――QuickUSOYA2004.6.01―――――――――――――――――――――

今週の内容........

1.「しーもす君と小猫さん」(担当:佐々木バレット)
2.第31回嘘競演開幕のお知らせ
3. 更新情報(週刊WEBマガジンSAKANAFISH)
4. 現代厨房文学館 by 古賀
5.「しーもす君と小猫さん」



1.しーもす君と小猫さん ――――――――――――――――――――――


<シーモスくんとこね子さんinエンドレスサマー>





  わたしがその異国の男の子と出会ったのは、わたしが八歳の時でした。
  漁師をしていた(らしい)祖父が逝ってしまって、お葬式のために母の故郷の
  南の島に行った時のことです。
  
  母はこの家を家出同然に出て来た人で、そのせいでわたしはそれまで祖父の顔
  を知りませんでした。ですから、これがおじいちゃんなんだよといわれてもわ
  たしにはよくわからず、お葬式はただただ退屈なばかりでした。そんな時ふと
  祖父の家へ来る途中で見た浜辺が、とてもきれいだったのを思い出したのです。

  わたしはひそかに家を抜けだして一人で海へ出掛けました。
  
  誰もいない浜辺は、映画の風景のように美しいところで、白い波をよけて走っ
  てはしゃぎまわりました。いつの間にか日が傾き、空がオレンジ色に染まった
  ころです。岩影の向こうに、緑色の大きな塊があるのに気がつきました。椰子
  の木の林でした。椰子の木、椰子の木だって!わたしはもう帰らなければと
  思っていたのですが、最後にあそこに行くことにし、駆けて行きました。
  
  大きな椰子の木の下に、男の子が案山子のように突っ立っていました。
  金色の髪と、澄んだ青い瞳と、日に焼けて大地の色をした肌の、異国の男の子。
  男の子はふうふうと息を切らせるわたしに気がつき、きょとんとした顔をしま
  した。
  わたしも男の子を見返しました。
  
  「遅いじゃないか。今まで何してたんだよ。」
  「仕方ないじゃない、こっちにも色々あるの。そんな言い方しなくてもいいで
   しょ。」 
  「なんだよ、遅れてきたくせに。」
  「そっちこそ何よ、わたしが来ないんだったら迎えにきてくれれば良かったの
   に。」
  「ああ、そうか。そうだなぁ。ごめんなさい。」
  「なんでそこで謝るの、せっかく"遅れてごめん"って謝ろうと思ってたのに。」
  「ごめんなさい。」
  「あんたダメねえ。」
  「ダメだなぁ。」

  とても不思議でした。
  はじめて会ったのにこんな風に言い合ったことがではありません。
  どうしてわたしはこの子と別々だったのに、今まで生きて行けていたのか。
  それが不思議でした。

  「運命」とか、そんな大仰な言葉であらわすのは違うような気がします。
  時が来て少しだけ欠けていた月が満ちたような……
  風が吹いたから麦の穂が揺れたような……
  

  気がつくとわたしたちはそれが当り前のことのように、唇を重ね合わせていま
  した。
  きっと彼の肌には海が染み込んでいるのでしょう、はじめてのキスは太陽と潮
  の匂いがしました。
  
  「また明日な。な、約束だぜ。」
  別れ際、彼がこう言い出したのにわたしは少し不満におもいました。
  わたしと彼が明日も一緒なのは当り前のことで、約束なんて必要ないと思った
  からです。わたしは彼の腕を少し乱暴に振りほどいて――――
  「いらないわよ約束なんて。じゃあね。」
  けれど、

  次の日のお昼、わたしは島を離れる船の上にいました。
  私のいないうちに母が急に帰宅予定を早めたのです。理由は今でもよくわかり
  ませんが、島の親族と何か揉め事があったようです。
  それから私があの異国の男の子と会う事も、二度とありませんでした。
  まだ互いの名前も知らないというのに。

