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追憶 〜ルーティの心〜
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私の大切なもの…。私の大切な仲間…。私の…私の大切な家族。

家族……?
家族って…?  ―――自分の周りにいる、自分を暖かく見守ってくれる人。
じゃあ、私の『家族』は一体誰なの?
孤児院の仲間達? 
孤児院にいるシスター? 
それとも…いつも喧嘩をしていたアイツ?

アイツは突然私の前で全てを明かした。
何も知らなかった…。
でも、変だとは思っていた。
アイツは、リオンは、私の名前を聞いたと同時に態度が変になった。
カトレット…。その名を聞いてから…。

『エミリオ=カトレット』――それがアイツの本当の名前。
私と同じ…『カトレット』の名を持つ者。
私の過去をリオンは知っていた。どこまでも暗く、深い…闇のような過去を…。
でも、闇のような過去を持っているのは私だけじゃない。
――アイツにも…あったハズ。
むしろ私より辛い過去だったのかもしれない…。
自分の父親が目の前で狂っていく様を、見せられながら育ったのだから。

私は強くない。強くなんかない。ただ、いつも強がっているだけ…。
――アイツと同じように。
アイツも強がっていた。・・・いつも強がっていた。
――私と同じように。
そんなところがなんとなく似ていた。私達…。

どうしてだろう?
おたがいに突っ張っていたから、だから、素直になれなかった。
アトワイトが最期に言った言葉。
――『あなたは素直に生きなさい。』
今ならこんなにも素直になれるのに、どうしてあの時は素直になれなかった?
全てを私から奪い去っていく、残酷な時の流れ…。
お父さんや、お母さん、それから…リオ…いや、エミリオを…私から奪っていった。

家族って何・・・?  ―――自分の周りにいる、自分を暖かく見守ってくれる人。
私にはいない。
でも、家族じゃないけど、私には…私には家族よりも大切なものがある。
『家族』というものを私が単に知らないから、こんなこと言えるのかもしれないけれど…。
私には、『仲間』がいる。そう、仲間が。
自分の周りにいて、いつも自分と一緒に苦難を乗り越えてきた、仲間達。
『家族』と『仲間』って似ているのかもしれない。今、私達の周りにいるのが、仲間であって、家族に近いのかもしれない。
エミリオ、アイツだってそう。仲間であって家族に近い、私の大切な人の一人。
そして、私…いや、私達の心の中で生き続けているたった一人の私の弟。

すごく腹が立ってしょうがなかったあの時の喧嘩も、思い出の断片でしかないけれど、でも、私はこの思い出を忘れたくない。
だって…それは、私にとっての『生まれてはじめての兄弟喧嘩』だったから、初めて本気で言い合えたから…。おたがい表面上では素直にはなれなかったけど、でも、それでも私達、大切な仲間だよね。

やっと決心がついて、エミリオの墓に向かった今日…。
――きっと今ごろ、お父さん達や、ソーディアン達と会っているのかな?
でも、なぜかその時は心の中では素直になれても私は墓に向かって素直にはなれなかった。
「このバカっ!花なんてやらないからねっ!」
私は花なんて一本足りとも持っていなかった。
けど、花よりももっともっと大事なものを十字型の墓のところへ置いた。
そう、もっともっと…大事なものを…。
「花なんかよりも、こっちの方が大事…なんだから…。」
私はさびしげにその大事なものを見つめ、その場から去った。

――そこには、仲間であり、家族に近い者達が描かれている、写真だけが残っていた。
一人は、無邪気に笑っていて、一人は怒っていて、一人は…恥ずかしそうに顔を横に向けている。大事な大事な楽しかった過去が、描かれていた。

――私達、次に生まれてくるときは…その時は、本当の『家族』として、皆仲良くできるといいのにね。エミリオ…。

私は朝日に向かって背伸びをし、空から降ってきた一枚の羽根を握り締めた。
今日も明日も、その先もずっとずっとアイツの代わりに私は生きる…。