ヒソクロ・プロローグ
殺した男の懐から、血のこびり付いた携帯を探り出した。
メモリから[団長]の名前を見つけ、コールする。
『俺だ。どうした』
数回の呼び出し音の後、声が聞こえた。
意外に若い。
「あなたが、幻影旅団の団長サンだね?」
『………………。誰だ』
「入団希望者だよ。この携帯の持ち主を倒したんだ。これで入団できるんだよね」
『………………………』
返事はなく、しばらく沈黙が流れる。
「もしもし?」
ヒソカは相手の沈黙に少し不安になって声をかけた。
『………おまえ、今どこにいる』
「え」
いきなり言われて、周囲を見渡した。
「P国T市の側の森の中で」
『じゃあ、すぐ近くだな。今から言うところに来い』
少し早口で言う。
「わかったよ。そうだ、倒した証拠に、この携帯の持ち主の首でも持っていこうか」
『必要ない』
そのままプツッと電話は切れた。
数時間後、ヒソカは指定された廃墟のビルに入った。
朽ちかけた階段を上り、ギギ、と重い扉を開く。
正面に、古びた椅子に座った黒衣の人を見つけた。
「………………………」
思わずまじまじとその人を見つめる。
黒髪をオールバックにし、額には意味有り気な文様。
ヒソカの目を釘付けにしたのは、何より大きな黒い瞳をたたえた端整なその顔で、まるで少女のようだった。
「おまえか。入団希望者は」
「そうだけど。えっと………団長は」
「俺に決まってるだろ」
少し眉を顰めて言う。
「あなたが?! 団長? 幻影旅団の?」
滅多に驚いたりしない性格であるはずのヒソカですら、思わず声をあげてしまった。
あの幻影旅団の団長というイメージには、あまりに程遠い風貌。
……女かと思った。とまではさすがに思わないが、それにしても。
コートのポケットに手を入れ、軽く脚を組んで座っている「団長」を、改めて見つめた。
「思ってたよりずいぶん若いし、華奢だし…。麗人ってのは、あなたみたいな人をいうんだろうね。こんなに綺麗な人が、あの旅団の団長なんてねえ。世の中、分からないものだね」
「おまえ、名前は。それと一応入団希望の理由を聞こうか」
ヒソカの言葉には全く反応せず、「団長」は口を開いた。
それに応えて軽く自己紹介をする。入団希望理由。まさか団長と闘いたいから、などと言う訳にはいかない。前々から考えていた口上を述べるように語った。
「そりゃあ、天下に悪名の轟き渡った幻影旅団に入りたいのは、当たり前だよ。何より名誉だし、盗みも殺しも――ボクの場合はもっぱら殺しの方だけど、やりたい放題できるからね」
それから、と言いかけたところで、団長はふっと笑みを漏らした。
「? なんだい?」
何かおかしなことを言ったかと、もともと心にも無いことを言っているだけに、少しドキッとした。
「もういい。……俺の名はクロロ=ルシルフル。
けど、おまえ」
笑うと、ますます年若く、少女のように見える。
「口が上手いんだな」
「え?」
「いや、なんでもない。蜘蛛の掟やなんかは、そのうち団員全員と顔合わせしたときに説明する。とりあえず」
クロロが言った途端、クロロの背後の瓦礫から二人、足音も立てずに姿を現した。
「こっちがシャルナークで、こっちがフェイタン。当然、旅団員だ。あとのメンバーはまた今度紹介する」
紹介された二人ともが、疑わしげな、険しい表情でヒソカを見ている。
「………団長がたった一人でいるとは思ってなかったけどね」
それでも不覚にも、二人の存在には気づかなかった。さすが、あの幻影旅団といったところか。
「なんか俺、単独行動すると怒られるんだよな。いろいろ危ないとか何とか」
クロロはちらりとシャルを見ながら愚痴のように言う。
「当たり前だろ。団長になんかあったら、一大事じゃないか」
「その通りね。………それより、ワタシ、こいつ気に食わないね。蜘蛛に入れるの、反対ね。前のNo.4のヤツも嫌いだたけどね」
「そうは言ってもな。もう入団資格得ているわけだから。そう嫌わないで、うまくやれ、フェイタン」
「……団長、俺も反対なんだけどね。………なんか、こう。嘘っぽい感じがして」
「なんだよ、シャルまで」
口々にヒソカを嫌う発言をする二人に、クロロは肩をすくめた。
「そんなに嫌かな? ヒソカ、面白そうなヤツじゃないか」
なあ? と当のヒソカに話をふる。
「ボク、蜘蛛の役に立つと思うよ。腕には自信あるしね」
ヒソカは不敵な笑みを浮かべながら言った。
それに二人は嫌悪感のこもった表情で応える。
「そんな、第一印象だけで嫌うなってば。付き合っていくうちに、実はいいヤツかも知れないだろ。
とにかく、団長の俺が入団を認めたんだから」
なだめるように言うと、二人は、団長がそう言うなら、と不服そうな顔をしつつも従った。
「それで、シャル。前に頼んだ情報は? 集まったか?」
「ああ、うん。アジトに置いてある」
そっか、ありがと、とクロロは言った。
「じゃあ、………えっと、ヒソカ、おまえも来るか? アジトの一つだけど、ついでに案内するよ。といっても、今はこいつら以外に団員はいないけど」
もちろん、とヒソカは嬉しそうに言った。
胡散臭げにシャルとフェイタンに眺められながらも、こうしてヒソカは旅団員の一員となった。
END
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