Good Idea






 クロロがゾルディック家に滞在するようになってから、どれくらいが経っただろうか。
 ある日クロロは、一通のメールを受信した。
 ゾルディック家の執事であるゴトーに「ちょっと出かけてくる」と言い残し、久しぶりにククルー・マウンテンを後にした。




 待ち合わせに指定されていた人通りの多い繁華街にあるホテルの一室に入る。
 もうすでに、メール送信者である人物が先に到着しており、ホテルのルームサービスのコーヒーなどを飲みながらクロロの訪れを迎えた。
「やあ、久しぶりだね、クロロ」
「何か除念師探しに進展があったのか? ヒソカ」
 挨拶もせず、クロロはヒソカの向かいのソファに腰掛ける。
「まあ、とりあえずコーヒーを頼んでくるよ。クロロの分」
 言ってヒソカは一人掛けのソファを立ち、電話をかける。
 やがて戻ってきて再びクロロの向かいに腰掛けた。
「で、進展はあったのか。無いのか」
 クロロは腕を組んで尋ねる。
「あったと言えばあったし、まだと言えばまだなんだけど」
 ヒソカは独特の笑みを浮かべながら応えた。
 なんだそれ、とクロロは顔をしかめる。
「………ゲーム内で旅団員に接触したよ」
 そう言うと、クロロは特に驚いた顔もせず、無表情に戻った。
「ゲーム内でボク、クロロの名前を名乗ってるんだ。それで接触に成功したわけなんだけど」
 ゲーム内に除念師が居ることを伝えた。だから連中も当然除念師探しに専念するだろう。
 だからきっと、思ったより早く除念師が見つかるんじゃないかな、などとヒソカは語った。
 その間中、クロロは無言で聞いていた。
 ヒソカが話し終わり、クロロが口を開こうとした時、ドアがノックされた。
 ルームサービスのコーヒーをヒソカが受け取り、席に戻ってクロロの前のテーブルにカチャリと置く。
 そのコーヒーを一口飲んでから、
「そんな話」
 とクロロは言った。
「メールか電話で充分だろ。わざわざそれくらいの事で呼び出すな」
「そんなつれない言い方しなくても」
「こっちは危険を冒して出てきてるんだぞ。俺がゾルディック家に匿われてるのは知ってるだろ」
 そりゃ知ってるよ、とヒソカは言った。
「あそこ以上に安全な場所はないだろうからね。だから来てもらう場所……ここだけど、ククルー・マウンテンから近いところにしたんじゃないか。ここなら、バス一本で戻れるだろう? それに、これだけ人通りが多いとクロロの危険も少なくなるだろうし。ボクなりに考えてるんだよ?」
 またヒソカ独特の意味有り気な笑みを見せる。
「でも、ある意味あそこはもっとも危険な場所でもあるんだよね。あそこにはシルバもいるし、イルミもいるし?」
「………………………。 おまえに関係ないだろ」
「関係なくは無いよ。本当なら、あの家を頼る前に、ボクに頼って欲しかったな。ボクも偽名で買ったマンションを幾つか持ってるし、そこなら安全なはずなんだよ? いちいちこうしてあなたの事を呼び出したりせずいつでも途中経過を報告できたのに」
「ごめんだな」
 憮然とした表情で言い、来る途中で買った煙草をポケットから取り出し、部屋に準備されていたマッチで火をつけた。
「クロロ、煙草なんて吸うのかい? 知らなかったな」
 ごくたまにな、とクロロは短く応え、ふうっと煙を吐いた。
「――――ねえ、それより、クロロの名前をゲームで使ったのは良いアイディアだろう? そのおかげで蜘蛛の連中と会えたんだから。褒めて欲しいな」
「…………………。 『よくやった』。………これでいいか」
「それだけ? それは無いだろう?」
 片手をジーンズのポケットに突っ込み、もう片方の手で煙草を指で挟みながら、クロロはじろっとヒソカを見た。
 しばらく無言でそうして、やがてむすっとした表情で口を開く。
「………おまえが何でわざわざ俺を呼び出したのか判った」
 忌々しげに言う。
「判ってくれたのなら話が早いな」
 ヒソカは悪びれもせず嬉しそうに応えた。
 さらにヒソカが続けるのを遮るようにクロロは一言言った。
「やだぞ」
「え? どうして」
「おまえとは、成功報酬として除念後の決闘を約束してるだろ。それ以上してやる義理は無い」
「それとこれとは別だと思って欲しいなあ。……クロロだって早く旅団に戻りたいだろう? 仲間と会えなくて寂しいだろうし」
 寂しい? 誰が、とクロロは怪訝な表情を見せた。
「もちろんクロロがだよ」
 まさか、とクロロは煙草を口元に運んだ。
「旅団に早く戻りたいのは確かだけどな。この状態じゃ やりたい仕事もできないし、匿ってもらわなきゃならないしな。
 不便だ」
「不便って………それだけ?」
 他に何があるんだよ、とクロロは煙をふうっと空中に舞わせた。
「不便………不便、ねえ。それだけか。………あなた達が言うところの『鎖野郎』に教えてやりたいセリフだね。あなたに精神的なダメージ与えて復讐したつもりだろうに、どんな顔するか想像がつくよ」
「――――話はそれだけか? 帰るぞ」
 吸いかけの煙草を灰皿に押し付け、立ち上がりかけるクロロを見て、ヒソカも慌てて立ち上がった。
「ちょっと待ってよ」
 本当にドアに向かい掛けたクロロを捕まえ、無理矢理抱きすくめた。
「………放せ」
「クロロ、ちょっと痩せたんじゃないかい? ああ、この匂い。久しぶりだな」
「放せって言ってるだろ」
「いいじゃないか。良いアイディア考えた褒美をくれたって。ねえ?」
 ヒソカの腕を振り解こうとしても、念の無い今の状態では、ヒソカの腕力に勝てるはずも無い。
 クロロはうんざりと溜息をついた。
「――――――今、何時だ」
「え? 時間? ……ええと」
 抱きすくめたままふりかえって時計を見た。
「仕方ないな。それなら、3時間で済ませろよ。帰りのバスが無くなる」
 諦めたように言うクロロに、ヒソカはにんまりと笑った。
「オッケー。言うとおりにするよ。………久しぶりだな、クロロの肌」



「………でも、いざとなったらボクが車でククルー・マウンテンまで送ってあげるからね」
 そんな事を言って、クロロに頭をひっぱたかれた。








  END




 
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 後記:

 念の使えないクロロの、「ヒソクロ」。お約束ですね(笑)  一応、ホテルの部屋はスウィート・ルームを想定してます。
 ヒソカも金持ちのはずだし、スウィート・ルームなら、応接セットみたいなソファなどもあるかな、と思いまして。
 そんなとこ入ったこと無いので(笑)想像ですが。確かテレビで見たどこかのスウィート・ルームにはあった…と思います。
 ていうか普通ありますよね?
 向かい合って話をして欲しかったんです。(大した意味はなし)
 普通のシングル・ルームなんかだと、椅子一つだけだし、そうなると
 一人が椅子に座って、もう一人はベッドかなんかに腰掛けて、ってことになっちゃうなあ、それはやだなあ庶民的過ぎて、と思いましてですね。
 そんなのクロロには似合わん〜、と。
 最初は会う場所は喫茶店かなんかにしようかと思ってたんですが、
 ヒソクロの場合、「そっち」の展開にしたかったので、やっぱホテルの一室がいいな、と。
 思いました。