必然

「時間はね、絶対に戻せないから」
 穏やかな顔で呟く人。
 起こったことは、起こるべくして起こったことだと。だから哀しむこともないのだと。
 そう言い切るには……瞳に浮かぶ色が、淋しすぎて。
「偶然ってのはね、本当はあり得ないんだよ。その瞬間にね、必然になるから」
 どれだけ稀少なタイミングで知り合ったとしても。どれだけ稀少なタイミングで失ったとしても。それでも。
 自分のためにならないことなんてないから。
 全てが自分の糧となるのだから。
「運命、だからね」
 全てに対する諦めか、それとも悟っているのか。わからない……今は、まだ。
「でもね、定められたものではないんだ。自分で引き寄せたものなんだよ」
 全て、望んで。力があって。力がなくて。
 全て、今の等身大の、自分が。
「だから、君と僕が知り合ったことも、君と僕が今一緒にいることも」
 後悔なんてしない。後悔なんてできない。
 自分が選び取ったものだから。
「全ては必然だったんだよ……必要、だったんだ」




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