いや早いもんだね、
今年ももう終わりだよ。
 
  

まったくだね。
いろんなことがあった一年だが、
こうして終わってみれば
早いものだよ。

ホームズは今年一年で
何が一番心に残ったんだい?

 
 

そうだねえ、
あれはまだ暑かった頃かね。
あの怨敵、モリアーティ教授と
激しく渡り合った時にだね、

ふんふん。  

その帰り道に、
ちょっと小腹がすいたので
近くのパン屋に寄ったんだ。

パン屋?

 

そこでチキンを鋏んだサンドイッチを
買ったんだが、
そこの店員がかわいくてねえ、
ほら、ロイヤルコベントリー劇場に
出ている、若い女優のイサドラ・
ポリャンスキーにどことなく似てるんだ。

ほう、そうなのかい。  

で、そこでサンドイッチを買って
食べながら帰ったわけなんだが、
途中で馬車とすれ違ったんだ。

馬車?  

その馬車には上院議員の
マグローリー子爵が乗っていたんだが、
ほら、マグローリー子爵といえば
海軍の不正経理事件に関わりが
あると言われているじゃないか。

マグローリー子爵といえば元海軍次官だ。
関わりがあるのは間違いないだろうね。
 

で、そこで自分の右手の薬指の爪が
少し伸びているのに気付いたんだ。
どうも切る時の加減を間違えたらしい。


はあ。
 
   

それがなぜかひどく心に焼きついているんだ。

…なんだそりゃ。  
 

今も手を見るたびに
あの時の爪の映像がよみがえって
仕方がないよ。

…何らかのカウンセリングを
受けたほうがいいんじゃないか?

 
 

なんだか楽しそうな響きだな。
カウンセリング。

 
 サイクリングとは違うよ。  
 

ちっ。

ところでもうじきクリスマスだな。
 
 

うむ、我々は敬虔な
英国国教会の信徒だからな。
ミサに行って、家族と食事をして
しとやかな日々を送るよ。

しとやかなはおかしいだろう。
そういえば君の家族の話は
聞いたことないな。
 
 

まあ両親は早く亡くしたのでね、
高級官僚をしている兄の家庭に
招かれることになるだろうね。

ほう、高級官僚なのかね。
 
 

そう、高級なんだよ。
御歳暮の9割はメロンだよ。

そんなにメロンばかり贈られても
困るだろうけどねえ。
 
 

しかもうち3割には
生ハムがのっているんだよ。

食い方まで限定されるのかよ。  
 

そしてうち3割は
メロンというよりむしろリンゴに近かったね。

なんだよリンゴに近いメロンって。  
 

そして兄は
メロンというよりは
高級官僚に近いのだよ。

大量にメロンが贈りつけられてくるからといって、
メロンだとは誰も思わないよ。
 
 

…本当にそうかね…?

な、なんだよ疑わしげな目で見るなよ。  
 

神に誓えるか…?
ちらっとでも、僕の兄が
メロンだと思わなかったって、
言い切れるのかい…?

う、ううう…。

 
 
どうなんだっ!
ワトスン君っ!ジョン・ワトスンッッッ!
うわあああああああ
ほ、ホームズッ!
 
 

嘘だっ!嘘だっ!
嘘っ!嘘っ!嘘っ!

ホ、ホームズウウウッ!  
 

うわっ!

うわっ!  
 

うわっ!

 
ぼ、僕が二人っ!!  
 

ど、どういうことなんだっ!
ホームズッ!

そうだっ!
どういうことなんだホームズッ!
 
 

ど、どういうことなんだろうねえ。
とりあえず僕は外で一杯やってくるよ。
一人になったら教えてくれたまえ。

逃げるなっ!

 

うーん、やむを得ないな。
仕方がない。
この方法で本物のワトスン君を
見分けるとしよう。

そんな方法があるのかい?
 

うむ、僕の鋭い直感と洞察力によって
生み出された方法だよ。
とりあえずこの瓶の中の液体を
何も言わずに飲み干してくれ。

 

…なんだい、このでっかい
ドクロの絵がかかれた瓶は…

 

 

うむ、心配することはないよ、
ただの飲めば30秒で死に至る
猛毒だから。

毒かよっ!

 

 

はっはっは。
君が心配することはないよ、
本物のワトスン君。
大丈夫、君が本物のワトスン君なら
死ぬことはないはずだ。

 

な、なんでだよ。

 

君は知らなかったかもしれないが、
君がここにきた時に、
ハドスン夫人がいれてくれる
紅茶があるだろう。
あれに毎回少しずつこの毒を
入れていたんだ!

げっ!な、なんのために
そんな事をっ!


 

そうすればこの毒に対する
耐性ができて、 この毒を飲んでも
死なない体になるだろう。
そうなれば!

そうなれば?

 

 

なんだか
かっこいいじゃないか!

かっこいいじゃねえよっ!
 
さあ、飲むんだ。
さあさあさあ。

ふっ…ふっふっふっ…。
さすがはシャーロック。
見事な推理だ…。
私の変装を見破るとは、お前も
成長したものだな…。

 
 

そ、その声は、
兄にして高級官僚の
マイクロフト兄さん!
ど、どうしてそんなことを!

これが私のお前への
クリスマスプレゼントだっ!
 

 

無事解決!次回のシャーロック・ホームズの活躍をお楽しみに!

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