想い出

 久しぶりに泣いた。
 彼の人の想い出がいたくて。
 鮮明に思い出せるそれは、まるで昨日のことのように……ぬくもりさえ、鮮やかで。
(心臓、いたい)
 押さえつけようとして、溢れるの止めようとして、心臓押さえて丸くなってみても。
(胸が、いたいよ)
 想い出になんかしたくない、って。
 全身が、そう言ってるから。
(だってまだ昨日のことみたい)
 一緒にいたあの日は、もうずいぶんと前のことなのに。ずいぶんと前のはずなのに。
 感覚だけなら、すぐに戻ってくる。実体を伴わないままで。
「愛してる」って気持ちなら、ずっとなくならない。永遠を誓えるほど。
 きっと、自分自身の存在が消えても、想いは残るよ。いつまでも。いつまでも。
 だってもう、彼の人のためにしか泣けない。

 彼の人のことでしか、泣けないから。




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