開催期間 2001.11.17-11.23
第21回嘘競演テーマは「新聞形式の嘘
古賀議長


シリーズ.・日本のまち (4)

JR東雀線で東京から四十分、
その駅に降りたった瞬間に、強烈な異臭が鼻をつく。
青森県新田部市。
青森市のベッドタウンとして急速に発展してきた
この町を訪れたものは、誰もがその匂いに顔をしかめる。
町を歩けば、道端には空き缶が転がり、コンビニの袋に入った
弁当の食べ残しをカラスがつついている。
「ほんの五年前までは、こうではなかった。」
市役所の清掃局員の田所健二さんはそう語る。
五年前は急速な市街化がまだ始まったばかりの頃で、
道端のゴミなどまったく見かけなかったという。
「市長が変わってから、すっかりこの町は変わった。
みんな言ってるよ。田所さんが市長になってから、
町は変わったって。」
元自治省官僚の田所健三氏が住民の圧倒的な支持を受けて
当選したのは四年前の四月だった。
当時、新田部市は青森市のベッドタウンとして
人口は順調に増加していたものの、
娯楽施設もショッピングセンターもまったくなく、
不便な上に街としての個性はまったくない状態に住民は
強い閉塞感を抱いていた。
それを打開する切り札として人々の期待を一身に集めたのが
田所市長である。彼は大型ショッピングセンターや
有名テーマパークなどの誘致活動を積極的に行った。
そして二年前に完成したそれは、町の性格を大きく変えた。
日本中はおろか、世界中の人々がこの街にやってくるようになった。
と、同時に街にはゴミがあふれるようになった。
 新田部ダスター帝国。
そのテーマパークは、「ゴミ」をテーマにしている。
人々の意識の変化とリサイクルの発達により、
今ではほとんど見られなくなったゴミが気軽に見られる
世界で唯一の施設として、世界中の人々の人気を集めている。
中でも「野積みタイヤ」や「ゴミ御殿」などの
人気アトラクションは数時間の行列が出るほどである。
「世界中の人々はゴミを楽しみにこられています。
いわばダスター帝国は夢のゴミの国です。
でも、一歩街に出ると清潔な街では夢を壊してしまいます。
電車から降りた瞬間に夢のゴミの国。
それが私達の目標です。」
田所市長は人気マスコットの
ダスター総統のぬいぐるみをなでながらそう語ってくれた。
清掃局員は街のイメージを守るために、朝早くから町中に
ゴミをまきちらす。街角のスプリンクラーからは
シャネル社に特注した香水が噴霧される。
「なにもかも昔見た景色のようだね。
最近はゴミなんてまったく見られないからね。
私は若い頃大阪に留学していたが、そのときと同じ香りがする。」
ザイールからやってきた会社員、田所健一さんは懐かしそうにそう語った。
世界的なゴミの町として脚光を浴びる新田部市。
だが、この街の光景はかつてはどこの街でも見られたものだ。
しかし、今ではこの街でしかゴミを見られない。
リサイクル社会とひきかえに街角のゴミは消えていった。
かつてのように駅前に散乱していたゴミはどこへ行ったのだろう。
私達の社会は、どこかで間違ってしまったのではないだろうか。


メディア戦争

12月6日(共同=東京)
帝都日日新聞、紛争勃発

昨日未明、帝都日日新聞社(長代頼安社主・本社東京)の発行する新聞、
帝都日日新聞の最終面において、社会面が四コマ漫画欄に不法侵攻した。
現地報道によると、同社会面は日銀公定歩合引き下げの記事を報道するにあたり、
同紙の四コマ漫画勢力「ノブちゃん」が実効支配する四コマ漫画欄の四コマ目地域の
およそ一.二五平方pの領域に記事の終端部分およそ11文字を
四コマ漫画欄に無断で侵攻させた。

