優しい時間

 一体どれほどの優しい時間に守られてきただろう。

 突然の電話で、なにも聞かずに来てくれた人がいた。
 真夜中の電話で、時間さえも気にせず話を聞いてくれた人がいた。
 どうすることもできずに、駆け込んだ私を受け入れてくれた場所があった。

 気にしなくていいよ。いつ来てもいいよ。いつ電話くれてもいいよ。

 その言葉をくれた人たちは、みんな忙しい時間を割いてくれていた。別の約束をキャンセルした人も。予定を変更した人も。
 私にはわからないように。その時だけでも、私には伝わらないように。

 そうやって私は、一体どれほどの優しい時間に守られてきていたんだろう。

 なにも知らなかった。当たり前すぎる顔で隣りにいてくれた。
 いつも。いつでも。誰かが、そうしてくれていた。

 きっと離れないとわからなかった。
 優しい時間の数々に、ずっと気づけないままでいた。

 いつか、刻(とき)が来たら、私にできる何かで返そう。
 そんなに色々なことができるわけじゃないけど。
 だけど、最大限の感謝の想いを込めて。

 優しい時間をくれた、全ての人たちに。




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