今回の話は前に住んでいた寮での出来事である。

なお、これらは全て私が実際に体験した事である。
記憶を頼りに書いているので、実際の行動・時間などとは多少のズレが有るかもしれないが内容は事実である。
また、この文章を読んだことにより貴方の身辺に何かが起こっても、当方は一切責任を持たないことをあらかじめ御了承頂きたい。
怪談は、書く側は勿論だが、読む側にも覚悟がいるものなのだ、ということを知っておいて欲しい。



『〜とある寮〜』

前に住んでいた寮と今の寮は経営者(大家)が同じで、その縁で今の寮に引っ越してきたとも言えなくも無い。
引っ越した理由は色々あるわけだが、これから書く事もその理由の一つである。

この寮でも私は不思議な出来事をいくつか体験している。


その壱
『〜新聞紙〜』

この話は「新耳袋」という本の中に載っている話なのだが、ここでは私の体験に基づいて書く。
私の部屋は一階で、すぐ裏には割と大きな工場があった。

さて、大学生活、初めての一人暮らし、という新しい環境。
部屋の様子も自分の思い通りである。
冷蔵庫はここ、テレビはここ、洋服掛けはこの場所…と荷物を配置して自分の思うように自分の空間を作っていった。
ただ、その中で、おかしな事があった。
いや、自分でした事なので、おかしな事をした、と言った方が正しい。
窓に新聞紙を貼ったのだ。
カーテン代わりに…と、思うかもしれないが、実家から出てくるときにちゃんとカーテンも買って持ってきている。
むしろ新聞紙を窓に貼った上で、さらにカーテンをつけていた。
何か「見られてしまう」…「見られる」という意識があったと記憶している。
確かに、すぐ裏が工場とはいえ、間には人の通れるスペースがあったし、何より一階だったので防犯という気持ちもあったのだと思う。
だがそれ以上に、何か「見られる」ということに対して、窓に映る何かに対しての恐怖があったのだ。

その後一年して私は今の寮に引っ越した。
そして友人から「新耳袋 第一夜(一巻)」を貸してもらった。
最初は「この辺りの怪談が載っている」「今住んでいる寮の話が載っているらしい」という事で読んでいたのだが…。
その中に、窓に新聞紙を貼る話があった。
(詳しくは書かないので知りたい人はゼヒ自身の目で読んでみて欲しい)
正直、読んで鳥肌が立った。


「新耳袋 第五夜(五巻)」にて<そんな人を、T君はふたりほど知っていた>と書いてある内の一人が私なのだが、私は当時、その話を知らなかったし、先輩から忠告も受けていない。
「このおまじないは…」と先輩から聞いたのは、私では無いほうの友人で、私の場合は「何となく」ではあるが何故か「そうしなければならない」という気持ちで貼った。
「第一夜」に載っていた話の部屋と私の住んでいた部屋が同じとは限らない(というか、思いたくない)が、もし新聞紙を貼っていなかったら…と思うとゾッとする。


その弐
『〜傷〜』

ある日、目が覚めて布団の中で寝返りをうつと、背中に微かだが痛みを感じた。
おかしいなと思い、鏡を使って背中を見てみると、大きな引っ掻き傷のような物が何本もあった。
これだけなら、夜中に寝ている間に知らず知らずの内に掻いたんだろうと思うが、問題はその傷がどうやっても自分で手の届かない場所にあったという事だ。
例えばそれが「恋人につけられた〜」とかだったら色気のある話でオチもつくのかもしれないが、一人寝の寂しい夜を過ごす身の私にはあるはずも無い話。
また、服の中に小さい石などが入って出来たとも考えられない傷だった。
友人に「背中掻いてくれ」などと言ったことも無い。
結局、何日かして、その内に傷は消え、それ以降そういった事はなかったが、不可解な出来事だった。


その参
『〜窓〜』

この話は私が体験したわけでは無い。
ただ、それを見て「おかしいな…」と思った事である。

大学生活初めての夏休み、私は実家に帰って過ごしていた。
その間、免許を取るために自動車学校に行っていたので、結局、寮に戻ったのは夏休み明けの直前だった。
寮に帰って、驚いた事があった。
10人以上いたであろう新入生が、この休みの間に、半数以上が引っ越していたのだ。
思えば2回生(すぐ上の学年)の先輩は入った当初一人しかいなかったので、この寮ではまぁ当たり前の事だったのだろう。

ある日、近くのコンビニで夕食を買って帰っている時、寮を見上げると、三階(最上階)の一番端の部屋の窓が開いていた。
(ちなみに、その部屋は私の部屋と同じく工場側にある部屋)
夜だったが電気はついておらず、開いた窓から見える部屋の中にはまるきり生活感は無かった。
それもそのはず、その部屋は夏の間に引っ越した新入生の一人が住んでいた部屋で、当時は無人だったからだ。
…が、その時は特に疑問などもたなかった。
ただ、それから何日たっても窓は開いたままだった。
少しおかしいな、と思った。
試しにその部屋に行ってみたが、案の定鍵はかかっている。
…この寮の大家さんは、まぁ何というか何かにつけていちいちとうるさい人で、私が入寮当初、部屋に備え付けの机というか棚というか…まぁそういうものがペンキでネトネトベタベタだったので仕方なく新聞紙をひいていたら退寮時に剥がれなくなっていて、その事でグチグチと言われた事がある。
つまりが寮の事に関しては細かい人だった。
そんな人が窓を開けっ放しで放って置くだろうか。
寮生が退寮したときには、掃除をして、部屋の壁などに傷が無いか確認しているはずである。
三階の端の部屋だ、風や雨も吹き込むし、鳥が入って部屋の中を汚すかもしれない。
おそらくは単なる閉め忘れなのであろうが、私にはあの大家さんがそういうミスをするとは考えにくい。
…しかし、今考えてみると、残っていた寮生のほとんどが、あの窓が開いていた事を知っていたはずである。
だが、誰も(私を含め)その事を大家さんに言わなかったのは何故だろうか。
むしろ、大家さん自身も気付いていて良いはずである。

結局、私が引っ越した時も窓は開いていたままだった。

"何か"が入っていたのだろうか。



〜〜〜
以上の三つが前の寮にいたときの私が見た・体験した「私が不思議に思った事」。
今となっては当時を知る友人達も皆卒業していると思うので、当時の友人達が何か知っていたのかどうなのかは今となっては解らない。
私が住んでいた部屋に今誰が住んでいるのか、あの窓の開いていた部屋に今誰が住んでいるのか…。

…思えば、何故半年も経たないうちに新入生の半数以上が寮を出ていったのか。
理由は色々あったと思う。
大家さんと寮生の意見の対立もあった。
裏が工場で、騒音が酷かったということもある。
あの寮自体に対する学生の間での評判も、あまりいいものではなかったとも聞いた。
寮生間、例えば先輩等との関係が悪かったという人もいたかもしれない。
しかし…はたしてそれだけなのだろうか。
少なくとも私があの寮を出た理由の一つには「自分では理解できない事が起きた」というのがある。
それは紛れも無い事実であると言える。


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