遺書

 明日もし私が死んでも、哀しむ人なんか誰もいない。

 なんてことを本気で思っていたあの頃は、何を見ても心弾まないし景色は灰色だし毎日はつまらなくてくだらなくて自ら消し去りたくて遺書なんかも準備したり、した。

 いつ頃からだろう。
 大事な人が出来るたび、遺書を消して毎日もくだらなくなくなってつまらなくなくなって景色が鮮やかになって何かを見て心弾ませて。

 少しずつ、気づかないほどにゆっくりと私を変えてくれたのは、私が大切に思う人たちで。

 明日もし私が死んだら、誰が一番哀しむだろう。

 そんな風に考え出したら、大切な人を泣かせたくなくて、死ぬのが少し怖くなったりも、した。

 もしも次に遺書を書くとしたら、何を書こうか。
 大切な人たちに宛てて。

 誰よりも誰よりも、幸せに幸せに。
 幸せになってください。

 そう書こうか。私の精一杯の感謝と祈りを込めて。




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