続々々々・智恵子(小)

はじめに

この物語はある作家(家族の強い要望により匿名)の智恵子(小)との深い愛憎の様子を作家本人が記した日記である。
作家自身は発表の場を求めていたが、家族の強い反対により、商業誌での発表は見送られた。そのため一昨年に作家の匿名、また作家を特定できるような個所の非公開を条件としてその一部をSAKANAFISHにて公表した。

今回は、作家自身の強い要望により、前回の続きの公開をするものである。

なお、前回、前々回、前々々回、前々々々回掲載分をご覧になりたい方はこちらへ。


1月16日

正月から処分に困っていた餅が何処を探しても無い。もともと要らない物であるから無くなっても不都合は無いのだが。智恵子(小)新しいパソコンを買ったと自慢する。女給のアルバイトをして買ったのだと言う。体長15cmの人間を雇用するカフェーなどあるものか。アンナカレーニナとかいうような名のカフェーらしい。京楽で鰻。

1月17日

相も変わらず餅が見つからず。20kgにものぼる餅をどうしたら無くすものか。智恵子(小)に聞くが、体長15cmの人間が餅を食うところを見たことがあるかとしばし難詰される。その後「抱月」。女将に目が赤いと指摘される。赤いわけなどあるものか。独活の白味噌和え。

1月18日

終日、無聊。「高粱の月」にとりかかるも28ページ書いて中断。S社の歳暮の稲庭饂飩を作って食べる。智恵子(小)は終日インターネットに接続しているらしい。

1月19日

D社の飯村君来訪。書評を書いてくれという。「ハリー・ポッターと賢者の石」か。今更という気もしない訳でもないが。スウィフトやルイス・キャロル以来の英国の幻想文学の系譜には以前から興味が有ったので引受ける。英国と国情が類似していると言われる日本は何故に大型の幻想文学を輩出できないか。その延引から書いてみると返事。辞去する際、飯村君がしきりに靴下を触っていた。何事だと聞くと、なんでもありませんとは言うがなおも靴下を触っているので殴る。智恵子(小)は相も変わらずインターネット。接続の次段階に移ったと言う。インターネットなどと言うのはもはや老人とは別の世界だ。

1月20日

「抱月」に出向こうとするが、どうも足が重い。久し振りに蛍烏賊の酢味噌和えが食いたがったがやむを得ない。落胆していると智恵子(小)がインターネットを調べて烏賊出前の店を探してくれた。値段にしては美味。智恵子(小)に烏賊飯を勧めるが、インターネットを牽引しているのでまた後でと言う。インターネットなどというのは益体もない厄介者だ。

1月21日

朝から小雨。終日「高粱の月」執筆。智恵子(小)はインターネット牽引。静かな一日。

1月22日

朝起きると居間に大きな白く四角いかたまりがへばりついている。何か細い糸のようなものを引きずって大変邪魔である。智恵子(小)に聞くとこれがインターネットだという。これが本物のインターネットなのだと言う。それにしても逃げようとしないのは何故かと聞くと餅にへばり付いているのだという。よく見ると床一面に餅がついている。成程。

1月23日

インターネットがすっかり家に居着いてしまった。ひどくじめじめする。インターネットが水芸をするからだ。それにひどく鳩臭い。何故世間はこのようなものに狂奔しているのだ。夕刻、D社の飯村君が来訪。先日の書評の原稿を取りに来る。インターネットを押したの押さないのでしばし大騒動。

1月24日

インターネットを連れて散歩に出る。インターネットというものは消えたり飛んだりするものだったのだと得心がいく。隣家の犬を消したり出したりする。犬を私のポケットから出したり入れたりする様を見ているとインターネットというのもそう不思議なものではないな、と思う。そのまま「抱月」。インターネットとともに壁から出たり入ったりすると女将がひどく驚く。

1月25日

インターネットを訪ねて中国は広島の生まれのインターネットがやって来る。中華服を着ている。今後の展開が判るような奴はお断りだ。追い返す。

1月26日

藪医者橘来訪。藪のくせに言葉遣いだけは丁寧でそれがかえって腹が立つ。これで傲慢であったら救いようが無いが。 あいかわらず智恵子(小)がいるかどうか聞くが、見れば判るだろうに。腹が立つのでインターネットをぶつけてやった。 無反応だ。救いようの無い奴だ。

1月27日

「偽国の犬」が文庫化されるらしい。文庫版の後書きを頼まれる。智恵子(小)がインターネットと何か話している。烏賊の出前をとってやるが、謝絶される。インターネットは烏賊を悪魔の魚、悪魔の魚と言って恐れる。話を聞くとインターネットは米国生まれらしい。成程。

1月28日

今日から能登へ取材旅行。羽田で森元総理とすれ違う。随分と懐かしい気がするのは如何した訳か。智恵子(小)の分も席をとってやるが代わりにインターネットが座っている。智恵子(小)はインターネットの胸ポケットに入っている。しかし最近の飛行機が何処も禁煙なのには閉口する。煙草を吸う人間がいるのなら煙草を吸う人間のことも考えるのが客商売というものであろう。腹が立ったので一つ吸ってやろうと思うがインターネットが煙草をすべて百円玉に突き刺してしまったのでできず。輪島泊。讃月荘にて刺身、輪島蒸し。

1月29日

終日輪島を散策。石切島太郎左衛門の軌跡をたどる。石切島太郎左衛門の事跡は土地の古老でも知っているものが無い。これは資料探しに苦労しそうだ。インターネットが土地の古老を切断する。元通り。拍手喝采。讃月荘にA社の水元君が訪ねてくる。石切島太郎左衛門がいたのは輪島は輪島でもニューカレドニアの輪島らしい。土地の古老が石切島太郎左衛門の事を知らないのも道理。

1月30日

終日輪島を散策。石切島太郎左衛門の軌跡をたどる。石切島太郎左衛門の事跡は土地の古老でも知っているものが無い。これは資料探しに苦労しそうだ。インターネットが土地の古老の一万円札を借りる。燃やす。暴動寸前。元通り。拍手喝采。ホテル・ラ・ルペラールにA社の水元君が訪ねてくる。石切島太郎左衛門がいたのはニューカレドニアの輪島はニューカレドニアの輪島でも神奈川県のニューカレドニアの輪島らしい。土地の古老が石切島太郎左衛門の事を知らないのも道理。

1月31日

終日輪島を散策。石切島太郎左衛門の軌跡をたどる。一番最初に話し掛けた土地の古老が石切島太郎左衛門だった。ひととおり話を聞くとすることが無い。輪島をぶらぶらとする。神奈川県ニューカレドニア輪島はむやみに古自転車屋が多いだけの何の変哲も無い街だ。暇つぶしに一台買う。久方ぶりに乗ると冷たい風が頬を打ち、なかなか爽快なものだ。そのまま帰宅。

2月1日

興がわいたので終日自転車に乗る。智恵子(小)がインターネットに「仰木さん、仰木さん。」と話し掛ける。意味が解らず。とにかく自転車と言うのはすこぶる爽快なものだ。

3月14日

TV出演。何故このようなことをしているかと聞かれるが、それはもう自分自身のためとしか言いようが無い。九州最南端の佐多岬まであと180km。自転車日本縦断、ゴールは目前である。智恵子(小)は馬刺し。九州最南端の佐多岬まであと180km。馬刺し日本縦断、ゴールは目前である。インターネットはNGKの舞台。


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