「そんなの絶対赦さない!!」
一番最初に叫んだのは、アレフだった。
「出てけよ! 姉ちゃんの体から出てけっ! 姉ちゃんの体はそんな言葉を言うためにあるんじゃない!」
アレフは彼に食ってかかる。それが体を利用されているフィーユのための怒りか、もしくは根絶やしにされようとしている人間たちのための怒りかは別として。
ただ、彼を許し難く思って。
「同感ですね。フィーユさんの体は、その口は、そのような言葉を紡ぐためにあるわけじゃない。勝手に使わないで欲しいですね」
「赦さないなら、どうします?」
ソルの言葉に、彼が重ねる。それは笑い出す寸前の、楽しげな声だった。
「どうって……」
アレフは思わず言葉につまる。勢いで言ったものの、どうしていいのかはアレフ自身わからないでいるのだ。
(姉ちゃんのために出来ること……)
体を乗っ取られて。死してもなお休むことが出来ずに。
そんな彼女のために何が出来るだろう。
すぐに答えが出ない悔しさに、アレフが唇を噛んだ、その瞬間……だった。
風が一筋、アレフの頬を髪を撫でていく。
(……どうして『姉ちゃん』なんだ……? 他の誰でもなく)
不意に沸き上がった疑問。風が教えてくれたキーワード。
考えろ……考えろ。何故彼女じゃなければいけなかったのか。何故彼女であるのか。他の誰でもなく。
(つまり何か違いが……それが重要なポイントで……)
死んでいたか死んでいなかったか、ではない。それはきっと大きな違いではない。彼は殺せばそれで済む話なのだから。
だから、それ以外の何か。それが何かは……
(……ナイフの傷……!)
それを負ったのはフィーユ唯一人で。他は全員不可視の力で。
つまりは、物か、もしくは己の手を介してか……それが、違いか!?
「ソル、手を貸して!」
試すだけの価値はある。アレフはそう判断して、ソルに頼む。
「俺だけの力じゃ足んないかもしれないから! だから、力貸して!」
アレフの必死の頼みに、ソルは眉を寄せる。
「アレフ……?」
「もしかしたら、姉ちゃんの体なくなっちゃうかもしれない。ちゃんと制御出来なかったら、姉ちゃんの体ごとなくなっちゃうかもしれない。……でもあいつに体取られてるより、きっといいから……まだマシだから」
だから力で……力だけで彼を倒そう、と。アレフは小さな声で呟く。
自信はなかった。確信も。だが、やるしかないということも同時にわかっていた。
「そうだね……それしかないかも、しれないね……」
出来ることなら、フィーユの体を大地に還してやりたかった。しかし今は手段を講じている時間はなさそうだった。
やるしかない、のだ……結局。それがどういう結末を迎えるものだとしても。
(君なら、細かいことをうだうだ考えずにやるだけやってみろ、と……)
そう言ったのかもしれないね、フィーユ。
ソルの、最後の囁き。もう二度と届くことのない人への。事実を知っても分け隔てなく変わることなく接してくれた人への。最後の、囁き。
「いいよ、やろう。アレフ。フィーユさんのために」
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