'98 湧別原野クロカン新人戦 K田氏 ”勝った!”

PROLOGUE
 ”勝負だ”。レース二日前の夕方、ワックスルームで突然こんな言葉が発せられた。前兆はあったものの、こうはっきり言われるとは、んー、気が重い。

STRATEGY
 ”先行逃げ切り”。山を下りるまではとにかく飛ばし、山を下りたらペースを落とす。深く考えた訳ではないが、山を下りるくらい飛ばしても、後の疲れに影響しないだろうと言う安易な考え。

PROGRESS OF RACE
 作戦通り最初は飛ばした。でも気付いたときには遅かった。ペースを落とすのが遅かったようである。がむしゃらな滑り方のまま下りが終わり、ちょっとした起伏に差し掛かった時、突然疲労感に襲われた。”やばい”と思ったらそれを見透かしたように突然”そんな滑りしてたら疲れるよ!”と、後ろからT田女氏が声をかけてきた。ペースを掴もうとしばらく後をついて行くが、上りに差し掛かる度に引き離され、人を抜くときのペースアップに付いて行けず、疲労感だけがたまっていく。そのまま旧白滝を過ぎ、このままでは他の人にも抜かされると心配し始めた頃、左斜め後方で”K田さんに追いついた”とT谷女氏がにっこり笑っているではないか。でもこれはいいタイミングであった。上りやこける度に少しずつ離されるものの、それ以外では離されることはない。ついて行くことでペースをつかめ、疲れが引いていくのが分かった。

 ペースが掴めたものの、突然転ける癖は直らない。30km少し手前で転けた時、ワックスルームで”勝負だ!”と叫んだ人、そう、Kn氏に追いつかれた。ペースを掴んだ後に追いつかれたので、この時ばかりばかりは本当に負けたと思ったが、Kn氏は一気に引き離そうとしなかった。後で思えばこの時が勝負の分かれ目だったと思う。ここで引き離されていれば二度と追いつけなかっただろう。しばらくしてKn氏を抜くが、ピッタリとくっ付いてくる。お互い引き離そうとせず、勝負は後半になりそうである。

 丸瀬布手前まで行くと、前方に黄色い靴に黒いウエアと帽子、”T谷女氏、発見!”と喜び勇んで後を追いかけるが、なぜか丸瀬布の給食所で止まらない。前評判の高い”丸瀬布のそうめん”に惹かれながらも止まるわけにはいかない。後ろを振り返るとKn氏もついてくる。しばらくして追いつくがT谷女氏じゃない。T谷女氏もどきのあんちゃんだった。レース後T谷女氏に聞くと、丸瀬布の給食所できちんと休み、おまけに私とKn氏が素通りするのを見ていたそうである。

 40kmを過ぎ、スキーの左右を履き替えなければと思っていたところで、コース最大の上りに差し掛かった。スキーを脱いで登っている人もいる。後ろを振り返れば、Kn氏との距離も少しだがあいている。これはチャンスと思い、スキーを脱いで坂を上った。一方Kn氏も私がスキーを脱ぐのを見てチャンスだと思ったそうである。私のスキーは履くのに時間が掛かる事を知っていたのである。ここで見事に100m以上引き離された。追いつけないまま瀬戸瀬の手前まで行った時、Kn氏が突然ペースダウン。ヨーロッパトウヒの検定林の直前でKn氏を追い抜いた。瀬戸瀬の給食所でスキーを履いたままジュースを飲み、豚汁をすすり、チョコレートを食べている横でKn氏はスキーを脱いでいる。まだ出る気はないなと思い、ジュースをもう一杯と手を出した隙にKn氏が突然走り出した。

 瀬戸瀬を過ぎるころからまた疲労がたまってきた。”追いかけるのを止めたら楽になるぞ!”と悪魔のささやきが聞こえる。でもKn氏もちょっとした段差を登り切った所で時計を見る振りをして休んでいる。Kn氏も疲れているようである。なんとかついてゆかねばと追いつけないまでも追いかけた。遠軽の手前、川の堤防の脇に差し掛かったとき、突然自分のスキーが滑り出した。Kn氏のペースは上がってこない。ここが勝負だと思い、Kn氏に追いつきスパートをかけた。振り向くがついてこない。終わったようである。

結果 85km 結果7:10:37 729位


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