怪我にご用心

 今までこのコーナーであまりにあちこちの方面の方々を敵に回してしまい、このままでは十中八九、孤立無縁の天涯孤独の四面楚歌の唯我独尊のetc.....になってしまいかねないので、今回は取りあえず当たり障りのない話題。

    注〜この内容は、ヒールが解放する山スキービンディングを想定しています。ヒールフリーのテレマーカーには当てはまりませんのでご注意下さい。

 実は私のすねの骨は部分的にちょっと太い。そう、昔骨折したのです。さかのぼること私が小学校6年生の頃ゲレンデスキーをしていて、横から突っ込んできた奴とぶつかって転倒。あれ以来、高校生になるまでスキーは嫌いでした。そんな私に再びスキーを履かせた理由、それは当時から始めた山登りでした。それ以来山スキーでは大きな怪我をしたことがない私。”フカフカの深雪で怪我なんかしないよ!”とずっと思っていました。

 しかし最近私の身の回りでも、山スキーで怪我したという事例が頻発しています。捻挫したとか(もう大丈夫?O西さん!)、膝の靱帯痛めたとか、椎間板に傷がついたとか手首捻ったとか(こいつはボーダー)。怪我事態が危ないのはもちろんですが、スキー場と違いちょっとした怪我が遭難に繋がりかねないアウトドアでは、これは由々しき事態!。特に単独行の多い私なんぞ、誰も助けてやくれませんから。ではその事について、当コラムのご意見番、長屋の熊さんに再度ご登場願いましょう。

     ”よう、よう!おめーさん!。山スキーで怪我したんだって?。そいつあーご苦労さんなこった!。だったらしばらくおとなしく養生するこったな!。あとついでに一度頭丸めてニセコでお祓いしてもらった方がいいぜ!。だって昔から言うじゃねーか、”坊主怪我なし”ってよー!。ひゃっひゃっひゃっ!。

     まー、そいつあー冗談としてもよー、蝦夷っこだったらそんな怪我、気合いで直すのが男ってもんよー。唾をぺっぺっとひっかけて、平手でもってペペーン!と引き締めりゃー、忘れた頃に直るってゆー寸法よー。なに?、痛い?!。そいつあー薬が飲み足りねー証拠じゃねーか?。長寿の薬とか命の水とかいう、万病の薬がよー!。

     捻挫も怖いが、スキーは刃物と槍持って滑るんだから、そっちだってよっぽど怖えーぞ!。俺なんぞ職人だからよー、道具の手入れはピカイチよー。まー言うなれば俺のは、柳刃包丁履いて千枚通し握って滑っているようなもんさ!。だから三枚におろされたくなきゃ、滑っている最中俺の前に割り込むんじゃねーぞ!

     ともかくまー、親から貰った大事な体だ、くれぐれも大事にするこったなー。おっと、雪山が俺を呼んでるぜ!。したっけ!。”

 全然答えになっていませんねえ(^_^;)。聞くんじゃなかった。
 まず内地出身の貧乏大学生さんへ。いくら安くて軽いからといっても、間違ってもジルブレッタ#300に代表される、捻れ解放なしのビンディングは買わないように!。これは私が学生時代の頃も、体育会系の山関係部ではこれを新人が皆で共同購入し、その後ブチブチと大勢が靱帯を切って泣く泣く山から足を洗っていったという、血に飢えた恐怖の引導渡しビンディング!。これは実はエキスパート向きの金具なのだ(理由は後で)。

 スキーに慣れていない人がよくやる転倒パターンに、いわゆる”顔面制動”があります。ターンの切り返し時やターン初期に、勢い余って谷に真っ直ぐビタン!と倒れ込む。板や慣性は斜面横方向に向かっているのに体は下向きで、思いっきり捻れモーメントの発生するパターン。アブナイアブナイ!(by福田和子)。

 ある程度乗り慣れている人が、そこそこのスピードで転けた場合なら、転ける方向が進行方向と同じなのでちゃんと前倒解放したり、また転ける直前にきっちり受け身が出来ているなど、”顔面制動”程は危険じゃない。私も捻れ解放しない山スキービンディングに20年乗り続け、流れ止めをぶちきる大転倒をしょっちゅうやったけど、幸い無傷(自慢してどーする!)。#300はそれなりに乗れる人専用のビンディングなのだ。

