いずみの過去その2

●多摩湖周辺での1つき

「この子を連れて行こう。」12歳のいずみは4歳のしんやと出会っ た瞬間に決めた。

そう決意したいずみは、ニコリと微笑むしんやにコンビニからくす ねた「ヤマザキのアンパン」を分け与えた。それから3日ほどは、し んやがうづくまっていた軒下の近くにあったかろうじて家の原型を とどめた場所で2人で過ごした。
出会った日の夜、いずみはしんやに聞いた。
「お父さんやお母さんは?」
「パパは死んじゃったってママ言ってた。ママとは昨日まで一緒だっ たけど、ママいなくなっちゃった。でもおねーちゃんがいるからい いや」

「じゃあ、おねーちゃんと一緒にいようか?」
「うん。うれしいなぁ」
いずみの質問に笑顔で答えるしんやであった。

出会って4日目、ついに「ヤマザキ」のパンがなくなってしまった。 二人が過ごしている「家」の中には着るものは沢山あったが、食料 はない。禍が発生した事による「寒さ」は凌げるが、食べ物がなけ れば生きてはいけない。だが幸いな事に二人が出会った場所はいわ ゆる新興住宅街で、近くには湖があった。ガイアに来てから知った ことであったが、「多摩湖」「狭山湖」であった。水は汲んでくれ ばいいし、食料・保存の利く米は近所のかつて「家」だったものの 中にある程度残っていた。
都市ガスではなくプロパンガスだったために、二人が過ごしていた 「家」のガスコンロは使えた。米はそれで炊いていた。

出会って2週間ほどはその近所には誰もおらず、2人きりであったが 禍の生き残りの人々がそのうち集まるようになってきていた。当然 近所に残っていた米をはじめとした食料はどんどんなくなっていき、 4週目を過ぎた頃には餓死する人もいた。

米もつきてしまい、「姉弟」は1月あまり過ごした家を出て行かざる を得なかった。


●さまよい、モラルの崩壊した場所へ

湖周辺をさまよう2人。湖の向こう側に見える半分にひしゃげた観覧 車をなんとなく見つめる2人。3日ほど、ついこの間まで住んでいた 「家」の近くで見つけた缶詰1個と湖の水で過ごした2人であったが 缶詰のみかんも最後の一粒がなくなり、動く気力を無くしていた。

さらに3日ほど、水だけで過ごした「姉弟」は最後の気力を振り絞っ て立ちあがった。湖近くの森の中にさまよいこんだ2人は数時間後、 何かを煮る匂いを嗅ぎつけた。その匂いの元へ近づいた2人は、大 きめの鍋とそれを取り囲む5人ほどの大人の男性を見つけた。
身なりはなんとなく汚れてほつれてはいるものの、ネクタイは無い がスーツ姿。いずみが覚えているその姿の男性は優しかった父親。 父親は「人前に出る仕事をしているから、背広を着ている」といっ ていたのも、その時思い出した。

久しぶりに見た人の姿とスーツ姿に気を許したいずみは、少しでい いから鍋の中身をわけてもらおうと思い、その男たちに声をかけた。 いずみは顔は12歳そのものの顔をしているが、早くから男たちの相 手をさせられていた事もあろうか、胸は並の大人の女性より大きく、 体つきも少女というよりは丸みを帯びていた。
ほぼ1月ほど、中にはそれ以上の者もいたであろうが、男たちは「飢 え」ていた。いずみを見た瞬間、5人が5人とも目つきが変わり、い ずみを襲った。服を即座に剥ぎ取られ、下着を引き千切られ、押さ えつけられたいずみは、最初こそ抵抗したが5人の男の力には勝てず、 されるがままにされた。上下の口を塞がれ、5人にかわるがわる犯さ れるいずみ。1時間ほど愉しんだ男たちはいずみの体をを白濁した液 で汚し、その場を去っていった。

さらに1時間ほど、呆然と空を見つめるだけのいずみであったが、よ うやく近くで横たわるしんやに気がついた。どうやら男たちに跳ね 飛ばされたらしく、気を失っていたしんやのほほを叩いた。程なく しんやは目を覚ました。男たちはいずみを玩ぶのに精一杯だったの か、鍋の中身は全て残っていた。裸のままのいずみと目を覚ました ばかりのしんやはその鍋に飛びついた。


●モラルの壊れた森での生活

はっきりと男に対して「嫌悪感」を抱いたいずみであったが、逆に 男に対し自分の体を使う事で生きる術を知ったのである。それから は自らの体を男に差し出す事と、他人が得た食料を盗む事で生きて いった。きしだしんやがすばしっこくなったのもこの生活の為であ る。

1年ほど経つ頃、森の中にも力の差が生まれていた。数十人がその森 で取れる動植物で過ごすようになり、その縄張り争いが、得に男た ちの間で起きるようになった。最終的には力の強かった25歳ほどの 若者がその頂点に立った。
数々の男と交わっていくうちに更に「色気」がついてきたいずみを その若者が見逃すはずが無く、いずみは占有物になった。もちろん いずみは若者に好感を持ったわけではない。むしろ嫌悪感を抱いて いた。ただ今までの男たちと違い、彼はいずみに対して快感を与え ていた。いずみは彼との行為自体は嫌ではなかった。むしろ求めて いた部分もある。嫌悪感と快感、相反する感覚がいずみを精神的に 苦しめた。ねぐらで待つしんやの笑顔、自分と寄り添って寝る時の しんやの寝顔がその苦しみを和らげていた。