  あの子は、何もつげず消えてしまったわたしを、どう思っているでしょうか。
  約束も交わさなかったわたしをいつまで待ってくれていたのでしょうか。
  今も覚えているでしょうか。それとも、もう子供の頃のことです、わたしの事
  など忘れてしまったかもしれません。
  わたし自身、もしかするとあれは夢だったんじゃないかと思うこともあります。

  しかしそれでも、今でも時折ふと、夕陽の光の中で輝くあの男の子の青い瞳が
  はっきり思い浮かんで来ることがあるのです。



            (ざざーん、ざざーん)

岡嶋杏子(26):で、ここがその思い出の海なのね。
こね子(26) :ええ、まあね。
岡嶋杏子:海がきれいーー、水が透き通ってるーー。
こね子 :(わたしが親友の杏子を誘って、二十年ぶりにこの島を訪れたのは、彼
     氏との別れを癒すためだけではなかった。ここ数年、私の生活の上にい
     つもあった、なにかしっくりこない不自然な感覚…………ここに来れば
     その答えが出るのではないか、そんな気がしたのだ。)
岡嶋杏子:その美しき思い出の浜辺に、地元のおっさん・おばはんらしい野次馬う
     じゃうじゃとともに、パトカーと警察官が山ほどいて、keep outの黄色
     いテープが張り巡らされ、波打ち際にはドサドサ変死体が打ち上げられ
     ているこの状況、どう思いますか、こね子さん?
こね子 :すごく……切ないです。
岡嶋杏子:ったく、せっかく有休とって遊びに来てんのに、こんなことに出くわす
     とは。なんでも殺人事件らしいわよ。それも、ただの殺人じゃなくて、
     見立て殺人。
こね子 :なんとまあ横溝正史先生ライクな……やっぱ、この地方に伝わる古い和
     歌とか、神話とか、六部の伝説とかに沿った形で殺されたわけ? 
岡嶋杏子:青年誌のグラビアのポエムに見立てた殺人が。
こね子 :グラ……何だって?
岡嶋杏子:「星の海の下でキミは笑って見せたよね」と記された切れ端とともに発
     見された死体の死因は、喉に大量に詰め込まれたオニヒトデによる窒息
     死。
こね子 :なんじゃそら。
岡嶋杏子:「雲が好き、海が好き、でもあなたのことはもっと好き」、そんな乙女
     チック・ポエムが懐中から見つかったのは、摂氏100℃強の水蒸気に
     全身をさらされた上に、火傷に塩水をすり込まれてショック死した男の
     死体。
こね子 :熱っ!痛っ!
岡嶋杏子:そんなこんなの殺人がたて続けに起こった結果が、このザマよ。
こね子 :……すいません、この話、わたしのノスタルジーな淡い恋の物語ではな
     かったんですか?
岡嶋杏子:それにしても、なんとまあ野次馬の多いことよ。ちょっとおっさんおっ
     さん、一体ここで何見てんの?
地元おっさん:何っておめ、知らんだか?あのグラビア三十人殺しの犯人がついに
       わかったんだよ。
岡嶋杏子:おお、なんと急展開。
地元おっさん:で、巡さんが追い詰めたんだけどよ?そいつが大人しくお縄を頂戴
       すりゃあええに、抗いおって、でな、今、そこん崖から飛び降りる
       の降りねえのってところよ。
こね子 :(……何故だろう、胸がすごく嫌な風にドキドキする……)
岡嶋杏子:へー、そんなのの野次馬してるなんて、おっさんも暇だね。ん?
こね子 :もしかしたら、その犯人……わたしの思い出の人かもしれない。
岡嶋杏子:はぁ?何いってんのよ、そんな……
こね子 :いえ、そうに違いない!だってこの感じ、そうに違いないのよ!
岡嶋杏子:ちょっと、ちょっと待ちなさいよ、こね子!