 またねじれ解放が付いているからと言っても安心は出来ません。この手の構造は、一気に捻れモーメントが掛かるといとも簡単に解放しますけど、じわじわとゆっくり捻れモーメントが掛かると最終的には外れても、解放するまでかなりのタイムラグが発生します。特に初心者がちんたら滑っている最中にゆっくり転ぶパターンがこう。金具が解放する前に、関節の靱帯が解放してしまう?(おお怖!)。


 金具もあてにならないとしたらさてどうしましょう?。そう言えば柔道、”技の基本はまず受け身から”と言いますもんね。散々転けて受け身を体で覚えるため、まず山より比較的安全なゲレンデでばんばん乗り込みましょう。本来”ゲレンデ”とは、山でスキーするための”練習場”という意味ですから、当たり前と言えば当たり前ですが。

 例えば転けそうになったらぎりぎりまで我慢しないで、早めにお尻から山側に尻もちつくとか、顔面制動しそうになったらとっさに体を丸くかがめて、顔からでなく背中から転ぶとか。これらは頭で考えていてはとっさの時に間に合わないので、ゲレンデでみっちり修行して体で覚えるしかないですね。

 また転んで滑落中ストックで怪我をするのを防ぐためや、滑降中突いたストックが刺さって抜けなくなって肩や手首が引っ張られるのを防ぐため、滑降中はストックのストラップに手を通さず、グリップだけ握って滑ると言うのも、学生時代クラブの先輩から口うるさく指導されました。深雪だと後で探すのが大変だったけど、悪い方法ではないでしょうね。


     またしても脱線するけど、実はレースのポールくぐりの技術は、実に有効に山スキーに応用出来るって知っていました?。次のターンのその次のラインを見つめる視線配りや、またごまかしの利かないライン取り。いずれも林の中を縫って安全に滑る上ではとても重要な要素。

     別にレースにも打ち込めと言っているわけではなくて、学生時代私は数人の友人と共に、例えば”○○町民スキー場”のような超ローカル&常にガラガラのスキー場へ行き、コースの端っこでいんちきポールくぐりごっこをやって遊んでいました。一人がコース端をフリーで滑り、残りの連中がその軌跡に沿って、コース脇から引っこ抜いたササを雪に差しただけ!。ガラガラに空いているスキー場ならこの程度、スキー場管理者も大目に見てくれる?。皆してそこをくぐって遊んだ後、最後に帰りのバス賃をかけての熱いタイムレース!。盛り上がったなあ。

 疎林を快調に滑っていたら、突然白樺や唐松の密林が目前に現れ、”うおおー!ラインがない!”なんてこともよくあるパターン。いつ何時でも緊急停止や急なライン変更が出来る速度で滑る事はもちろんだけど、緊急停止やライン変更の日頃の練習も効果あり。例えば普段から止まるときもだらだらと山回りではなく、後方から人におカマ掘られる心配がなければ一気にギュッ!と止まる練習をちょくちょくしておけば、いざと言うときにパニックにならなくて済みます。

 またたとえ止まれなくても、板を瞬時に横向きに出来れば、立木と正面衝突だけは避けられるし。左右の板が木を跨いでしまい、まともに木に抱きついてしまう衝突、私、昔良くやりました(ワッハッハ!)。


 あといかにも山屋らしい人がゲレンデで、兼用靴履いてゲレンデ板に乗っているのもたまに見かけますが、兼用靴のビブラムソールとゲレンデビンディングのトウピースの組み合わせ、あれは一見ちゃんと解放しそうだけど、上載荷重が掛かった状態、例えば前につんのめった状態での捻れ転倒では、ビブラムソールはフリクションプレートにがっちり食いついて滑ってくれやしません。つまり捻れても外れない!。

 緊急避難的な裏技ですけど、極薄いプラ板(コンビニ弁当のふたでもなんでも良し)を写真のようにトウピースのフリクションプレート上に載せて、後方をガムテープ等で仮張りしてから兼用靴を履くと、プラ板とフリクションプレートの間が常に良く滑るので、取りあえずはビブラムソールでも危険性を回避出来ます。但し転倒解放する度に、張り付けたプラ板はむしり取られてしまいますので、予備は忘れずに。でもよく転ぶ人だと、自然分解しないゴミをまき散らすので、環境上良くないかな?。


 なにはともあれ、大好きな山スキーを長く続けるために、怪我にはくれぐれもご用心を。こう見えて慎重な滑りの私からのメッセージでした(えっ、お前には言われたくないって?ADACHIさん?)。
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