2年ほど経った頃、しんやも体を売って食料を得ることを覚えた。今 でもしんやの事がわからなくなることがままあるが、しんやは体を 売ることを楽しんでいた。見た目がかわいいしんやは幼児マニアに はたまらないものだったらしく、男女に玩ばれていたようだ。一緒 に風呂に入ることがあったが、性器だけが大きさこそそれほどでも ないが、発達している姿を見る度複雑になってしまっていた。
ただ、それでもこの自由があり、しんやの笑顔が見られる。
「禍が起きて本当に良かった」思わず口を突いて出てきた言葉で あった。
いずみ15歳、しんや7歳の頃であった。

乱交がはびこり、暴力と盗みが横行する森の中での生活が4年ほど続 いた頃の事であった。


●突然の森の生活終焉。そして練馬へ。

更に1年ほどの時間が経った頃の夜、いずみは若者に呼び出され、 体を快感に委ねていた。激しく後ろから突かれ快感に浸っていたい ずみ。彼の動きが止まった。果てたのかと思い、後ろを振り返った 時に見たものは、首筋から血を流す彼と後ろで無気味に笑う、彼の もう一人の相手であった。彼女は最近若者がいずみばかりを相手す る事に嫉妬していたのであった。身の危険を感じたいずみはその場 を逃げ、寝ていたしんやを叩き起こし、一目散にその森を逃げだし た。ひとまず、湖の近くで落ちついた2人は数日間、そこで過ごし た。

持って来れるだけの食料を持ち歩いていたので食料には困らなかっ たが、梅雨を凌ぐ場所に困っていた「姉弟」は丸2日ほど歩いた頃、 旧練馬の農業地帯にたどりついた。
雨を凌ぐためにとある家を尋ねた所、出てきたのは優しい顔をした 老婆であった。老婆は快く「姉弟」を泊めたのであった。

泊めてくれたお礼にと、「姉弟」が老婆の手伝いをしたことがきっ かけで3人の生活が始まった。いずみにとって始めての「自由でかつ 幸せ」な生活の始まりであった。嫌悪感と快感の間も苦しむ事はな く、かわいい「弟」の笑顔とやさしい「おばあちゃん」の手料理が ある暮らしがいずみには嬉しかった。

「おばあちゃん」に芋や大根、トマトやナスの作り方を習い、3人 で楽しく暮らす時間がずっと続けば…。いずみはそう思っていた。 たが年を越して半年を越えた頃、前日まで元気に働いていたおばあ ちゃんは布団で寝たまま目を覚まさなかった。
途方にくれる「姉弟」は、おばあちゃんの遺体を彼女が愛した畑に 連れて行く事にした。3人で耕した畑で遺体にただ、寄り添うだけ のいずみとしんや。その2人に制服姿のFOEが近づいてきた。
老婆の遺体に気づいたFOEは、まず2人に話を聞き、検死をし、事件 性がないことを無線電話で本部に報告した後、2人の希望通り、畑 に遺体を手厚く埋葬した。そしていずみにガイアの制度を説明し、 いずみはガイアの中心である「旧新宿」に行くことを決めた。
準備をした後、FOEと供に「旧練馬」を後にした「姉弟」であった。


●ガイアでの生活

17歳になっていたいずみは働く事になった。ガイア政府から割り当 てられた仕事は「旧高田馬場」にある印刷工場での雑用の仕事であ る。近くの長屋に住居を割り当てられ、6畳とキッチンがついた部 屋で「姉弟」2人で暮らす事になった。10歳になろうとしていたし んやはシニア高田馬場に通う事になった。

単純な仕事だが、いずみには楽しくて仕方がない。セックスから開 放され、悩む事もない。因みに若者が殺された夜から現在まで、い ずみはセックスをしていない。相手がいないし、ガイアに来たばか りの頃は性病にかかっていた事もあったが、体を売ることでなく、 働いて生きている事が単純に嬉しいからだ。しんやもフォーチュン に入学した事で手にかからなくなりそれは少し寂しい事ではあった が、ちょっとだけおしゃれすることを休みの日の楽しみにしている。

印刷工場でもいずみの美貌に言い寄ってくる男が多く、男はセック スばかりと男性不信になっていたいずみにもやっと好意を寄せる男 性が出来た。舟津剛という男性はフォーチュンの出身者で、印刷機 や工場のシステム全般の整備、改良を請け負っている男性である。 しかし、工場の責任ある地位についていることを鼻にかけることな い気さくな人物で、工場の昼休みにいずみが字を覚えるため、漢字 のテキストを読んでいた時に彼が声をかけてきた事がきっかけで、 付き合うようになった。

シニア時代の彼女との間に問題を起した事もあったしんやも既に結 婚し、自分の事だけを考える余裕がいずみに初めてできた。舟津と の今後や生きてはいないかもしれないが、姉・泰代がどうなったの か。出来れば姉のことが知りたいいずみは、舟津のプロポーズを受 けはしたが結婚自体は待ってもらっている。
9月で23歳になるいずみは、訪れようとしている幸せに浸りたいとい う気持ちと同時に、優しかった姉の行方を知りたいという気持ちに 揺れていた。



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