言霊使い

 修行中。
 あたしはきっとまだ、「言霊使いだ」と言い切れるだけの能力を持ってはいない。
 傷つけたり泣かせたりするだけで。
 誰かを幸せにすることも……心を軽くさせることも。
 まだまだ、力が足りない。

『どうせお前に言い負かされるし』
 そんなこと言われても。
 勝ちたいなんて思っちゃいないよ。
 あなたの思うような「勝ち」は、本当は欲しくないんだ。

 あなたの力を見たかったのに。
 ただそれだけだったのに。

 いつも、口にする言の葉は、あたしの思いとは違う方向へと流れていく。
 それはきっと、あたしの不安と力不足が原因なんだろう。

 だから、ただ今修行中。
 追いつめることも押さえつけることもせずに、ただあたしの口から穏やかな綺麗な言葉だけを紡いで。

 せめて、大切な人が幸せになれるように。




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