アッカムイの森に寄せて.1


『祈り』

まだ泣き方を知っていたあの頃は
涙を流すことで辛い想いを昇華させてた
だけどいつの間にか泣き方を忘れ作り笑いを覚えた今は
どうやって想いを昇華させればいいのか
ただ想いから目を背け
何もなかったように振る舞う以外の術を
私は知らない

まだ眠り方を知っていたあの頃は
眠りによって混乱した気持ちを静めて
そうして心を癒やした
だけどいつの間にか眠り方を忘れ眠れぬ夜を知った今は
どうやって心を癒やせばいいのか
ただ目を閉じて
心の傷などないように振る舞う以外の術を
私は知らない

どうか誰も急がせないで
焦らせないで
誰かから与えられた術をただ多用するのではなく
自分で捜してみるから
それまでは祈る時間を下さい
もう一度泣ける日が来るように
もう一度眠れる夜が来るように



『夢現に』

忘れていたはずの過去を思い出した
忘れていたはずだった
もう捨ててしまったはずだったのに
なのに よみがえった過去の記憶は
こんなにもまざまざしく
痛いほど色鮮やかに
現実へと よみがえってくる
心にできた虚ろは
いつまでも私を貪り続け
消えることは ないのだろうか



『ダレカ』

帰りたい場所が見つからなくて
帰れる場所も見つからなくて
自分の今いる場所がわからずに
ただ 誰かに助けを求めていたあの頃
「ダレカタスケテ」という心の叫びは
誰にも届くことはなく 風に消えていった

いつからか助けを求めることさえ
無意味なように思えて
自分が堕ちていく感覚に襲われたまま
暗闇の中を彷徨うのにも慣れたふりをして
「ダレカタスケテ」という心の叫びに
気づかないふりをして 殺していた

ある瞬間から暗闇の中に一筋の光を見出し
それにすがるようにして今歩いていても
心の一部に巣くう闇は未だ晴れずに
独りになると浸食してくる闇に抵抗する術もなく
「ダレカタスケテ」という心の叫びを
目の前の人にさえも言えずに 嘲笑っていた

「ダレカタスケテ」
「ダレカタスケテ」
「ダレカタスケテ」
一体どこからすくい上げて欲しいのか
一体どこへ連れていって欲しいのか
自分は今 どこにいるのか
自分は今 本当にここにいるのか

「ダレカ……」
誰かとは 一体誰なのか



『道標』

もしもこの先何があったとしても
きっと 迷わないで
焦らないで
あなたの望む全てが
これからの 道標(しるべ)になるから



『いつか』

いつからか 走り続けていた
何かを求めて 追いかけるように
何かを恐れて 逃げ出すように
だけど 振り返ることさえせずに
ただずっと 走り続けていた

いつからか 立ち止まっていた
何かに疲れて 目を閉じるように
何かを待って 焦がれるように
だけど 手を伸ばすことさえせずに
ただずっと 立ち止まっていた

いつからか 歩き続けていた
何かを見つけて 見失わぬように
何かを感じて 忘れ得ぬように
だけど 走り出すことさえせずに
ただずっと 歩き続けていた



『誰の声も聴こえない夜』

誰の声も聴こえない夜
淋しくて 電話を見つめても
知らぬ顔して 時間が流れるだけ
受話器に手を伸ばして
あの人にコールしようとしても
いろいろ考えて 結局受話器を置くだけ
暇してるならいい
だけどもし 忙しかったら?
何かに夢中になってるとしたら?
今頃 眠りについてるとしたら?
答えなんてでないのに
いろいろと考え込んでしまう
誰の声も聴こえない夜



『閉ざされた空間の中で』

閉ざされた空間の中で
空っぽな自分を見つめている
このまま独りでいれば
いつか時間は通り過ぎて行くのか

目を閉じて
何も見ないで 見せないで
そうすれば僕はきっと
何にも惑わされずにいられるから

心を殺して
何も感じないで 感じさせないで
そうすれば僕はきっと
何にも傷つかないでいられるから

閉ざされた空間の中で
虚ろな時間を見つめている
このまま独りでいれば
いつかは消えてしまえるのか

このまま独りでいれば
いつか全てを終わらせられるのか



『近況報告』

久しぶりですね 元気でしたか
あなた達に逢わなかったこの数ヶ月間
いろいろなことがありました
時間がないから あまり話せませんが
少しだけ 近況報告してもいいですか

そちらの方はどうだったんでしょう
私は 元気にしていました
そちらも元気だったみたいですね
逢わなかった数ヶ月間
忘れないでいてくれたのですね
少しだけ 近況報告聞かせてくれませんか

時間がないからまた今度
その言葉を聞いて哀しくなったのは
もう 遠い昔のことのようです
だけどまだ 話したりないから
今度また 近況報告しあいましょうね



『電話』

居心地の良かった過去の時間を思い出した
それは変わらず まだそこにあったから
受話器越し 電話の向こうの空気を
懐かしく 想った
最後にあの場所に行ったのはいつのことだったのか
遠い昔のように感じるそれは
しかしまだ 4ヶ月ほどしか経っていない
だけどそこから聞こえてきた彼の人の声は
もっと永いこと聞いていなかったように感じた
仕事の話しかしない彼の人に
仕事の話だけで返す私
これが新しいスタンスなのかと思うと
少しだけ 楽になれたような気がする
次に電話するときは
そのスタンスをもっと有効に活用しようか



『明日』

明日もし私が泣いても
あなたは見ない振りをしていてください
だけど側から離れずに
泣きやむのを 待っていてください

明日もし私が嘲笑っても
あなたは気づかない振りをしていてください
だけど側から離れずに
嘲笑うことやめるのを 待っていてください

こんな願いをする私を
あなたは 我が儘だと思いますか
だけど 私にはもう
あなたに頼む以外 術がないのです

明日もし私が悔やんでも
あなたは知らない振りをしていてください
きっと独りで立ち直るから
それまでずっと 待っていてください



『涙』

電気を消して 暗闇の中で
ベッドに身を伏せたとたんに
涙が 溢れた

何かを伝えたがる唇は
それでも ごめんなさいと
その一言しか 出せないでいた

声を殺して流す涙は
泣けないでいたときと同じくらいに
辛いものでしかなかった

一人きりで久しぶりに流した涙は
哀しい痛みを伴う棘のように
胸に突き刺さり いつまでも抜けなかった



『迷い』

悔しくて哀しくて切なくて
だけど泣くことさえできないでいた
あれだけ悩んだのはなんのためだったろう
時間はそれでも冷酷なほどに
その流れを止めはしない

何気ないほど簡単に増えていく
己の傷口を見つめても
何も答えなんか出てこない
きっと 何にも答えられない
誰も何も訊かないで
望む答えを 私は出せない

逢いたいよ逢いたいよ逢いたいよ
届かない想いを口にすることさえできない
いっそ全てを終わらせられたら
全てをなかったことにしてしまえたら
そんなことは きっとできない



『捕らわれた心』

心が過去に捕らわれる
もう 何もわからない
答えを持っている人は
だけど何も言ってはくれない
どうすればいい
どうするのがいいのかな
答えなんかでない
気持ちは決まっているはずなのに
過去に捕らわれたまま
戻っても来ない
助けてよ
誰かに伝えたい声
助けに来てよ
逢いたいよ
だけどそれを聞きうるはずの人は
深く耳を閉ざしたままで
誰も助けてなんかくれない
誰にも助けを求められない
それでも 心は過去に捕らわれたまま





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