「ノブちゃん」支配地域の四コマ目に侵攻する社会面=写真

社会面側会見要旨
(橋爪大次郎・帝都日日新聞社会面代表=同紙東京本社)
「四コマ漫画欄の独立を侵害する意向はない。
しかし、日銀の公定歩合引き下げは国民にあたえる影響が甚だ大きなものであり、
それを正確に報道することが新聞の第一義である。
文字数を削ることによって正確な記事ができなければ新聞全体の存立に関わる。
そのためには娯楽欄である四コマ漫画欄の少々の犠牲はやむをえない。」と発表した。

帝都日日新聞四コマ漫画勢力「ノブちゃん」側会見要旨
(マサオさん・「ノブちゃん」報道官=同四コマ二コマ目)

「四コマ漫画欄は見た目は社会面の一スペースに存在するが、
社会面の一部ではなく独立した存在である。
たとえ社会面にどんな事情があろうと四コマ漫画欄の独立は維持されるべきである。
しかも起承転結を建欄の精神とする四コマ漫画欄において「結」にあたる四コマ目地域は
最も重要な聖地であり、外部記事はけっして侵してはならない地域である。
社会面は同地域からの即時撤退と、我々の要求する条件での
謝罪を全読者に向けて行うべきである。」
と強い調子で社会面に対する抗議の記者会見を開いた。
なお、四コマ漫画勢力「ノブちゃん」の社会面に対する要求は
12月7日の同紙の四コマ漫画の3コマ目地域で発表される見通しである。

 

12月7日(共同=東京)

「ノブちゃん」、社会面に最後通告。社会面は無視。

四コマ漫画勢力「ノブちゃん」の実効支配する
帝都日日新聞四コマ漫画欄に同紙の社会面が不法侵攻した事件で、
四コマ漫画勢力「ノブちゃん」の社会面に対する最後通告が
同四コマ漫画欄の3コマ目地域において発表された。

最後通告を発表するノブちゃん陸海統合参謀本部議長=写真

これによると「ノブちゃん」側は48時間以内に発行される同紙の社会面全面で
「ノブちゃん」に対する謝罪記事の掲載を要求、もしこれが達成されない場合は
あらゆる手段をとると警告した。
これに対する社会面側の反応はまだ伝わっていないが、
同社会面に近いテレビ面筋の情報によると、
社会面側では「ノブちゃん」側の要求には一切応じない方針をすでに固めているという。

 

12月8日(ロイター=ソルトレークシティ)

社会面、四コマ漫画欄に本格侵攻、すでに領域の半分以上の地域を支配

昨日未明、帝都日日新聞社会面は
「社会面全面に渡る謝罪要求など不法な要求をする、
ならず者四コマ漫画勢力より四コマ漫画欄を解放する」
として、四コマ漫画欄に本格侵攻を開始した。
この侵攻により「ノブちゃん」側は四コマ漫画欄の半分以上の
地域からの撤退を余儀なくされ、四コマ漫画欄の維持も困難になったと見られる。
社会面側の発表によると「ノブちゃん」のいかなる形での存在をも認めないとしており、
この戦闘は「ノブちゃん」の壊滅まで続く見通しである。

社会面に占領された四コマ漫画欄=写真

社会面側発表要旨
(社会面・芹沢梶男報道官=最終面社会面一から五段)

「「ノブちゃん」は本来四コマ漫画欄の読者の
希求する「ほのぼの」から逸脱する行為が多く、
帝都日日新聞全体の安全を乱してきた。
また、社会面全面を謝罪広告に要求するなど、
新聞のおまけとしての自覚がない。
このような勢力は駆逐されねばならないし、
類似した勢力も存立してはならない。
我々社会面はこの戦闘を一刻も早く終結させ、
戦後には本来の四コマ漫画欄の読者の望む
「ほのぼの」四コマ漫画の樹立に努めるつもりである。」

「ノブちゃん」側記者会見要旨
(ノブちゃん・ノブちゃん陸海統合参謀本部議長=2コマ目)