   わたしは走りました。必死で走りました。
   ……わたしにはわかっていました。
   昔、わたしと出会ったあの子だった青い瞳の人が、この先でわたしを待って
   いると。
   そしてその再会が、決して幸福なものではないことも。
   それでも――――わたしは走らずにはいられなかったのです。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜以上第一部〜〜〜〜



2.第31回嘘競演開幕のお知らせ ―――――――――――――――――――――――

暑かったり寒かったり、雨だったりアラレちゃんだったりする今日この頃、
皆様いかがお過ごしでしょうか。


ダラダラした気分を吹き飛ばしたり増幅したりするべく、
第31回嘘競演を以下の通り開催致します。

ご用とお急ぎでない方は、どうぞ【毎日】ご参加下さいませ。

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 06/06 (日) 00:00 <お題発表/ラウンジ開店> 
 06/13 (日) 00:00 <コロシアム開場 >
 06/20 (日) 00:00 <コロシアム終了/投票開始>
 06/27 (日) 00:00 <投票終了>
 07/04 (日) 00:00 <ラウンジ閉店>
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                           議長:みりん


※嘘競演はhttp://homepage3.nifty.com/usokyouen/に移動しました。
お手数ですがブックマーク等の変更をお願いいたします



2.更新情報のお知らせ ―――――――――――――――――――――――――


■週刊WEBマガジンSAKANAFISH
http://www.sakanafish.com/

世界の中心で愛を叫ぶという物語が大ヒットしているが、
ここではそんなマントル計画のことではなくて日本文学について
問い直してみたい。日本文学は世界最古の長編小説『源氏物語』、
琵琶法師によって語られた『平家物語』、森鴎外の『阿部一族』など、
世界に誇る名作を数々輩出してきた。だが、近年では一部の作家の
世界進出などはあっても、世界に誇る名作となると残念ながら出ていない。
これから世界に誇る日本文学の名作を築くためには、もっと国民的な
サポート体制の確立が必至である。
核家族の廃止、少子化の改善、一族の連帯の強化…
「源氏」「平家」「阿部」に続く新たなる一族の輩出、それが文学のための
国民的責務ではないだろうか。(岩)


今週の特集は「ひよすちゃんえにっき」です。

さらに「Tシャツ評議会」がスタートしたり、
さらにSAKANAFISH日本タイピング「きせかえまふるちゃん」が
マイナーバージョンアップしたりしています。

ほかにも近代職業婦人図鑑やふたご対談などもあります。


――――――――――――――――――――
嘘関係のサイトの更新情報等、何か告知がありましたら
こちらの更新情報で紹介いたします。
紹介したい方はこちらまでご連絡ください。
q_usoya@yahoo.co.jp
まで。

 
4. 現代厨房文学館  ――――――――――――――――――――――――――


1. 「今週のマイ国家『いいわけ幸兵衛』」―――――――――――――――――――

「嘘サイトを作るという話は一体どうなった。見とおしを聞くまでは帰らない」
だが、幸兵衛(仮名)は少しもあわてない。同情したり、いっしょに泣いたり笑ったり
しながら、しだいに本題へと引きこむ。
「……われらのサイトは、ここで一飛躍するのですよ。方針を全面的に切り換える。
必ず人気のあがるサイトを作るのです」
「そうとは知りませんでした。で、どんなサイトです」
「つまり、早くいえば大喜利センターとでも称するものです。奇異な感じがするかも
しれませんが、偉大なアイデアの出現の時は、だれしもそう感じるものです。社会の
ひずみは、様々な難問に対しての斬新な解答を求める。そして、その必要性は今後
ますますふくらむ一方でしょう。それを一手に引き受けるのです」
「なるほど」
「これこそヒューマニズム。最も人間的な仕事です。地の塩、社会の潤滑油となる。
ラカン派精神分析医の優秀なのを何人そろえたって、これだけはできません。いまに
世界的なサイトに伸びるはずです。先進国の統計によりましても……」
幸兵衛(仮名)は統計を作り出し、学説を作り出し、それに対する批判の説を作り出し
批判を粉砕した評論家を作り出し、批判を粉砕した評論家を批判したサイトを作り出し
批判を粉砕した評論家を批判したサイトを批判した2ちゃんのスレッドまで作り出し
た。
「そうでしたか。じつに新鮮なアイデアです。しかし人材のほうは大丈夫なんですか」
「もちろんですよ。一騎当千の者ばかりです。わたしはあまりその才能がないので、
世話役のような形で議長をやっているわけです。ですから、わたしを標準にされても
困ります。参加者たちの、二枚舌のものすごいことといったら……」
「たのもしいものですね」

http://homepage3.nifty.com/fueiku/ohgiri/index.html(笛育市大喜利)

