[Weekly e-Mail Magazine for USO Mania]

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[1999.12.21]
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親愛なるかいと君へ

度々の手紙、煩わしいとは思うだろうが許してくれ。
こうして君への手紙を綴ることも、もうこれで最後かもしれないのだ。

ここ北軽井沢、サナトリウムの周辺もすっかり冬だ。そして..




 ・・・・ケフッ
すまん、肺の調子が思うようにならない。
一呼吸一呼吸が、まるで疲れた旅人の重い足どりのようだ・・・
今の私には、改行コード4つがわざとらしいとか、何故咳の擬音が
手紙に、といったQ嘘読者特有の底意地の悪い指摘をおもんぱかる
余裕も無い・・・

窓の外の木々も、すっかりと葉を落としてしまった。
たった一つ残った最後の枯葉が、冬の低い日差しの中で揺らいでいる。










10行にわたって期待を持たせてすまん。
ありがちな展開、特に最後の一葉といった伝統的なネタでぼけるこ
とは、医者から強く禁じられている。
なぜ医者という連中は、体さえ丈夫ならば人間は生きることができ
るなどという確信を、かくも安易に持ちうるのか?
このような恵まれた環境にいながら、医者に許可されたボケネタは、
第三帝国と清水昆に限られているのだ・・
静かな病室の中で、ひたすら「かっぱ天国」について考えなければ
ならない歯がゆさを、奴等は理解しようとしない。


愚痴はもうよそう。そして、今はただ、残りの人生を輝ける青春へ
の追憶とともに生きることとしよう。

ベッドに伏せる日々、思い出すのは君と過ごしたカレッジでの日々だ。
あのころ、私たちは若かった。その強靭な肉体を鍛え、互いに切磋
琢磨しあった。

体育会系哲学研究会に入部したてのころ、新人部員の君と僕は、先輩
達が来る1時間前には部室にこなければならなかった。千本ノックで
ヨレた「存在と無」50冊をたらいで洗い、装丁を繕い、アイロンを
かけるためだ。

今にして思えば、この辛い体験が二人をして実存主義から遠ざけたの
かもしれない。
特にドイツ実証哲学好きな君にとっては辛い日々だったろう。
部員が帰った後、一人ヴィトゲンシュタイン全集でベンチプレスにと
り組む君をよく見かけたものだ・・・

だが、思い出は辛いことだけではない。君とチームを組んで出場した
第7回東日本フッサール間主観性選手権。僕らは、なみいる強豪をよ
そに緒戦を勝ち抜いていった。
僕の微妙な仕草から超越論哲学の本質と限界を読み取った、ジェスチ
ャーゲームでの君の快挙は忘れることはできないよ。


次はいつ、筆をとることになるかはわからない。
君の心身の健康たることを切に願う。
                                        君の友、猫八
追伸
錦之介通信を同封しておく。何かの機会に読んでおくれ。

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錦之介通信REMIX14 喫茶店とは何か?の巻

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光デパート@大嘘百貨店
http://village.infoweb.ne.jp/~fwba0050/index.htm
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神戸の長田区に行ってきた。震災後、3年経った風景を見るためだ。

物見遊山で訪問するのも多少不遜な気もするが、記憶を風化させない、

いくばくかの金を落とすことの現実的な効果等、いくらでも言い訳はあ

る。

 

おそらく火災の被害がひどかったであろう一帯を歩く。震災後建築され

た市営住宅が立ち並び、さながらニュータウンの様相を呈している。し

かし、商店の多くはプレハブだし、空き地も多い。公園には仮設住宅が

残り、古いビルは今だ傾いたままだ。

 

着いたのは朝9時ごろ。まだ朝飯を食べていなかったので、何か食物は

ないかと開いている店を探す。喫茶店が多い。

喫茶店の一つ、「愛LOVE」に入る。ファンシーな看板に、出窓に飾

られた人形の数々。市営マンションの1階に、不思議な雰囲気を漂わせ

ている。

 

営業中であることを確認し、中に入る。客は、オバアチャンが3人。

マスターもオバアチャン。喫茶「愛LOVE」は、ファンシーなオバア

チャン喫茶だった。

 

喫茶でモーニングを頼む人間は、通勤途中の人間である。そんな常識は、

ある地方では通用しない。

仕事関係で名古屋周辺の喫茶店に何度か入ったことのある私は、長田も

名古屋と同じ、「例外」であることがすぐにわかった。

 

名古屋の喫茶店の、過剰なモーニングサービスについてご存知の方は多

いだろう。だが、一見無茶なモーニングサービス・・・コーヒー(300

円前後)を頼むと、おにぎり、味噌汁、茶碗蒸等が無料でついてくる等

の、節操のない商品構成・・・にはちゃんとした理由があるのだ。

 

それは「喫茶店を家族団欒の場とする」習慣である。

 

名古屋の喫茶店で、一家揃ってモーニングセットを食べている風景を見

かけることがある。子供も、おじいちゃんもおばあちゃんもいっしょだ。

朝食は家庭でとらなくてはならない。そのような不文律は名古屋には無

い。

 

コーヒーに茶碗蒸といった不気味極まりない組み合わせも、広い年齢層

を対象にしなければならない名古屋の喫茶店にとって、至極当然の帰結

なのだ。

家族層という大きな需要に支えられているからこそ、薄利多売の商売も

可能だ。

 

高知出身の翻訳家、大森望氏がやはり「喫茶店で家族が朝食」派である。

朝おきて喫茶店に行くと、父親がコーヒーを飲んでいる、といった按配

だ。

同じく高知県出身の知り合いに確認すると、たしかにそういう習慣は存

在するという。

名古屋、高知、長田。離れ離れの土地に、同じ習慣が存在する。

 

喫茶「愛LOVE」に入ってくる初老の夫婦、中年の男。今は、考えて

みれば日曜の朝だ。

店を出ると、各区画にいくつもの喫茶店が散在し、日曜の朝だというの

にそれぞれが賑わっている。

 

震災という強制執行によって、恐らく世界に類を見ない速度で、下町の

住宅密集地から高層住宅街へと変貌を遂げた長田区。

高層住宅街のなかで失われがちなコミニュティの機能を、喫茶店が繋ぎ

止め、昔の「長田」の名残を残しているのではないかとふと思った。



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