「社会面側の侵略行為は明らかであり、
四コマ漫画を軽視し、その独立を破壊する意図が明らかになった。
われわれ「ノブちゃん」は社会面の不当な攻撃から
四コマ漫画欄の安全を守り、
奪われた領域を奪回するまで戦闘を続ける。」

 

12月18日(タス=ユジノサハリンスク)
ノブちゃん、大規模反攻

戦闘の続いている帝都日日新聞最終面において昨日未明、
ノブちゃんが大規模な反攻に転じ、
最終面の要衝である死亡欄など、
社会面の領土であった最終面のおよそ半分の地域を制圧し、
戦況は一気に逆転した。

陥落の報に歓喜するノブちゃんの兵士=(写真)


ノブちゃん側記者会見要旨
(ノブちゃん・ノブちゃん陸海統合参謀本部議長=死亡欄)

「最終面の最重要拠点である死亡欄の陥落により、
もはや社会面の戦争遂行能力は無くなった。
今後、社会面のとるべき方策は一刻も早い講和条約の締結しかない。
講和を考えずいたずらに無駄な戦闘を繰り返すというのなら、
社会面全面が死亡欄のようになるであろう。」

社会面側発表要旨
(芹沢菓子男・社会面報道官代理=35面社会面一段)

「死亡欄は前線に近く、ふざけた四コマ漫画勢力の近隣では
不謹慎と取られるおそれが出てきたためにスポーツ欄方面に転進したまでである。
まだ戦闘が終わったわけではない。
ノブちゃんの侵攻は一時的なもので、我々はそれに対抗する戦力は十分にある。
講和を考える段階ではない。」

軍事アナリスト関川関男氏の分析

「社会面側のおまけ発言に新聞各面のコラムや
第二面の一コマ時評が相当の反感を持ち、
裏ルートでノブちゃんに資金や兵器などの援助をしてきたことが
今回の大規模な反攻を可能にした要因であろう。
なかでも新規投入された兵器「ぎゃふん」にたいして
社会面側は防御する手段をまったくもてないまま
退却を繰り返しているという。
死亡欄の陥落により他の面よりの和平交渉の働きかけが
活発になることは間違いないが、
社会面側が和平交渉を受け入れるにはまだまだ時間がかかるだろう。」


12月20日(新華社=南京)

四・社講和条約締結

12日に渡って帝都日日新聞最終面で行われてきた
四コマ漫画欄と社会面の講和条約が
このほど、第三面・読者の声欄で締結された。
戦闘が四コマ漫画側に有利に展開し、
社会面の壊滅を恐れたテレビ面やスポーツ面の調停が効を奏した形である。
講和条約の骨子は次の通り。


1.社会面は四コマ漫画欄の独立を尊重し、「ノブちゃん」を
四コマ漫画欄における唯一の正統四コマ漫画として認める。
2.社会面は四コマ漫画欄に賠償として二万三千字を支払い、
紙面二百平方cmを割譲する。
3.四コマ漫画欄は講和条約の条項が完全に達成されるまで
別紙に定めた社会面の拠点を占領する。
4.四コマ漫画欄は十年以内に「ぎゃふん」を全面廃棄する。
5.四コマ漫画欄は「ほのぼの」を実現させるため努力する。

平和を喜ぶ四コマ漫画欄と社会面の市民=(写真)

読者の声

戦争の終結はたいへん喜ばしいことだが、
四コマ漫画欄が武力で勝ち取った紙面にそのまま居座るのは
反戦を訴える帝都日日新聞の姿勢に疑念を持たせる危険性は無いか。
また、多額の賠償文字を獲得した四コマ漫画欄が
ゴルゴ13第一巻のように文字だらけになるおそれはないか。
危惧はつのるばかりである。  
そんな最終面の今後に読者の声欄は何ができるだろうか。
それを我々は考えなければならない。
(東京都・24歳・無職手伝い)

 


おわびの平原

11月24日付本紙記事「きょうの人」欄で紹介された
江島秀人さんは、人ではありませんでした。
訂正の上、江島さん並びに関係者の方々に深くお詫びいたします。


 

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