詩集 ピクニック

あとがき

 それは、とある九月の日曜日のことだった。
 ピクニックを楽しんだわたしたちは、大粒の雨とかすかな雷の音に追われて、シェへラザードの敷物をたたみ、公園をあとにした。雷雨は急速に強くなって、たまらず道沿いの樅の林に逃げこんだ。すでに土砂降りで、すぐ下の川は一気に増水した。人々は小さな橋を渡れず、土手で立ち往生していた。稲光のたびに、林の中は真っ青に輝いては翳った。
 そのうちに木々は、広げた梢から雨をシャワーのように降らし始めた。見上げるとはるかに高い灰青色の葉むらから、真っ白なしぶきになって落ちてくる。わたしは顔で雨を受けて、ああ、rain tree!とさけんだ。
 雨はたちまちわたしたちをずぶぬれにした。髪から水がしたたって背中までしみとおり、手足が急速に冷えていく。わたしたちは手を取り合ってかじかんだ指を温めようとした。頬はひどく冷たいのに、喉のあたりが熱かった。
 それはどのくらいの時間だったのか。雷が遠ざかり、濁流に光が差した。気がつくともう雨は上がっていた。川の水かさはみるまに低くなった。道に下りて歩きだすと、明るい虹が出ていた。あたりの木々はまだ水をしたたらせて震えているのに。
 2000年夏     関 富士子