開催期間 2002.5.18-5.25
第23回嘘競演テーマは「転ぶ
やま議長
暇人


バナナの皮ですべって転ばなかった人100人にききました。

バナナの皮ですべって転ばなかった人100人にききました。
すべらずにどうやって転んだのですか?


つまづいて転んだ …28人
後ろで大爆発が起こった …12人
足の筋肉がバナナの皮に近づくと弱まるしくみになっていた …14人
バナナの皮をふみそうになった自分に罰をあたえるため …5人

もう60年ほど昔になりますか、その頃私は戦後のどさくさの中で
食うのもやっとという日々を送っておりました。
日々の重い労働から帰ると、腹をすかした子供と妻が待っている。
私はそんなつらい日々にもう嫌気がさしておりました。
 そんなある日、私は駅前の外食券食堂でこんな話を聞きました。
「南洋からの引揚者で、バナナ大尽という大金持ちがいるらしい。
その大尽は南洋がらみの仕事をする人を探しており、
とんでもない給料を払ってくれるそうだ。」
私はわらをもすがる気持ちでそのバナナ大尽のところへ向かいました。
徴兵されるまで私は南洋からの缶詰めを売る会社にいたため、
いささか自信はあったのですが。
 バナナ大尽の屋敷は見たことも無いくらい大きく、真っ黄色に
塗りつぶされておりました。戦中であれば真っ先に空襲の標的と
なってもおかしくはありません。それほど目立っていたのです。
案の定、面接の希望者が門前市をなすほど並んでおりました。
先ほどまでの自信も萎えましていささか消沈しておりましたが、
出てくる人間がみな一様に肩を落としております。まだ決まって
はいないのだと安堵もいたしましたが、半面でますます厳しい条
件なのだなあということに気づかされもいたしました。
 ようやく私の番がまわってまいりました。
私は事務員に名前を告げると、大尽の部屋へ案内されました。
屋敷の中はひどく長い廊下と曲がりくねった階段ばかりで、
部屋の扉らしきものは一つとてありませんでした。
そうして20分ほども屋敷の中を歩き回った頃でしょうか、
「よく来てくれた。私が南洋兄弟商事の為村です。」
びっくりしてふり向きますと、そこには中年の、この食糧難の
さなかに丸々と太った男が、バナナをくわえて立っておりました。
ははあ、これがバナナ大尽なのだな、と私が思う間もなく、
バナナ大尽はバナナを手にして私の顔を指しました。。
「うむ、君で決まりだ!採用だ!吉井よ、表の連中に帰ってもらえ!」
「はっ。」
吉井と呼ばれた事務員はもと来た長い長い廊下をゆっくりと
歩いていきました。
「私も長いことこの仕事をしているが、君ほどの適任者は
見たことが無い。まったく世の中は広いもんだ。」
嬉しそうに語るバナナ大尽に、私はまだ名を告げていなかったことを
思い出しました。
「あ、あの私…。」
するとバナナ大尽はうるさそうに手をふり、
「名前なんぞはどうでもいい。さっそく今日から仕事にかかって
もらおう。」
「し、仕事ですか、いったいどんな…。」
「なに、簡単な仕事だ。君はこれから町に出て歩くだけの仕事だ。」
「すると、私はサンドウィッチマンのようなことをすれば
よいのですか?」
「いや、なにもあんな野暮ったい看板なんかはつけんでいい。
歩きつかれたら好きなだけ休みたまえ。天気が悪い日に歩けとも
言わん。君は歩きたい時に歩きたいだけ好きなように歩けばよい。
ただ、一つだけ約束を守ってくれればよい。」
「約束…ですか?」
いぶかる私をじらすかのように、バナナ大尽はバナナをゆっくりと
うまそうに吸い、こう言いました。
「街を歩いている時に、バナナの皮が落ちていたら必ず転びたまえ。
ただし、このことは決して誰にも言ってはならん。それだけだ。」
私は茫然としている間に屋敷を出たらしく、気づくと妻と子供のいる
家に帰っていました。服のポケットには銀行の預金通帳が入っていました。
 それからというもの、私は街を歩いてはバナナの皮に出くわすたびに
転ぶ日々を送ってまいりました。毎月のように銀行口座には莫大な金が
振り込まれております。いったい何のためにこんなことをしているのかは
この年になるまで考えたこともございません。ただ私はバナナの皮で
転ぶ…
バキューーーン!
ぐわっ!!…そ、そんな、バ、バナ……ザー…ガクッ。  …41人


転倒禁止


Like a rolling stone

(作者のコメント)
起承転結と言う四コマ漫画の概念を打ち破るべく、
「転転転転」という形で四コマ漫画を作ってみました。


評… 「転転転転」という形式自体はいがらしみきおや
相原コージなどによってすでに提唱されており、新味は無い。
作者は「転」というのを何か勘違いしている節もあるが
もはやどうでもいいのではないか。
だが、トロロコブはトロコロブではないということだけは
言っておきたい。(仰)


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