明るいやる気のある二枚舌募集中(無給優遇)

2. 「現代厨房文学館」 (その16)――――――――――――――――――――――

ひろゆき博士が長いあいだの念願であった巨大掲示板を完成し、その一角に萌想銀行
を経営するに至ってから、すでに数年がたった。
萌想銀行とは、萌えによってなりたっている銀行である。といっても、銀行そのもの
にハァハァするのではない。取扱う品目が萌えだという意味なのだ。
現代とはどんな時代なのだろうか。この点について、ある高名な学者はこんな定義を
下している。「ポストモダン社会という畑に、動物化する人間という種子をまき、
アニメと同人誌とゲームとCGとフィギュアという混合肥料をほどこし、萌えという
果実をみのらせる」と。
昨今では肥料の濃度が一段と高まり、作用が強烈になり、そのうえ、やりすぎの傾向
がある。果実は大きくなり、重みはます一方だ。豊作にはちがいないが、こう熱心に
果実をみのらせても、べつに用途があるわけではない。なんのために、われわれ人間
は二次元キャラにハァハァしなければならないのだろう、といった哲学的な思索にふけり
たがる人も多いことだろう。
しかし、考えたって結論の出てくるものではない。メイドさんはなんのために存在する
のか、との問題と同じことだ。ご主人さまがご主人さまであるためには、メイドさんが
存在せねばならぬのである。
ひろゆき博士はこのような状態を黙視し得ず、その解決法ととりくんだのだ。はるかに
現実的で、またヒューマニスティックというべきであろう。


『萌想銀行』 星新一

魯の国の遊侠の徒、仲由、字は子路という者が、近ごろ賢者の噂も高い学匠・陬人
孔丘(すうひとこうきゅう)を辱めてくれようものと思い立ち、
『最近偉そうな孔子ってどうよ?』というスレッドを儒教板に立てた。
やがて孔子本人がそのスレに現れ、二人の間に問答が始まる。
「汝、何をか好む?」と孔子が聞くと
「我、現実の女を好む。」と子路は昂然として言い放つ。
孔子は思わずニコリとした。青年の声や態度の中に、あまりに稚気満々たる誇負を
見たからである。
「萌(もえ)は即ち如何(いかん)?」
「萌、豈(あに)、益あらんや」
もともとこれを言うのが目的なのだから、子路は勢い込んでどなるように答える。
萌について云々されては微笑ってばかりもいられない。孔子は諄々として萌の必要を
説き始める。
TVアニメにして眼鏡っ娘がなければ視聴者の関心を失い、エロゲーにしてメイド
さんがなければプレイヤーの抜きどころを失う。馬に策が、弓に檠が必要なように、
人にもその放恣な劣情を発散する萌えキャラが、どうして必要でなかろうぞ。
倉庫に残されたログの字面などからはとうてい想像もできぬきわめて説得的な弁舌を
孔子は有っていた。言葉の内容ばかりでなく、その穏やかな音声・抑揚の中にも、
それを語る時のきわめて確信にみちた態度の中にも、どうしても聴者を説得せずには
おかないものがある。青年の態度からはしだいに反抗の色が消えて、ようやく謹聴の
ようすに変わってくる。
「しかし」と、それでも子路はなお逆襲する気力を失わない。南山の竹は矯めずして
自ら直く、斬ってこれを用うれば犀革の厚きを通すと聞いている。してみれば、天性
優れたる現実の美女がいれば、なんの萌えの必要があろうか?
孔子にとって、こんな幼稚な比喩を打破るほどたやすいことはない。汝のいう美女に
猫耳や鈴やメイド服などの萌え属性をつけてこれを商品にしたならば、啻(ただ)に
一人の消費活動を左右するのみではあるまいに、と孔子に言われた時、愛すべき単純
な若者は返す言葉に窮した。顔を赧らめ、頭をたれて「謹んで教を受けん。」と降参
した。即日、子路は師弟の礼を執って孔子の門に入った。


