マネキン

 人混みは嫌い。
 いっぱいいすぎて、自分の居場所なんかもう全部埋めつくされてて。
 どこにもいる場所なんかない。
 どこにも行ける場所なんかない。
 CDウォークマンにヘッドフォンつないで音量めいっぱいあげてついでに本なんか読んで外の世界全部閉め出しても、ひとりぼっちになるだけ。
 その辺にマネキンの大群歩いてるだけでずっとひとりぼっち。
 どこにも行けない。行ける場所なんかない。

 ひとりぼっちなのは当たり前。だってみんなそうしてるから。
 みんながみんな、外の世界閉め出しているから当たり前。
 あたしだって閉め出された人のひとりだから。
 マネキンの大群の中のひとり。
 いてもいなくても同じだよ、って。
(誰かいないかな)
 この街の中で、あたしいなきゃ駄目だって言ってくれる人。マネキンじゃないよって言ってくれる人。
(嘘でもいいから)
 そしたらきっと、ひとりぼっちじゃなくなる。

 それが、どのくらい刹那的でも、きっと。

(あたしがいなきゃ、駄目だって)




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