私の、現在(2002年5月現在)住んでいる寮は"出る"という事で割と有名な寮だそうだ。
ここに住んで早5年、その間、怪談…と言って良いのか悪いのか、とにかく不思議な事があった。
興味のある方は「新耳袋」という本の「学生寮の住人」という項に載っているので見てみるのもいいかもしれない。
また、かつて私と同じくこの寮に住んでいた友人のTAKUMA氏のHPの怪談コンテンツに彼の体験談があるので、そちらを見てみるのもいいだろう。
ちなみにTAKUMA氏は「新耳袋 五夜(五巻)」の「続・学生寮の住人」の話のT君と同一人物で、その話の「窓の外を横切る白いもの」を見た友人が私。ついでに言うと窓に新聞紙貼ってた友人二人のうちの一人でもある。(これはこの寮の前に住んでた寮の話)

その辺りの話は「新耳袋」やTAKUMA氏のHPに掲載されているので、ここでは現時点でそれらに載っていないものや、この寮以外で私が体験した事をを書いていこうと思う。

なお、これらは全て私が実際に体験した事である。
記憶を頼りに書いているので、実際の行動・時間などとは多少のズレが有るかもしれないが内容は事実である。
また、この文章を読んだことにより貴方の身辺に何かが起こっても、当方は一切責任を持たないことをあらかじめ御了承頂きたい。
怪談は、書く側は勿論だが、読む側にも覚悟がいるものなのだ、ということを知っておいて欲しい。


『〜手〜』
ある友人の部屋での出来事。
同期の友人は、卒業して寮を出て行った。
が、ある友人は事情により卒業後もこの寮に一年間住んでいた。
(私といえば、留年してしまいいまだこの寮に住んでいる。)
その友人も、一年が経ち寮を出ることになった。
寮を出るまでの一ヶ月は、引越しの準備があったり、友人の彼女(?(遠距離)が泊まりに来ていたりと友人にとっても濃い一ヶ月だったと思う。
そんなある日のことだった。
その友人の部屋で、友人とその彼女と私の三人(もう一人知り合いがいたかもしれない)に集まってたわいも無い話をしたりビデオをみたりしていた。
意味も無い馬鹿話や学生生活の思い出などを話しただろうか。
その中で「この部屋には"出る"」という話もしたかもしれない。
…が、本当に"出て"、それを見るとは思っていなかった。
……
その部屋は、私の部屋と同じく、お世辞にも「片付いている」とは言いがたい部屋で、友人と彼女はベッドの上に座り、私は床に座っていた。
たぶん、テレビを見ていた時の事だと思う。
私の視界の下の方で何かが動いた。
気のせいだと思った。
もしくはテレビの映像(光)が眼鏡に反射した事による錯覚だと思った。
ちょうど私の横には赤外線ストーブがあり、そのストーブの反射鏡にテレビの光が当って、それが更に私の眼鏡に反射投影されたのだと…。
やがてテレビも見終わり、馬鹿話へと移行した。
私は
「そう言えば、さっきさぁ、見えたよ」
と、場を盛り上げる意味で切り出した。
案の定
「おいおい、マジか」
みたいな感じで話は進んでいった。
勿論、フォローとして
「光の反射とかでそう見えた」
と言う風には言っておいたが、そのすぐ後に"それ"が光の反射などではなかったことに気付く。
またも視界の中に動くものが見えたのだ。
テレビの画面には何も映っていない。
この時、初めて"ゾクッ"とした。
…この部屋にはネズミがいて、そのネズミが正体だった…といえばオチがつくのだが、そうではなかった。
この部屋には、確かにネズミがいたが"ソレ"は断じてネズミではなかった。
形容するなら…『手』だった。
床から『手』が生えていて、それがゆらりと動いた…と、私にはそう見えた。
その状態を形容するなら「風呂でジョーズごっこをして水面から上方向に手を半分だした状態」とでも言うのだろうか。

一応言っておくが、それは常に現れていたわけでは無い。
なので、まだこの時点では、錯覚であるという気持ちが半分くらいあった。
…と、その時、三度"ソレ"が視界の中に動いた。
今回は床の一点でゆらりとではなく、横にあったコンビニのビニール袋の表面を、まるで生き物のように、まるで撫でるように動いた。
この時点で、コレはネズミでは無いと確信した。
そして錯覚でもないと…。
もしネズミだったなら音がするはずである、微かにビニールに触れただけでも音がするはずである。
音はしていなかった。
また、同じ場所に同じように見えたのなら、その条件下での光のイタズラによる錯覚だと思えたのだが、前とは完全に異なる異様な動きを見せたのだ。

結局、それを最後に『手』は現れる事は無かった。

"ソレ"を見たのは私だけ(友人達には死角に当る場所だった)なので「錯覚だ」といわれればそうなのかもしれない。
けれど、私には見えた。

その『手』が何のために現れて、何を伝えようとしていたのかなど全く解らない。
ただ、見た感じ、ゾクッとはしたものの、"ソレ"に害意があったとは感じられなかったと思う。


…この文章を書いていて思い出した事を書き加えておく。

前に、この部屋に遊びにきていたとき服の裾を引っ張られるような事が何度かあった。
前述した通りこの部屋は片付いた部屋ではなかったので、私は大体立って話をしたりしていた。
部屋には私と友人しかおらず、私のすぐ後ろにあるドアはしまっている。
そんな時に、後ろからシャツの裾を「ツィ」と引っ張られる事がよくあった。
前方にいる友人には不可能な事であり、後ろのドアはしまっている。
第一、私の背中とドアまで、人が存在できるような距離は無かった。
この事を友人に話したら、友人の知り合いも同じような体験をしたらしい、と話してくれた。
単なる気のせいか、それとも"何か"がそこにいたのかは解らないが、そういう事があったのは事実である。
これが、私の見た『手』に関係しているのかどうなのか解らない。
ただ、そういうことが起きた、そういうことがあった、という事は気のせいだろうと、錯覚であろうと、とにかく事実である。
それがこの部屋の、そしてこの寮の「よくある事」なのである。


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