『でじ』 中島敦


執筆担当:古賀
【笛育市大喜利掲示板】
http://homepage3.nifty.com/fueiku/ohgiri/index.html



5. しーもす君と小猫さん――――――――――――――――――――――


葛龍警部:うーむ、うーむ、なんてことだ。
林巡査長:困りましたね警部。犯人のシーモスを追い詰めたはいいが、まさか言葉
     が通じないとは……
葛龍警部:英語ならオレもTOFLE900点の男、それなりに自信があるんだが
     ……まさか世界にそんな言語あるなんてな。見た目は金髪・碧眼の白人
     なのに英語が通じないとは。
林巡査長:ええ……私たちの手には余ります。世界の主要言語、すべてが彼の持つ
          言語とは違うのですから。あ、シーモスが小屋から出てきましたよ!


シーモス:"ケーサツのみんな!一緒に行こうよ、あの水平線の向こうまで!さも
     ないと、ボクはもう大人だよ?どうしていつまでも妹としてしか見てく
     れないの、おにいちゃん!"


葛龍警部:………………
林巡査長:……「デタラメ少女言語」、まさかこの世に、そんな言葉が存在するな
     んて……あれ、一体なんて言っているんですか?
葛龍警部:わからん、さっぱりわからん。あの言葉使いで語気を荒げられても、全
     然危機感がわいてこない!
林巡査長:野太いおっさん声なのに、聞いただけで丸文字が目に見えてきますから。
     あのグラビアポエムも、シーモスにしてみればただ被害者への恨みと脅
     迫を、直截に書き付けただけの脅迫状だったんでしょう。
葛龍警部:うむ。思えばあの男も不幸な星の下に生まれついたものよ。しかしそれ
     も仕方ない、運命だ。機動隊に突入の準備をさせろ。
こね子 :ちょっと待ったぁぁぁ!!
葛龍警部:うわっ。
こね子 :はあ……はあ…………あ、あなたがこの現場の責任者の人ですか?
葛龍警部:うむそうだが。君は?
こね子 :お願いです、わたしに犯人と話をさせてください!
葛龍警部:なにぃ?
こね子 :実はわたしと彼はごにょごにょごにょと、こういう関係なんです。そう
     確信してるんです、だから、だからお願い、……きっとわたしなら、彼
     と話が出来ると思うんですっっ!お願いします。
葛龍警部:うーむ、しかし……
林巡査長:警部、警部。
葛龍警部:なんだね林くん。
林巡査長:ここは一つ、彼女にまかせてみてはいかがでしょうか。
葛龍警部:しかし、彼女は事件に何の関係もない民間人だぞ。
林巡査長:しかし警部、彼女はあのシーモスと幼い頃の恋の思い出を、本気で重
     ね合わせて見ることが出来るのです。「デタラメ少女言語」……彼女に
     なら操れるかもしれません。
葛龍警部:うむ……ここは……彼女に賭けてみるか。こね子さん。
こね子 :はい!
葛龍警部:正直、私たちではシーモスを投降させるどころか、彼が何を言っている
     のかすらわからないのです。お願い出来ますか。
こね子 :……わかりました。(と、拡声器を受け取る)



こね子 :アー、アー……"こんにちは、あたしこね子!男まさりで元気いっぱい
     の小学四年生!"
シーモス:"はじめてあった時から、もう夢中だよ!でも、そんな風にいわれると
     傷ついちゃう"
こね子 :"でもでもぉ〜、うう〜いぢわるー"
シーモス:"「嫌い」なんて言っても、あなたの気持ちなんて、わたしはお見通し!
    「嘘つき」って呼ばれるのはオトナのしるしなの?"
こね子 :"それって間違ってるよ、自分の気持ちに嘘をつかないで!"
シーモス:"空いっぱいにジャンプ!引っ込み思案な私の恋、いつキミは気付いて
     くれるのかな……"
こね子 :!!


