続々・智恵子(小)

はじめに

この物語はある作家(家族の強い要望により匿名)の智恵子(小)との深い愛憎の様子を作家本人が記した日記である。作家自身は発表の場を求めていたが、家族の強い反対により、商業誌での発表は見送られた。そのため前年に作家の匿名、また作家を特定できるような個所の非公開を条件としてその一部をSAKANAFISHにて公表した。

今回は、作家自身の強い要望により、前回の続きの公開をするものである。

なお、前回、前々回掲載分をご覧になりたい方はこちらへ。


8月1日

葉月。ひどく蒸し暑い。床に智恵子(小)がクーラーがほしいと中華麺で書いている。腹が立ったので無視する。昼頃、うっかり踏むと離れない。「麺があるから、腰がある。」その声だけが部屋に響く。

8月3日

ようやく離れる。久し振りに「抱月」。クーラーが効きすぎて寒い。女将にクーラーの害をとうとうと説く。帰ると、玄関にクーラーボックスが大量に詰まれている。中に中華麺が一つずつ入っている。いやな奴だ。

8月4日

伊豆の「楽尽」より鯛が届く。伊豆諸島の地震は伊豆とは直接関係ないのに客足が落ちて困ると愚痴ばかり書きこぼした手紙もある。別に行ってやってもいいが、出るのも億劫。刺身で「旅順」を二合。

8月5日

刺身にしたはずの鯛が元通りの姿で枕元に置かれている。智恵子(小)が「クーラーを買わないと日々こういう目にあわせる」と。今日は天麩羅にする。

8月6日

また枕元に鯛。橘医師来訪。来月から検診を別の医師に引き継ぐと言う。無能無能と言ってきたが、やはり一抹の感慨がある。鯛は食わせないが。自慢してやったら明日また来ると言う。意地汚い奴め。

8月7日

今日は寿司にする。鯛とはいえこうも毎日だと飽きる。橘医師はカメラを持って変に家中を写す。不愉快。また来るという。智恵子(小)がボーリング場のガーターを家までひいてくる。枕元を球が通るので眠れず。

8月8日

鯛の替りに電話帳が置いてある。「今まで鯛だと思っていたのはこれだったのか!」受話器の向こう側で智恵子(小)の声が聞こえる。鯛にしては乾燥していたのも道理。

8月9日

どうも嫌な臭いがすると思うと電話台の下で鯛が腐っていた。「今まで電話帳だと思っていたのはこれだったのか!」智恵子(小)が筆でふすまに大書する。電話帳にしては生臭かったのも道理。

8月10日

久し振りに書店へ行く。次の執筆の為、満州の警察犬についての資料を探す。「これでバッチリ!旧「満州国」警察犬のすべて2000」という本を買う。帰りに「抱月」で茶粥と白焼き。

8月11日

智恵子(小)が家の中のブーメランをすべてつなぎ合わせて大ブーメランを作ると言う。それにしてもこんなに多くのブーメランが在るとは思わなかった。数えてみようと思ったが、やめる。

8月12日

書き下ろしの執筆のため、K社の島川君が来訪。昭和時代の警察犬の話を書こうと思う。島川君は智恵子(小)の話を書いたらどうだと言う。智恵子(小)にパンくずをあたえながら真顔で。

8月13日

島川君がまだいる。盆休みはどうしたかと聞くとここで暮らすと言う。智恵子(小)に亀の餌をあたえながら作務衣姿で寝そべっている。腹が立つので自宅に帰ろうとおもう。電話をとると、発信音が聞こえない。背後で島川君と智恵子(小)の半透明の微笑み。

8月14日

山盛りのモロヘイヤに包まれて目が覚める。「ちゃんと食べないと大きくなれないでしょ。」島川君が割烹着を着て微笑みかける。智恵子(小)がいいちこをふりかける。

8月15日

点滴のむこうから光が差す。「オペは明日です。」島川君がカルテに目を通しながら言う。智恵子(小)が看護婦を並べて合唱させている。そうか、手術は明日か。

8月16日

手術なので麻酔をかけられる。朦朧とした意識の中で笑い声が聞こえる。

9月2日

目が覚めるとたいそう気分がよい。何かのつかえが取れたようだ。智恵子(小)も笑っている。(^0^)/。新しい執筆にとりかかれそうだ。(朴)

9月2日

ちょうど前から育てていた菠薐草をおひたしにして食べる。昔の菠薐草のように灰汁がない。何か昔の苦い菠薐草が懐かしくなる。智恵子(小)はあいからわず木簡の偽造に余念がない。(+(w&w)+)。

9月2日

島川です。いま、ここにいます。来週もまた、見てくださいね。
@(7公7)@


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