見合ってれば、もっとすてきなのにね」
なあんて厭味を言って、ふいっと出ていった。
「うわぁぁぁぁぁん、くやしぃぃぃぃぃ!」
 根っから泣き虫のこずえ、地団駄踏みながらわんわんと泣きだした。
「ちょ、ちょっと、いい大人が、やめてよー」
「だって<涙>が出ちゃう。女の子だもん」

 忘年会の席でも、お局様はこずえの嫌いな食べ物をわざと注文したり、厭味を言ったりなどの意地悪をします。こずえは時々トイレに立っては「うわーん」とひと泣きして、席へ戻るという有り様。
 さて、やっとのこと忘年会もお開きになりましたが・・・。
 みんなコートをはおって店の外に出て、さあ帰ろうというところ。
 お局様が「同じコートをそんな風にダサク着て、私の近くを歩かないでよ。付いて来ないで」と、犬を追い払うように、手でしっしっと。
「そんなあ。だって私、同じ<駅>へ行くんですよ。方向、同じなんです」
「やめてよっ。ひと駅くらい歩けばいいでしょ。こっち来ないで」と、まるでバイ菌のような嫌いようです。
ところが今度はこずえは泣かずに、おニューのコートの襟を立てると「さあ、ひと駅、歩くか」とハイヒールで歩きだしました。
「あれえ。こずえ、偉いじゃん、泣かないんだ」
「コートを着ているからね」
「えっ。コートを着ていると、平気なの?」
「うん。
 ・・・コートの中では、平気なの」

おあとがよろしいようで。



 <END>

自由に演じていただいて結構ですが、必ずご一報をお願いいたします。
メールの連絡先は「福娘寄席」表紙をご覧ください。

福娘の童話館別館 「福娘寄席」表紙へ

『福娘はウキウキ』表紙へ戻る