こね子 :うう、ううう……(頬を伝う一粒の涙)
林巡査長:いったい彼らは何を言っているんでしょう。
葛龍警部:うーむ……こね子さん、こね子さん。ちょっと邪魔してすまないが、今
     のはいったい何を言い合っていたのですか?
こね子 :今のやり取りですか?まず私が彼に"こんにちは。お元気ですか"と挨
     拶しました。すると彼は"うるせえ、てめえみたいな女は引っ込んでろ"
     と……
葛龍警部:……あれだけしゃべってそれだけ?
こね子 :はい。い、いえ、そうではないんですが……正直、少女言語は、日本語
     には訳しにくい要素も多いんです。それに長い年月別々になっていたせ
     いでしょう、あの人とわたしの言葉はいつの間にか、別物になっていて
     ……あの頃は、もっと心で通じ合えていたのに。
葛龍警部:というと?
こね子 :警部さんたちは、彼の言語を「デタラメ少女言語」と呼んでいるのです
     ね。けれど、同じ少女言語でも、私と彼のとは少しだけ違う言葉なので
     す。私の言葉は、いうなれば「プチプチ乙女言語」なのです……だから
     分からないことも多くて。警部さんには、大意を伝えるのが精一杯なん
     です。
葛龍警部:そうか……しかし現状、頼れるのは君だけなんだ。どうにかシーモスに
     投降を促してはくれないか。
こね子 :当然です、わたしやります!まずはシーモスが、わたしのことに気が付
     いてるか、訊いてみます!
葛龍警部:にしてもシーモス、女にそんな暴言をはくような奴だったとは。けしか
     らん!
林巡査長:三十人殺してるんですけど。


こね子 :アー、アー……"ねえ、気が付いてるの。私、この街に帰ってきたんだよ"
シーモス:"わかってる、真実なんて誰にもわからない――――それでも私だけ見て"
こね子 :"お願い答えて、夕日の海で出会った思い出は本当なんだよね?"
シーモス:ぁ……!"ねえ信じられる?これが運命なんだって。"
こね子 :…!"今までは少しだけ馬鹿にしてた……だけど今なら信じられる!あ
     なたが信じてくれたから!"
シーモス:"キミの唇は、お日さまの匂いがしたね"


葛龍警部:おお!シーモスの顔付きが変わったぞ!こね子さんの言葉が通じたのか!
林巡査長:どうなんです、こね子さん。
こね子 :ええ!ええ!!通じた……やっぱりあの人だったんだ!
葛龍警部:今のは、なんと?
こね子 :ええ!私が「子どものころ、会ったことあるよね」って訊ねたら「へー
     お前、あの子だったのか、大きくなったなぁ。今度合コンしねえ?」っ
     て答えてくれた!その上、わたし達の大事な思い出も覚えていてくれた!
葛龍警部:続けて下さい、今ならシーモスの気も緩んでいる筈です。
こね子 :はい!


こね子 :アー、アー…"嬉しい、嬉しい。それだけで一杯になっちゃう!でもあ
     たしを待っていたのは良いことだけではなかったのだ。"
シーモス:"つまらないことなんて気にしない。だから、ねえみせて。わたしだけ
     にきみのこと全部。"
こね子 :"何があなたを変えてしまったんだろう。それはわからない。けれど憎
     しみは何も生み出さないわ"
シーモス:"好き、好き、大好き。それしか言えないの"
こね子 :"勇気出せって、わたしっ。ここまで来て怖気づくなんて、そんなのな
     いでしょ!"
シーモス:"はちきれそうな太陽の季節、日曜なんて待ちきれないよ!"
こね子 :"ありがとうなんて言葉はいらない、からだで示して……"
シーモス:………"ね、あなたがほしいの、からだだけ?"


