トントン、とドアが軽くノックされた。そしてソルとアレフが身構えるより早く、鍵の開く音に続いてドアが開かれた。
「な……!」
声もなく入ってきた二人の姿に、アレフは思わず絶句してしまう。
来て欲しくなかったのに。出来れば逃げて欲しかったのに。
「何で来たの!?」
その思いは、厳しい問いとなって二人に――あえて正確に言うならば、レイネに――注がれた。
「今はバラバラでいるよりも、一緒にいた方がいいわ。点在していては、全てを守るのは難しいから」
いきなりの厳しい声に身をすくませたレイネの代わりに、セレネが答える。
「でも! 危険だってわかってるなら、逃げてくれた方がよっぽど……!」
「私にもソルにも逃げられなかったのに?」
「――っ」
アレフは今度こそ本当に何も言えなくなってしまう。セレネがあまりにも静かに正当なことをはっきりと言ったので。
「もう一度感動の再会が出来ると、彼は言っていた。どういうことだと思う?」
何も言えなくなったアレフの代わりにか、ソルがセレネに問うた。
「ハーフエルフではないわ、きっと」
その問いに、セレネは変わらず静かに答える。
「私たちは必然的にここに集められたわ。偶然を装って。この先ハーフエルフがもう一人増えるとは考えにくいし、私たちが知っている同族は私たちだけだわ。だから『再会』にはなり得ない。彼はあなたたちに再会できると言ったのでしょう? ということはあなたたちによほど近しい人としか考えられないわ」
「やっぱり……」
ソルは溜め息混じりにそう呟く。それは一番欲しくなかった答えでもあり、また自分でも考えたことでもあった。そしてこの場合、思いつく人間はただ一人である。
「ねえソル、それって……それってもしかして……」
アレフも同じ結論に至ったのか、心配そうな目をしてソルを見る。
「嘘だよね? 違うよね? ここまで来るはずないよね!?」
それでは全く彼等の――ハンターの意図がわからなくなる。ハーフエルフ狩りが目的ではないのか。もっと別の所に目的があるのか。
自分たちをどうする気なのか。
ソルはアレフの問いにどう答えるか悩む。アレフの望む答えを出してやりたいが、実際にはアレフの危惧する通りなのだ。
そんな二人をただ静かに見つめていたセレネが、ふとドアの方を見やった、そのときだった。
鍵の音もノックの音すらもせずに、ドアが静かに開かれた。
「フィーユさん……」
「姉ちゃん!?」
「アレフ! ソルも! 二人とも逢えたのね!?」
それは、文字通り『感動の再会』であった……時と場所を考えなければ。
「なんで来たの!?」
「あなたたちは……?」
そのアレフとフィーユの二つの問いは、ほぼ同時に放たれた。しかしその言葉に含まれた激しさのため、フィーユは見知らぬ二人の姿に対する問いよりも、アレフが放った問いに答える方を選んだ。
「なんで……って」
答える、とは言え、フィーユに言える言葉はこの程度である。
もともとアレフに呼ばれていると聞いて来たのだが、そのアレフから言われた言葉がこれである。困惑するのも無理はないだろう。
「私がお呼びしたんですよ」
言葉と同時に姿を現した彼に、とっさにソルはフィーユの手を引いて自分の方へよこそうとする。が、それよりも早く彼がフィーユの肩を押さえていた。
「感動の再会が出来たでしょう? あまり時間がなくてすみませんが……」
「……どういうことなんです?」
ソルが静かに問う。しかしその目は、彼の一挙手一投足さえ見逃さないようにと光らせてはいるが。
「勿論、あなたのためですよ」
彼は不敵な笑みを浮かべて、そう答える。
「彼女をどうしようと?」
「やれやれ、せっかちな方ですね、あなたも意外と」
言葉ではそう言いつつも、彼はどことなく嬉しそうである。……まるで、そう聞かれるのを待っていたかのように。
「つまりね……こうするんですよ」
彼の静かな物言いに、誰も動くことができなかった。その場にいた誰一人。
「え……?」
小さな呟きを残して、床に崩れ落ちるフィーユ。その背中には、深々と突き刺さった……短剣。
「な……!」
「姉ちゃん!!」
ソルとアレフの叫び声が、部屋の中に響いた。
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