特別な存在
シルバは、ターゲットが遠くにいる仕事とかで、2週間は帰ってこないという。
クロロは1週間を、ゾルディック家の書庫の本を読み漁ったりして、平和に過ごしていた。
その日も、与えられた個室のベッドにうつ伏せに寝転がり、両肘で上半身を支えてゆっくりと本を読んでいた。
「………イルミ? 仕事終わったのか」
気配も無く訪れた訪問者に、クロロは振り返りもせずそう言った。
「さっき帰ってきたとこだよ。親父があと一週間は居ないって聞いてね。あんた、どうしてるのかと思って」
言いながらクロロのいるベッドに近寄った。
「相変わらず本ばっかり読んでるんだね」
クロロの傍ら、ベッドの縁に座る。
「おまえのとこ、滅多に手に入らないような本が唸ってるんだな。読み甲斐がある」
ぺらりとページをめくる。
イルミはしばらくそんなクロロを眺めていたが、ふと、その背に手をのばした。
一撫でし、クロロのシャツをたくしあげかけた。
「!」
クロロはとっさに振り返り、イルミの手を振り払った。
「イルミ?!」
「………そんなに驚くことないじゃない」
イルミはいつもの無表情で言った。
「親父も当分居ないって言うし、俺が代わりに相手してやろうと思ったんだよ」
「――――――」
「……っていうのは冗談。一度試してみたかったんだよね、あんたの身体。あの親父が気に入ってる身体に興味あるんだ」
クロロはイルミから少しずつ離れ、ゆっくり身体を起こした。
「別に、俺はシルバに」
「気に入られてない、なんて本気で思ってるわけじゃないだろ? あんたと親父、かなり長い間関係してるって話じゃない。あの親父が、たった一人をいつまでも飽きずに特別扱いしてる相手なんてさ。興味出てくるのも当然だろ」
険しい顔でクロロはイルミを見た。
「俺はおまえと寝るつもりはない」
「どうして? 親父とは、ここに来てからもしょっちゅう寝てるんだろ」
「………おまえと寝ても、俺にメリットは無い」
「親父とはあるってこと?」
からかうようにイルミは言う。
「それは、………俺はシルバの便宜でここに匿われているわけだから」
「その前は? あんたが念を封じられる前は、どんなメリットがあったのさ」
「……! ――――――」
イルミは身を乗り出し、クロロの両腕を無理やり掴んだ。
「見返り無しで親父と寝てたんだろ? それに、あんた、今までさんざんたくさんの男と寝てきたって情報もあるんだけどな。何で今更、俺を拒むわけ?」
抵抗しているクロロの腕を難なく引き寄せ、その手の甲に唇を近づけた。
「まさか、親父に気を使ってるってわけじゃないよね?」
手の甲をぺろりと舐める。
「イルミ、嫌だって………!」
「抵抗しても無駄だよ。あんたが念が使えるならともかく、そんな状態じゃあね。
諦めてくれないかな。俺だって、別に強姦したいわけじゃないし」
クロロの身体を引き倒し、両肩をベッドに押さえつけた。
「イルミ………!」
「情けないよね。天下に悪名の轟き渡ったあの幻影旅団の団長さんが、念が使えないだけで、こんなにあっさりと押し倒されちゃうんだから――――――」
言った瞬間、イルミはさっと顔を避けた。
イルミの背後の壁に、黒く太い針のようなものがザクッと突き刺さる。
「………………………」
後ろを振り返り、ゆっくりとクロロの顔に視線を戻した。
「無駄だって、さっきから」
言いかけ、ふとクロロの肩から片手を離して自分の頬に触れた。
微かに、血が流れている。
「――――――――――――」
血を拭い、クロロの黒い瞳を改めて見下ろす。
「………念も無しに、俺に僅かでも血を流させるなんてね。前言撤回するよ。さすが、ってとこかな」
滅多に無表情を崩さないイルミが、口の端で笑った。
「でも、この程度がせいぜいだろ? ………大丈夫、俺は親父みたいにあんたに怪我させるような真似はしないよ。大人しくさえしててくれれば」
ゆっくりとクロロの服に手をのばしたところで、部屋に備え付けられた電話機がリンリンと鳴った。
「?」
内線の、ある番号のランプが灯っている。
あの番号は………。
無表情のままイルミは舌打ちし、クロロの肩を完全に開放した。
クロロに出るよう促す。
起き上がってイルミから離れてベッドから降り、受話器を取った。
「………ゼノ? どうしたの。イルミ? いるよ。うん、今かわる」
ベッドの上のイルミを振り返り、受話器を放り投げた。
「ああ、俺。え? 別に、何も。クロロの暇つぶしに付き合ってただけだよ。………俺に用事? わかった。すぐ行く」
言って、回線を切り、イルミもベッドから降りて受話器を戻した。
「………親父の差し金かな」
憮然と言った。
「俺が、あんたに興味持ってることに気づいてたんだな。………自分の留守中に俺があんたに手出しできないよう、ゼノのジジイに俺の監視でも依頼してたらしい。でなければこんなタイミングに、しかもあんたの部屋に俺宛の電話が鳴るわけが無い――――――」
イルミはクロロを振り返った。
「………あんた、そこまでされるなんて、親父にとってよっぽど特別な存在なんだね。お袋があれだけヒステリックになるのがよくわかるよ」
言ってくるりと背を向ける。
出入り口に向かって歩きながら、
「安心していいよ。もうこんなことはしない。気が削がれちゃったよ」
そう言い残す。
「………たぶんね」
END
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後記:
一応イルクロなわけですが、隠れシルクロ(笑)
だってシルクロ好きなんです。しょうがないんです(笑)