葛龍警部:なんだか雲行きが怪しいな。そう思わないか林くん。
林巡査長:そうですか?僕にはよくわかりませんけど。
葛龍警部:こね子さん、どうだい今の所。
こね子 :…大まかには分かってくれたみたいなんですけど……「おまえさぁ、お
     袋みたいなこと言うよな」だって。これって好意的な言葉でしょうか?
葛龍警部:うーむ。


こね子 :アー、アー…"彼は王子さま、私はただのミソッカス……でもムリだっ
     てわかってても振り向いてもらいたい!"
シーモス:"「嫌い」だなんて、そんなセリフ、言わせないゾ"
こね子 :違うっ、そんなこと…!"だってだってシーモスくんが見てるんだもの!
     キンチョーしちゃうわよ"
シーモス:"さびしい時には、いつもあなたのことを考えるの"


こね子 :ダメ……どうして、どうしてわかってくれないのよ!! 
林巡査長:落ちついて落ちついて!
葛龍警部:どうしたんだこね子さん。シーモスはなんて言ってるんだ。
こね子 :なんて言うか……私はいろんな言葉で「罪を償って」と言っているのに
葛龍警部:ああ、やっぱりダメか!。
こね子 :ダメなんです、どうしてもシーモスがわかってくれない!あなた、あの
     日のあの子でしょ!?なのにどうしてわかってくれないの!!……もう
    「プチプチ乙女言語」では対応しきれません。あまり使いたくなかったけ
     ど、しょうがないです。ここは「ゴスロリ少女言語」で賭けに出ます。
     それで、それで私の気持ちを伝えるしかないんです!
葛龍警部:ゴ、「ゴスロリ少女言語」?
林巡査長:名前だけ聞くと、「プチプチ乙女言語」よりもわかりやすそうですね。


こね子 :それでは「ゴスロリ少女言語」、作動します。アー、アー………………
    "ねえ、ご同道願えるかしら、とってもステキな蛆虫!蛆虫!蛆虫!パス
     タの生地を真っ赤に染めて結んだ魔法のリボンで着飾ってあげるから、
     わたくしの蒼天・満天・作用点的言動天に屈しなさいな。ね、ステキな
     ステキな蛆虫!蛆虫!蛆虫さん!"
シーモス:!?"ルンルン♪ハワイの海ってホントにステキ!"
こね子 :"もう止まらない愛の全自動、全回転、原子力式超特急、ひらひらのフ
     リルで羽ばたいて、わたくしはあなたを愛しにいくわっ。拒むなんて許
     さない、ダメだなんて言わせない!骨の髄の髄の髄までギュンギュン恋
     してあげますわ!そう、一生ハゲしくタンゴを踊るショッキングピンク
     のフラミンゴのように!だからわたくしの足をお舐め!" 
シーモス:"白い砂についた私のあしあと、追いかけて来て!"


葛龍警部:ええーーーっ!?何?今の何?ちっともわかんねえよ、翻訳して下さい
     よこね子さん!
こね子 :もも、もう日本語に翻訳することなんか不可能です!だ、だ、だ、黙っ
     ててくださらないと、わ、わたくしの暖かな靴べらで、あなたがたのア
     トムハートをどきゅどきゅいたしますわよっっ、この虹色くつわむし!
     ペタンコ兵隊アリ地獄!
葛龍警部:ええ?何で私、罵られてるんですか!?っていうか、これって罵倒なん
     ですか!?


