続・智恵子(小)

はじめに

この物語はある作家(家族の強い要望により匿名)の智恵子(小)との深い愛憎の様子を作家本人が記した日記である。作家自身は発表の場を求めていたが、家族の強い反対により、商業誌での発表は見送られた。そのため前年に作家の匿名、また作家を特定できるような個所の非公開を条件としてその一部をSAKANAFISHにて公表した。

今回は、作家自身の強い要望により、前回の続きの公開をするものである。

なお、前回掲載分をご覧になりたい方はこちらへ。


 

12月24日

聖誕祭前日。何故日本人は信じてもいない神の祭日に騒ぐのか。騒ぎに苛つく。智恵子(小)が靴下を用意するように言う。小さいから子供なのだろう。子供用靴下を一つ与えてやる。「それでいいの。」笑って姿を消す。

12月25日

聖誕祭。私の靴下にすべてスパイク(野球用の靴)の爪がついている。「だから用意しなさいといったのに。」ロオストチキンをかじりながら智恵子(小)が言う。靴が穴だらけになる。抱月の女将が「なんだか入ってくるとき金属音がする。」という。南瓜の煮物。

12月26日

南条(注、仮名)が、ペンクラブの帰りに我が家による。2000年という区切りについてひとしきり話をする。南条は「キリスト教の呪縛が解ける日。」と言い、私は「ただのつまらない日。」と言う。土産の「寒梅」飲む。

12月27日

ひどく冷える。「寒梅」の残りを飲もうとしたところ、菓子のチョコボオルが入っている。腹が立つのでそのまま飲む。甘栗が一つ入っている。智恵子(小)は、「2000年問題で、ソ聯が崩壊する。」と、マリア・カラスばりの声で歌っている。ひどく喧しい。

12月28日

今年最後の検診。橘医師来訪。酒を止めろと言う。医者は何時も自分の無能を酒や煙草の所為にする。幻覚が見えるかなどと馬鹿な事を言う。作家が現実を見られなくなったら終わりだ。智恵子(小)が、畳をラスタカラーに塗り上げている。叱ってやったら橘医師が吃驚して逃げ帰る。無能の上に小心だ。

12月29日

寿司が食べたくなる。年の瀬で贔屓の寿司屋は皆休業。近所のスーパーで一人前買ってくる。不味い。智恵子(小)にやると寿司に火をつけて火花を散らす。両国を思い出す。

12月30日

家人が久しぶりにやってくる。正月くらい家に帰れと言う。ここ1年家に帰らず仕事場で暮らしている。智恵子(小)と離れるのもいい。片づけをして帰る。

(12月31日-1月3日特に面白くないため削除)

1月4日

仕事場に戻るが、智恵子(小)の姿が見えない。抱月、年始の挨拶。蛸の刺身。

1月5日

今日も智恵子(小)不在。桑原君が、新しい連載の話を持ってくる。一人の老人が徐々に狂気に捕らわれていくという話は如何だと言う。桑原君がその話はやめたほうがいいと言う。

1月6日

智恵子(小)が机の下で冷たくなっていた。バオバブの木の下に葬ってやろうと思う。寂しい。

1月7日

智恵子(小)が玄関で熱くなっていた。近くにある短冊が発火する。「疾き事火のごとし、静かなる事火の如し、侵略する事火の如し、動かざる事火の如し。」という。それでは「火火火火」だ。「風林火山」にならない。

1月8日

目覚めると粥がある。七草は昨日だ。智恵子(小)が作ったらしい。セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ・・・後一つ何かある。食うべきか悩む。「それが今一つはじけない原因なのよ。」

1月9日

目覚めると粥がある。七草どころではなく、もう二つ何かある。思い切って口に入れる。「人生にはもう少し慎重さが必要なのよ。」遠くで声が聞こえる。

1月22日

目覚めると橘医師がいた。「オオ、目を開けましたぞ。」見ると普段はいない家人がいる。臨終の床のようで気分が悪い。怒鳴り散らして家に帰す。f。

1月23日

「アンパンマンは君だ。」と、テレビが歌う。ということは私はアンパンマンか。智恵子(小)もか。ばいきんまんもか。やなせたかしもか。s

1月24日

新しい小説の構想を練る。桑原君に反対された、老人の話が頭から離れない。抱月に行こうかと考えているうちに夜になる。仕方が無いので出前のピッツァをとる。下衆な食物だ。智恵子(小)がごろごろ転がっている。蹴飛ばすと、飛びすぎる程飛んでいった。b。

1月25日

悲惨な事件続く。胸が痛む。見ると智恵子(小)が私の胸に穴を空け、焼酎を流し込んでいる。芋焼酎なので終日芋臭い。抱月、薩摩揚。jk。

1月26日

発掘あるある大事典とは何か。発掘とは、土中から掘り出す事、まだ人に知られていないものを探し出す事を言う。知られていない筈なのにあるあるとは何事か。甚だナンセンスだ。
智恵子(小)が二人いる。一人は青、一人は群青。gatt。


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