で、レストレード警部、
ホームズの行方はわかったのかね。

 
  

一週間前にドレスデンの下宿を
出たところまではわかったんですが、
それ以降はさっぱり…

いったいどこにいったんだ、
ホームズは。

 
 

ライヘンバッハの滝で
モリアーティ教授とともに
消えてから、もうどれだけ
たちますかねえ。

まあ消えた日にちはどうでもいいんだが
僕の貯金を取り戻してくれるんなら
それはそれでいいよ。
 
   

あれ?
マイクロフトさんが払ってくれたんじゃ
ないんですか?

あのじじい、弁護士を立ててきやがって
法的に賠償責任はないとかいいやがった。

 
   

さすが高級官僚ですねえ。

とにかく一刻も早くあいつを
捕まえないと。

 
   

そうですね、スコットランドヤードでも
特捜班を作って調査はしているのですが
なかなか難しいところで。

特捜班まで作ってくれてるのか。
ようやくあいつを窃盗犯として
立件してくれるのか。
 
   

いえ、そういうことではなくてですね、
去年の暮れのことなんですが、
スコットランドヤードにふらりと
ホームズさんがお見えになりまして。

そこでなにか警察の備品でも
くすねたのかね。

 
   

いえ、そこでですね、当直の警官たちと
談笑しまして。

で?  
   

いろんな事件の話やワトスン博士の
話で盛り上がりまして。

おい、僕の話ってなんだ。  
 

で、お茶を飲んでフィッシュ&チップスを
つまみながらちょっとみんなで
競馬で小バクチをやろうと
いうことになりまして。

いや、だから
僕の話ってなんなんだ。

 
 

で、まあ話の種くらいに
フラフラのボロボロの馬に
かけたんですね。

 
何を言ってやがったか知らないが
とりあえずボッコボコに殴ってやる。
 
 

まあそんな馬ですから
倍率もとんでもなく高かったんです。
誰も来るはずはないと思ってたのに
あれよあれよのうちにぶっちぎりで
ゴールイン。
なんと20万倍もの配当が出たんです。

に、20万倍!?
ど、どうやったらそんなになるんだっ!?
 
 

一緒に馬券を買った
4人の警官はそれぞれ農場を買ったり
企業を買ったりちょっとした国を
買ったりしたんですが、ホームズさんが
まだそのお金を受け取りに来てないんですよ。

…で、その金額は
一体どれくらいになるんだ?
 
 
ホームズさんが賭けたのは
1ポンドですから、
20万ポンド。
21世紀初頭の日本円にして
4億8千万円です。
ぐああああああああっ!  
 

で、このお金を何とかホームズさんに
渡さないといけないので
スコットランドヤードとしても
特捜班を結成してですね、
ホームズさんの行方を探しているんですよ。

その金から、僕の貯金分を返して
くれないかっ!?
200ポンドなんだっ!なあっ!
 
 

だめですよ。
これはホームズさんの財産ですから
我々が勝手に手をつけるわけには
いきませんよ。 それにですね。
あんまりホームズさんを犯罪者扱い
しないほうがいいですよ。

なんでだいっ!
奴はれっきとした犯罪者じゃないかっ!
 
 

いや…
じつはですね、
その4人の警官のうちの一人が
自由党の下院議員になりまして、
その豊富な資金力をバックに
結構有力な政治家となりまして。

…で?  
 

で、ホームズさんがワトスンさんの
貯金を盗んだことを 調べようとしますと、
どこからとは言えませんが
圧力がかかってまいりましてねえ…。

ぐぐぐぐうっ!
なんて悪いくせに義理堅いやつなんだっ!
 
 

そんなわけだから
あまりよけいな騒ぎ立ては
しないでくださいね、
ワ・ト・ス・ン・さ・ん?

うごああああああっ。
 
 

さあ、それではそろそろ
スコットランドヤードに帰ると
しますか。おじゃましました。

とたとたとた。
レストレード警部、お届けものですよ。
とたとたとた。

 
 

ええーっ?
どうして僕がここにいることが
わかったんでしょう。
ふしぎですねえ、ワトスン博士。

…うるせえよ知らねえよ…  
 

なんだか古い日記帳みたいですね。
うわっ。なんだか
「カチューシャかわいや別れのつらさ」って
繰り返し繰り返しえんえんと
書いてありますよ。

明らかに精神に異常をきたしたものの
日記だな。
 
 

差出人の名前も
書いてないですねえ…。
いったいこれは
どういうことなのでしょう…。

さあいったいどういうこと
なんだろうねえ。
 
 

ほ、ホームズさんっ!!

 
い、いったいいつの間にっ!?  
 

そんなこと俺が知るかっ!!

さてはその日記も
君が書いたものだろう。
 
 

ああよかった、
ホームズさん、実は競馬の
配当がですね…。

そうだっ!
競馬の配当があるんだから
200ポンドかえせっ!!
かえせっ!

 
 

…レストレード警部、
20万ポンドの小切手はあるかね。

あ、はいここに。
 
 

よし、それを全額、ウエストフェリア銀行の
口座番号349−4500J・M商会に
僕の名前で振り込んでおいてくれ。

何をガタガタ言ってるんだっ!
おいっ!
 
 

うるさいっ!
大事な話なんだっ!
茶でも飲んで待ってろっ!

なんだとっ!
まったくもってそれが盗っ人の態度かっ!
ごく。

 
 

にやり。

 
ぐーぐーぐー。  
 

ああっ、ワトスン博士どうしたんですかっ!

ぐーぐーぐー。  
 

ふっふっふ、
これがJ・M商会謹製の
眠りついでに記憶消し薬だよ。
これで奴も僕が200ポンド持っていった事を
すっかり忘れてしまうだろう。

ぐーぐーぐー

 
 

でも、記憶を消すなんて、
信じられませんね…。
本当に効くんですか?

ぐーぐーぐー。  
 
当たり前だろう!
20万ポンドもする薬が
効かないわけないじゃないか!
ぐおおおおおおおおっ!!
 

 

無事解決!次回のホームズの活躍をお楽しみに!

襟裳川ミステリ文庫トップへ

SAKANAFISHホームへ