こね子 :"私が丹精こめて育てた緑黄色野菜で、あなたに美味しいサラドをつく
     ってさしあげましょう。そしてそれを、例え貴方が地の果て日の果て
     水の果てにいようとも、貴方のもとへ、わたくしが日本郵政公社のゆう
     パックで送って差しあげましょう。それがスープが冷めない距離という
     ものですわ!"
シーモス:"もしかして――――おねーさんに恋してる?"
こね子 :"お手元にあるあなたの辞書を開いてください。「こ」の字の項を開い
     てください。そして万年筆を手にとって、適当な場所にわたくしの名
     前を書き込みなさい。わたくしが貴方をどれだけ愛しているかも、貴
     方の心に響いた限りの字数で書き込みなさい。同じ事を、貴方の所有
     するすべての辞書において為しなさい。あなたの住所の最寄りの図書
     館の辞書にも書き込みなさい。"


葛龍警部:ぴろろろん、翻訳こんにゃくー。
林巡査長:あったらいいですね。翻訳こんにゃく。


こね子 :"ずぺぺぺぺぺぺ"
シーモス:"ずぺぺぺぺぺぺ"
こね子 :"ずぺぺぺぺぺぺ"


葛龍警部:ああ、もう世界が違うね世界が。住んでる宇宙が。
林巡査長:「私の言語の限界は、私の世界の限界」って、こういうことですかね?
葛龍警部:はははーそうかもしれないねー。
林巡査長:で、結局こね子さんは、犯人を説得できたんでしょうかね。


こね子 :はぁ、はぁ、はぁ……
しーもす:ぜえ、ぜえ、ぜえ……


こね子 :こんなに、こんなに言葉をつくしても、分かってもらえないなんて……
林巡査長:無理だったみたいです。
葛龍警部:なんかもう、どうでもいいや。はい、機動隊のみなさーん。突入、突入。
こね子 :ま、待って下さい……最後に一度、一度だけシーモスに、言いたいこと
     が……
葛龍警部:…………本当に一度?一度だけ?
こね子 :ええ。そうです。一度だけ。
葛龍警部:本当に一度だけだよ。それでも犯人が応じなかったら、即、突入するか
     らね。
こね子 :…はい。


こね子 :…………
シーモス:…………
こね子 :……わたしには……
シーモス:…………
こね子 :……あなたがどう思っているかはわからない。
     あなたも、わたしがどう思っているか、わからなくなっちゃったみたい
     ね。
シーモス:…………
こね子 :…お互い変わっちゃった。でもね。
シーモス:…………
こね子 :最後にいわせて。ごめんさい。あの日、さよならも言えなくて。そして
     ……ただいま。また会えたね。
シーモス:…………
シーモス:…………
シーモス:…………
シーモス:…………おかえり、こね子。


    そして彼は静かに両手を上げて、警察に投降しました。
    わたしは彼の姿を見届けました。なぜか涙は流れませんでした。
    そしてその日のうちに、わたしと杏子は島を離れ、日常の中へと帰って行
    きました。

    最後……彼はわたしの言ったことを、理解してくれたような気がします。
    最後の最後で、わたしと彼は、また通じ合えました。きっとそうです。
    だから。

    だからこれからはきっと、わたしは上を向いて歩いていけると思います。
    



葛龍警部:ずずずずーー、ああ茶が美味い。にしても、まさかあいつ、投降すると
     は思わなかったなぁ。
林巡査長:そうですねえ。
葛龍警部:だってあの最後の一言、普通の言葉だったもんな。シーモスが理解出来
     るはずがないのに。
林巡査長:ははは。
葛龍警部:それまでどんなに言葉を尽くされても、頑なに出て来なかったあいつが
     ……やっぱり、「愛は強し」ってことかなぁ。
林巡査長:ははは。
葛龍警部:愛は言葉を越えるね!ええ話やなぁ。
林巡査長:いやそれがね、この話を友人の司書にしたらですね。げらげら笑われま
     して
葛龍警部:ん?どうかしたの?
林巡査長:こね子さん、最後に「ただいま。また会えたね。」って言いましたよね。
葛龍警部:それが何か?
林巡査長……あれ、バベル崩壊以前の言語で、「ええ加減にせんと、けつの穴から
    手え突っ込んで、奥歯がたがた言わせたるど」って意味なんだそうですよ。




執筆担当:佐々木バレット

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